3章の3話
「はい、じゃあ今日はもうお開きにします。最初に言った文化祭の件ですが、各クラスの室長にしっかり伝えておくよう忘れないでくださいね。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
そう言い終わって、二人の生徒だけを残してほかに生徒達は教室を出て行く。
残った二人の間に思い沈黙が流れたのだが、爾を睨みつけながら和也が声をかける。
「で、一体何なんですか。会議中何度もこっち見て…話があるんならあるって言ってくれればいいじゃないですか」
「いやー君がどれくらい僕と心が繋がっているか気になりまして。以心伝心…と、言っておきましょうか」
不吉な笑みを浮かべている爾に拳を向けて和也は物語らせる。
それを見て爾は降参というように両手を軽く上げるが、笑みは崩さない。
だがすぐ両手を下ろし肩をすくめながら和也に問い掛ける。
「君が何かに悩んでるように見えましてね。少し気になりましたので話だけは聞いてさしあげようと思いまして」
「余計なお世話です」
「そういうこと言わないでください。少しは楽になると思いますよ」
和也は訝しげな目で爾を見つめるが諦めたように今朝の事を話す。
「……そうですか。それは災難だったでしょうね…」
「どこがですか」
「彼女の方です。岩山さんですよね? そりゃ彼女なら悲しみますよ。あなたの後々の行為にも」
「どういう事ですか」
腕を組んで一人頷いている爾に目を向けながら話を続けるように促す。
「私の情報によれば彼女はかなりの異常性の持ち主です。今朝あなたがやったようなマイナーな事が認められなかったのでしょう」
「じゃあどうしてあげればよかったんですか?」
「そうですね…。最低で『愛を込めて抱きしめる』。最高で『押し倒す』。そんなところでしょうか」
「『押し倒す』ってどういう意味ですか」
「いちいち私にそのような事を喋らせないでください。興奮しますよ?」
「死んでください」
そう言ってもう用は無いというかのように部屋を出ようとする和也に爾は「待ってください」と引き止める。
「先ほどの話によると彼女…教室で待ってるはずですよね?」
「? そうですけど何か?」
「さっき廊下歩いてましたよ? 窓から見えませんでしたか? 君の愛は…所詮そんなものなんですね。ちなみに彼女にはもう一人誰かがついていました。そうですね…たしか一年の川本沙希さんでしょうか」
「何で分かるんですか」
「そりゃ、生徒会長ですから」
いい笑顔で返す爾に対し、和也は心底嫌そうな顔をする。
「そんな嫌そうな顔をしないでください。ちなみに私の情報を推測を掛け合わせますと彼女…岩山さんですが、かなり危ないと思いますよ?」
「何でです? からかうつもりなら殴りますよ」
「そういうところが好きです。………嘘ですスイマセン本当のことを話します」
「いい加減にしませんと本当に殺しますよ」
額に血管を浮かばせながら今まさに殴りかかろうとしている和也との間に距離を作りながらまた両手を挙げながら話を元に戻す。
「人間のやる事です。沢山の人に注目を浴びていた誰かさんがいきなり名も知れない一年と付き合いだしたんです。そりゃぁ嫉妬も何もありませんよ。しかも彼女達が向かっていた先なんて体育館のほかに何もありませんよ? まさに苛めをする絶好の場所じゃありませんか。漫画とかにもよくありますよ?」
「そんな事知りません」
「そんなこと言っている暇があるのでしたらさっさと彼女の所にいってさしあげなさい。私が言ったこと忘れないでくださいよ?最低でも『愛をこめて抱きしめる』ですからね」
爾の言葉を最後まで聞かず、いつの間にか和也は教室を出て行ってしまっていた。
爾はやれやれといった風に腰をおろし一人呟く。
「…とは言いましても、彼女なら大丈夫だと思うのですが」
誰にも聞こえないように、自分でも聞こえないくらい小さい声で―――
「私の情報によれば…ですけれど」