3章の6話
和也は走っていた―――。
廊下ですれ違う生徒達が頭を下げてくるが、それを気にせず廊下を走り続ける。
かなりの速さで走っているように見えたが、彼の息は切れておらず、汗さえ見受けれない。
当の彼も冷静を保っているが、内心―――心のどこかでは焦っていた。
全力で走ったせいもあって、体育館はもう目の前にある。
勢いよく館の中に入り、ロビーを突っ切って体育館場に入っていく。
周りには誰も居なかったが、倉庫の鍵が差しっぱなしになっているのに気付き歩をそちらに進めていく。
和也は鍵の差し込んだままになっているノブに手を掛け、勢いよく扉を開ける。
落ちかけた太陽の光を浴びながら、射頭夢は立っていた。
そのまま音のしたほうに顔を向ける。
「先…ぱい?」
首を傾げながら和也に問う。
その目は焦点の合ってない、どこか空ろな目をしていた。
和也はそんな彼女をしっかり見つめ、答えを返す。
「ああ…そうだよ」
答えを聞いてかすかに彼女の瞳に光が戻る。
そして和也のほうに向きを変え、ゆっくりを歩く。
だがその力は足らず、床に崩れかける。
前のめりに倒れかける射頭夢に和也はすぐさま反応し、射頭夢を抱き支える。
ゆっくりと腰を落としながら、楽な体制をとっていく和也に微笑し、射頭夢は言葉を紡ぐ。
「先輩。…射頭夢はやりましたよ。頑張りました。…それと、言われたこと守れなくてすいません。ちゃんと言うこと聞いていれば、こんなことにはならなかったはずなのに…」
「分かったから…黙ってて?」
「…はい」
そう言ってから射頭夢は静かに目を閉じる。
よく見ると顔にはいくつもの痣があり、彼女の痛みを生々しく感じさせる。
周りを見渡すと、奥の方で数人の女子生徒が倒れているように見える。
和也は一瞬どうするか躊躇ったが、外傷のひどい射頭夢を先に運ぶことにした。
和也は片膝をついて、立ち上がろうとする。
そしたら射頭夢の手から何か銀色のものが高い音を鳴らし床に落ちる。
和也はそれを見て―――