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明日は自分の力で…  作者: よしあき煎餅
8/12

08_知りたいこと

「まて!!」


石像の方から声が聞こえる。


「えっ。」

「イタズラして悪かったな。だからその『アコロン』をくれ。わしの好物なんだ。」

「えっええええ!と、鳥がしゃべったああああ。」


隼人は驚きのあまり再び尻餅をついた。


「はっはははぁ。長いこと生きてれば人の言葉くらい使えるようになるさ。不思議なことじゃない。」

「でも…そんなこと・・・。」

「デモもへちまも後で話してやるから、ささはよよこせ!早くしないとおぬしの頭を間違って食ってしまうぞ。」

「は、はい。」


隼人は慌てて皿の中に残りの『アコロン』を入れた。


びゅー、びゅー


またあの風だ。でも今回は規模が小さい。

身構えたが、隼人の体には風がおそってこない。石像のくちばしと皿の間に小さな竜巻のようなものが見える。風が目に見えるほどに集まり渦を形成している。驚いている隼人の目の前で『アコロン』が石像に吸い込まれた。


「えぇぇ、なにそれ。つむじ風みたい。」

「なんじゃ。おぬしこんな子供だましに驚きおって。」

「えっ、だって風がびゅーって、お菓子がスポーンって…。」

「はっははは。愉快な奴じゃのぉ。」


石像は豪快に笑って見せた。


「だって、こんなことあり得ないもの。鳥と会話してるし、風が不自然にふいたり…。」

「なぜあり得ないと決めつける。世界はおぬしが知っていることが全てではないだけじゃ。」

「じゃ、教えてください。あなたは何者なんですか。もうここにきてから訳が分からない事ばかり…。」


隼人はうつむき地面を見つめている。


「はっははは。わしは『リタカベ』と呼ばれておる、今はな。」

「今は?」


隼人が顔をあげると、リタカベはコクリと頷いたように見えた。


「そう、長いこと生きておるからいろんな呼び名があった。昔は、むかしは……何だったかな。いちいち覚えてないわい。」

「…」

「そ、それはそうとお主はなぜここに来たのじゃ。アコロンを持っているということは、迷い込んだ訳ではあるまい。」


リタカベは少しばつが悪そうにしながら話題を変えた。


「ああ、えっと、エレーヌさんがここにいけば何かがわかるだろうって。記憶が…いろんな話を聞けば何か思い出すだろうって。」

「エレーヌ?おお、あの娘っこか。あの娘が作るアコロンは一度食べたら忘れられん味じゃ。もうないのか?」

「もうありません。売り切れです。」


隼人はアコロンの入っていた袋を逆さまにしてみせた。


「残念じゃ。もっと味わって食べればよかったのぉ。まあよい。それで、なにが知りたい?」

「知りたいことは…自分が誰なのか知りたいんです。」


リタカベは怪訝な顔を向けた。


「おかしなことを言うやつじゃな。自分のことは自分がよく知っておろうに。」

「それがなにも思い出せないんです。」

「何もかもか。ならば名前は?」

三神隼人みかみはやとです。」

年齢としは?」

「21才です。」

「まだまだヒヨッコじゃな。故郷くには?」

「ひ、ヒヨッコって。生まれは、にほ…ジャパニです。」

「なんじゃ、全部覚えておるじゃないか。後はなにが思い出せないんじゃ?」


リタカベは困った様子だ。隼人も困ったことになった。

少しの沈黙が流れ、耐えきれなくなった隼人は、気になっていたことを訪ねてみた。


「そ、そういえばさっきの小さなつむじ風は何なんだったんですか。」

「あれはウィルじゃ。さっきも不思議そうに見ていたが、もしかして初めてか?」

「はい、もちろんです。僕のいたせか…故郷ではみたことありません。」

「おかしいのぉ。ここラセーヌ王国とその近辺では、ウィル(・・・)は広く知られておるんじゃが。おぬしの年齢で知らんとは…もしやおぬし…」


リタカベの眼光が鋭く隼人を捉えた。隼人は胸を打つ音が強く、そして速くなっていくのを感じていた。


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