1章の1話
「和也先輩っ! 宜しければ、私と付き合ってもらえませんか?」
彼の――――木之元和也の目に前にいるのは1人の後輩だった。
彼女は和也との接触はあまり無く、もしかしたら面と向かって話すのは今日が初めてかもしれない。
見た目はごく普通でクラスにもよくいるタイプのように見える。前髪で顔を隠しているが、顔を赤らめているのが傍から見ても分かる。
だが、そんなことを気にすることも無く、和也はいつもの対応に取り掛かる。
「どうして、僕を?」
相手のほうも噂でよく耳にしていたのか、すぐ答えを出す。
「えっと…それは、前から見ててかっこよく……」
最後まで言わないまま口ごもり、2人の間にしばらくの沈黙が訪れる―――――
先にその沈黙を破ったのは和也の方だった。
「本当に、それだけ…?」
「え?」
次の言葉で振られると覚悟していたらしく、間抜けな声が出てしまう。だが、すぐに気を取り戻し、しっかりと和也の顔を見ながら言葉を紡ぐ。
「……言っても良いんです…か?」
「どうぞ」
「ホントに、ホントに…引くかもしれないんですよ?」
「これから振られるかもしれない相手に別に引かれてもいいんじゃない?」
その言葉を聞き、目に前の相手は考えるように手を口に添える。しかし、それも少しの間で、すぐに手を下ろす。そして、和也に向き直り口を開く――――
その一瞬見せた真剣な目に和也は惹かれ――――
「あたしの好きな人に、似てるからっ!!」
「!?」
彼女の意外な言葉に目を丸くする。
彼女――――岩山射頭夢の目は――――
これでもかという位に光っていた