元モブ、模擬試合。お相手は?
僕と姫様は王宮内の国家騎士、国家魔導師訓練所に足を運んでいた。広さは直径500メートルぐらいの広さ。ギラギラと太陽が土で覆われている地面を照りつけ見渡す限りの荒野。
そこに鳴り響く金属音や詠唱。日夜彼らが訓練する場所だ。僕たちは邪魔にならないようにわき道を通る。
「お疲れ様ですわ」
と姫様がすれ違う騎士や魔導師に声をかけるが誰一人として頭を下げないどころか返事すら返さない。
姫様は訓練所が見渡すことができる所で立ち止まった。
「ちょっとばかしお力をお貸しくださいませ」
姫様はそう言った
ここは王宮内で唯一、一般的に公開されている場所だ。彼らに訓練の姿に憧れて入団するという効果を狙ってのことらしい。
「虹色の冒険者様がいらっしゃいましたわ」
姫様は音魔法声量増加を使い叫ぶ。声を広範囲に聞こえるようにする魔法だ。すると近くにいた騎士がいち早く絡んで来た。
「ふざけるなよ。虹色の冒険者に謝れチビと国の無能」
「チビか………なら試してみるか?デカブツ」
「チビのくせに、吠え面をかかせてやる」
僕は姫様を下がらせる。相手も姫様が下がったの確認し剣を鞘から出す。さすが国家騎士少しは心得があるようだ。少しは見直したが姫様にその態度は気にくわない。
「こいよ、俺が教育してやる」
騎士は手で招くように誘う。たまには乗ってやるか。
落ちていた剣をひろう。
「じゃぁ、遠慮なく」
地面を蹴り加速する。スピードを生かした一撃を挨拶がわりに正面から叩き込む。
「ぐぐぐ………」
手に少し重さを感じる。騎士は苦しいそうな声を出し顔には血が上っている。ギリギリ防いだようだ。なかなかやるな。
騎士はテンポを取ろうと剣から力を抜き左にずれた。少し重心が崩される。力を込めていた剣はそのままのいきよいで地面へと振り下ろされ、騎士が元いた場所には鼓膜が破れるのではないかと思われるほどの音と共に直径十メートルほどのクレーターができた。
騎士は正面からでは負けを悟ったのかサイドから剣を斬りつける。
「障壁」
それを防御魔法で防ぐ。少し危なかった。まぁ一割も力を出してないけどな。
騎士がバックステップで一度引く。不意に騎士は試合中にも関わらず話しかけて来た。
「あなたの実力すら見抜けず申し訳ありません。私は国家騎士団長アスギア・ドレイクと申します。あなたの実力に敬意を評し模擬試合を申し込み本気でいかせてもらいます」
騎士は剣を空高く掲げ叫ぶ。魔法探知能力が騎士団長の剣や体から出ている魔力を検知する。少しやばそうだ。騎士団長は剣を体の前に構える。
「お手合わせよろしくお願いします」
騎士団長は一瞬にして間合いを詰める。瞬きをした瞬間を狙われた。目を開けると騎士団長の顔がすぐ近くに捉えられる。空間把握能力に追いついてきた。
「障壁、強化」
とっさに防御魔法と付与魔法を両手で同時に発動しながら防御魔法に付与魔法をつける。
「防御無効化」
騎士団長の剣を覆う魔力が膨れ上がり防御魔法を粉々にした。それにはダメージを覚悟した。しかし僕には騎士団長の剣はどどかなかった。正確には追撃する前に騎士団長は膝をつき倒れたからだ。
「私の負けです」
騎士団長の降伏と共に模擬試合は終了した。騎士団長は汗がダラダラと流れる。ただ疲れているのではない、おそらく魔力欠乏症だろ。理由は簡単だ。攻剣技防御無効化は相手の防御魔法の魔力の半分の魔力を使用することにより破壊を可能にする。
しかし騎士団長は騎士であるがおそらく魔力量は決して少くない。魔力量だけなら国家魔導師と比べても上位に位置するだろう。なら、なぜ魔力欠乏症になったのか。それは言うまでもなく僕の防御魔法と付与魔法に使用した魔力が騎士団長の全魔力量に等しかったと言うわけだ。少し落ち着いた騎士団長はこうつぶやいた。
「あれほど強い防御魔法は初めてです」
騎士団長は尊敬のような眼差しをしてくるが先ほどの戦いで何が起こったまでは気づいていない。騎士団長は攻剣技防御無効化の詳しい効果までは理解していないのだろう。ボロが出るところだった。
「お二方とも素晴らしい模擬試合でしたわ」
「ありがとうございます」
騎士団長は姫様にそう答え、自然に握手を要求してきた。俺はだけでなく姫様にもだ。
「アリス様はとんでもない推薦者を見つけられましたね。 」
「ええ、諦めなかった結果ですわ」
騎士団長だけでなく模擬試合を見ていた国家騎士、国家魔導師までもが膝をつき僕たちに敬意を表した。
場所は変わりこの前お茶会をしていた客室に相変わらず絶視を使い移動してきた。姫様は先ほどからご機嫌だ。
紅茶に砂糖を一つ、また一つと無意識に足している。
「作戦通りですわ。少しうまく行き過ぎの気がしますけど」
やっぱりわざと僕を訓練所に連れてきたんだ。そんな気もしていた。姫様が紅茶を飲む。
「メイド、この紅茶甘すぎなくて?」
姫様自身が砂糖をたくさん入れたのに気づかずメイドを注意している。よほど浮かれているのかも。
「姫様、安心するのは早いですよ」
僕の言葉で姫様は自分が浮かれているに気づいたようで、深呼吸をした。
「国家騎士または国家魔導師にシュウイチ様の名前を広めるために行ったですわ」
と姫様が自慢げに教えてくれた。無表情だ。もうそろそろ笑みを浮かべてくれたっていいんじゃないかな……
「明日からは本当に護衛してもらいますわ」
「わかりました」
何から姫様を守るんだろ。ずっとつけてくるやつはいるけど敵意はなさそうだし……。ずっと見られてるのなんかいやだな。体がなぜかムズムズする。
それと僕の攻撃を受け止める直前に国家騎士と騎士団長が入れ替わったけど気づいてないふりしたのばれてるかな?と気になったのであった。
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