06_出会い1
「なんだか慌ただしい朝食になってしまったなぁ。」
隼人は最後の一口を飲み込むと、
「ごちそうさまでした。」
両手を合わせて感謝の気持ちを口のする。
空になった食器を載せて再び厨房の方へ歩き出した。
「すみませーん。これ・・・」
「はーい、はいはい。んっ?またおかわり?」
先ほどの女性が奥から笑顔でやってきた。
「いいえ、もうおなかいっぱいで、美味しかったです。」
「ありがとう。・・・ってそれを伝えにきたの?」
「え、あ、まあ・・・。食器はどこに返せばいいですか。」
「えっ!食器は私が片付けに回るからテーブルに残しててよかったのよ。」
「ああ、そうなんですか。でも、これだけ数あると大変ですよね。僕のところでは食べた人が返却するから、つい同じだと。」
隼人は部屋のテーブルを見渡しながら言う。
「そうなのよ。ありがとう、運んできてくれて。」
女性はお盆に乗った食器を隼人から受け取ると、
「そういえばあなた、変わった習慣を持ってるのね。このあたりの人間じゃないわね。あなた故郷はどちらなの?」
女性はいたずらっぽい笑顔を見せながら隼人を見つめた。「私は名探偵よ」っといわんばかりの自信を含んで見える。
「えっ!」
昨日、いや正確には一昨日になるのだろうか、これまでの不思議な体験がよみがえってくる。そして、「もしかして僕は…なの?」と言う馬鹿げた考えが色濃くなっていくのを感じた。
動揺を悟られまいと何とか笑顔を作りながら『入隊希望届』に書いてあった出身地を告げることにした。
「あ、そ、そうなんですよ。『ジャポニ』から最近こっちにきたもので・・・。」
女性の顔が徐々に強ばっていく。もしかして間違った答えだったのか。不安は増していく、女性は何かを考えているようで…。
「やっぱりね。私の観察眼からは逃れられないのよ。」
女性は満足げな表情でどや顔である。
「東の方にある小さな島よね。最近、大きな橋が架かったからもう島といえるのかどうか。よね?」
「え、あ、はいそうです。大きな橋が出来ました。」
東の方の島?橋?何のことだかさっぱりわからないが、合わせておいた方がいい気がする。
「こちらへは何をしにきたの?ご旅行?それともお仕事?」
「えっと、何をしに…きたのかな?」
「…」
怪しまれてる、確実に不審者を見る目になっている。
「にゅ、入隊を希望したみたいです。」
「したみたい?親に言われたの?」
「いいえ。」
「友達に誘われた?」
「いいえ。」
「彼女にふられた?」
「えっ!何でわかるんですか。…ではなくて覚えていないんです。『入隊希望届』もあるし、試験も受けたのでそうだと思います。たぶん…。」
「覚えてないの?記憶喪失かしらね?試験で怪我をしたのならきっと頭を打ってそれで思い出せないのよ。」
「はあ、それならいいのですが…。」
女性は腕組みして考えている。自分のことのように考えてくれている。
「この国の名前は?お后様のお名前は?それなら『リタカベ』は分かる?」
「え、あ、あ、わかりません。ごめんなさい。」
矢継ぎ早な質問に隼人は圧倒されてしまった。
「ちょっと重症ね。どうしたらいいのかしら。いろんな人と会ってはなせば何か思い出すかもね。」
「話すと言っても誰も知っている人がいないから。」
「分かった!それなら適任者がいるわ。」
「誰ですか?」
「いいから、いいから。さ、これを持っていってね。大好物だからいっぱいお話が聞けるわよ。」
「好物って…どういうこと?」
うながされるまま袋に入った丸いお菓子?を受け取った。
「あっちの扉を出て、並木のトンネルの中間あたりに横道があるから。あとはいけばわかるわ。」
女性は隼人が入ってきた扉を指差しながら微笑んだ。
「は、はあ。」
「じゃあね、何かわかったらまたここにきてね。いくらでも相談にのるから。それから、エレーヌよ。私の名前、覚えといてね。」
「いろいろありがとうございました。エレーヌさん、また来ます。」
隼人は手を振るエレーヌに軽く頭を下げながら教えられたらドアに向かって歩き出した。
「あら、いらっしゃい。今朝は早いのね。」
隼人が離れた場所の方から元気なエレーヌの声が聞こえる。新たな来客があったようだ。