2章の5話
射頭夢が教室で寝ていた頃―――
「なあ和也。お前一難と付き合ってるってほんとかよ?」
「何でお前急に付き合いだしたわけ? そんなにも可愛かったの?」
「木之元君。どうしてあの子と付き合うの?」
「そうよ。可愛いなら、梓の方がよっぽど可愛いでしょ?」
「梓泣いてたよ? 考え直してもいいんじゃない?」
同じ学年の生徒が多数集まって和也に質問の嵐を繰り広げていた。
和也はそれでも周りを気にせず、ずっと本を読んでいた。額に血管を浮かばせながら。
梓と言う名前は、以前和也に振られた女子の名前である。
成績は和也と並んで優秀。容姿も文句の付けようも無いほど完璧で、校内のマドンナ的存在だった。
ちなみに和也と同じく、校外でも有名な一人である。
「大体お前、どうコクられたワケよ。いつもは理由聞いておしまいなのにさ」
「そんなに煽てられたんかぁ?」
和也の沈黙には気にせず、次々と質問が飛んでくる。
それほど事は大きかったのだろう。
あのマドンナをふっといて、名も知れない一つ下の後輩と付き合うこととこった事が―――
「俺そいつ見てきたんだけど、案外普通だったぜ?」
「俺も。なんか寝てたけど可愛いとか別になんとも思わんかった」
「はぁ? それどういうこと?」
「ねぇねぇ、ホントにどうして付き合ったの?」
ついに怒りがピークに達成し―――
「……君達…いい加減五月蝿いよ」
低く低く―――何かがこみ上げるのを抑えながら口を開く。
質問していたにも関わらず、少し人が離れていく。
彼の纏っていた空気に絶えられなくなったのだろう。
噂は噂だが、暴力団に関わってると聞くほど喧嘩等に強い男だ。
彼らはそのことなどすっかり忘れて彼を質問攻めにしていたのだ。
彼の声を聞いて―――纏う空気に触れて改めて自分たちが今関わろうとしていた人物の偉大さを思い知らされる。
「ご、ごめん! 俺ちょっと調子乗ってた」
「俺も…」
「あああたしも梓の名前とか勝手に出しちゃったし…」
「ホントに、ごめんね?」
周りがそう言いだし、そそくさと自分の席へ―――教室へ帰っていく。
だが最後に残った一人が、
「じゃあさ、一つ答えて?」
「?」
天然なこの生徒は和也の許可を聞く前に質問をする。
「そのこの名前って何?」
「………岩山射頭夢」
「そう。サンキュ」
そう言い残し、先ほどの者たちのようにそそくさと自分の教室に帰っていった。
全員が自分の周りにいなくなったことを確認すると、椅子に座り直し、静かに、また本に目を向けた。
「なあ、岩山射頭夢って知ってる?」
「さあ? 俺は知んないけど?」
「和也の彼女なんだけど…」
「へえ。そんなこいたんだな…」
「………お前ら…今、岩山射頭夢って…」
「? 言ったよ」
「何? お前知ってんの?」
「………詳しくは言えんが、あんま関わらない方がいいぞ」
「…?」