3章の7話
和也の頭の中を混乱が支配した。
【それ】は一つの虫眼鏡だった―――。
名探偵が持ってそうなくらいの大きさをしており、銀の色をしたふちが太陽の光をまぶしく反射している。
「先輩? どうしたんで…ぬおおぉっ!?」
暫らく和也に抱かれていた射頭夢だったが、和也が行動を起こさない事に疑問を持ち、和也の見ている方向に目をそらした。
自分の手から転がった虫眼鏡を見た瞬間、目を見開いて素早く和也より先に虫眼鏡を手にする。
「な、何なんですかぁ!? 落ちたなら落ちたって言ってくださいよぉ!!」
頬を淡い赤に染めながら和也に怒鳴る。
和也はまだ状況を理解していないような目をして射頭夢に向き直る。
そして、誰もが思う疑問を初めに口にした。
「何で…虫眼鏡?」
そう問われ、虫眼鏡を大事そうに抱え、口を尖らせながら和也に言い訳をする。
「あ、あのですね。これは決して怪しい物じゃないんですよ? ただ仲のいい人達が持ってたので自分も持ってて…」
「僕が聞いてるのは、何で虫眼鏡を手に持ってたか」
「ううぅ……」
和也の気圧されて、射頭夢は少し後ず去る。
だがじらしていても意味が無いと判断したのか、再び和也の前に出て、膝をついている和也の前に正座をして真剣な目で話す。
「これは…私の武器です」
「?」
再び和也の頭の中を、疑問が支配した―――
「いや、あのですね。中学の時、先輩に伝授してもらって…。得意なんですよ。こう、光を集めるの」
そう説明しながら、コンクリートで出来た床に黒いコゲが出来ていく。
和也はそれを見てすぐに行動を起こす。
素早く射頭夢の手を握り、虫眼鏡を持った手を影に移動させる。
突然手を握られて顔を赤らめている射頭夢に対し、暗い顔で睨みつける。
「やめなよ。体育館が汚れる」
「あ、スンマセン」
目つきが悪いのを存分に発揮しながら低い声で射頭夢に注意する。
射頭夢は顔を青くしながら謝罪した。
暫らく黙り込んで虫眼鏡を手で弄んでいたが、はっと我に帰り和也に声をかける。
「そんな事よりもう帰りましょう! そこに居る人たちは…まあ、気絶してる程度なんで大丈夫のはずです」
「何をしたの? この子達に」
「虫眼鏡でちょっと髪を焦がしただけっすよ。『愛』『恥』『性』『笑』『禿』と、ランダムに描いてみました。……もうそこからは髪が生えてこないんですけどね。大丈夫でしょう。字、細いし。他が生えれば目立ちませんよ」
恐ろしい事を平気で言う射頭夢に少し恐怖した和也だったが、一つ、気になることに気付き、射頭夢に問いかける。
「ところでさ、君の傷は大丈夫なの? さっきと比べて全く元気になってるじゃん」
「あう。それはですね…。『保健室に連れてもらっちゃって、そのままヤっちゃおう★☆大作戦☆★!! 的なことを計画していましてね、まあ結局マイ武器が落っちゃったんで、今になっちゃったんですけど」
「……君、殴っていい?」
「イヤン! 先輩のド・エ・すぅぎぁっ!?」
言い終わる間に射頭夢の体がまたもマットに叩きつけられる。 ただ前と違った事は、和也とともに倒れた事だ。
何時のまにか射頭夢の手は和也に掴まれ抑えつけられており、仰向けに倒れている射頭夢の上に和也が被さっている形となっている。
「そんなにヤりたいなら、ヤってあげるよ」
「え?…あ、う……?」
予想外の展開に射頭夢はまともな言葉が喋れなかった。