2章の3話
「ああぁ…ですから先輩ごめんなさいってばぁ! シカトしないでください、そんな痛い目でこっちを見ないでください! その時点で私の心はズタボロです!」
あれからずっと射頭夢が独り言をぶつぶつ呟いており、気が付いたら学校は目の前にあり、和也のほうは完全に射頭夢の存在を消して歩いていた。
射頭夢がそれに気付いたのはついさっきの事で、今は泣き叫びながら和也にしがみついている。
「もう校門通りすぎちゃいましたよ! せっかく付き合いだしたのに、皆に私たちの愛を見せ付けられないじゃないですか! 困難じゃ昨日の事は嘘になっちゃじゃないですか! せっかく自分でも噂広げたのに! 私のこの努力は何ですか! 昨日のオナはなんだったんですか!」
ついには口では簡単に喋ってはいけない事まで言い出したので、呆れたような顔をして和也は足を止める。
射頭夢はいつの間にか半泣き状態になっており、顔をぬぐり付けていたのか、少し和也の制服が湿っている。
「うぅ、先輩…御免なさいって、言ってるじゃないですかぁ……」
ついに本気で泣き出す射頭夢。
まだ登校している生徒は見当たらないが、さすがにここに放って置くわけにはいかない。
―――一体この子は何なんだ?
どうして自分はこんな子に惹かれてしまったのか少し後悔しながら、すうと射頭夢の涙を自分の袖で拭う。
射頭夢は一瞬ビクッと体を震わせるが、静かに口を開く。
「…ぅう……セン、パ…イ……ぅごめ…な…さ…い」
「…もういいよ。 今回だけは許してあげるから、とりあえず泣くのはやめて」
ため息混じりに射頭夢を許す。
射頭夢は鼻を鳴らしながら「有り難うございます」と言い暫く黙っていた後、
「じゃ、もう大丈夫だよね。今日は委員会があるから、終わったら自分の教室で待ってて」
と言い残し、先に校舎の方に入っていった。