05_うわさ話
空腹のおなかは朝食をぺろりと平らげても、まだまだ足りない様子で「きゅるるぅ」とすねた音を奏でている。
「おかわり、もらおうかなぁ」
ベットから降りて柔らかな布靴をはき、お盆を片手に先ほどの女性の後を追うように進んでいく。
部屋を出ると中庭のような木々の並木が現れ、石畳が道を示している。並木トンネルの向こうからは静かな話し声が聞こえ、誘われるように進んでいく。並木を抜けた先には『食堂』と書かれた扉があり、『ご利用できます』と札が下がっていた。
恐る恐る扉を押して中に入っていと、大きくなった話し声や食器の音が隼人を迎え入れてくれる。中は丸テーブルと椅子がいくつも並んでいて、一辺の壁づたいに三つの区切られたスペースがあり、中にはそれぞれ厨房が見える。
「フードコートみたいだなぁ」
隼人の口からまっすぐな感想が漏れた。
ドンッ
「いてっ。」
「あら、ごめんなさい。お怪我はないですか。」
「え、あ、だ、大丈夫です。」
「それはよかったは。では失礼します。
入り口で惚けていた隼人は、勢いよく開いた扉から不意打ちを食らってしまう。扉を開けた人物は軽く頭を下げると、人々が集まる厨房の方へ歩いていった。隼人もあとを追うように歩き出したのべ二度目の不意打ちは回避できた。
食堂に入ってすぐに感じていた美味しい香りは、厨房へ近づくにつれて強くなった。数人が列をつくっており最後尾に並び、改めて部屋の中を見渡した。包帯を巻いた人や杖を片手に弱々しく歩く人などがいる一方で、商人とおぼしきグループや兵士らしい格好の一団もいる。
「次、お待ちのかたぁ。こちらへどうぞ。」
いつの間にか列の先頭になっていた隼人を厨房の中の女性が手招きしている。
「あら、あなたは…ハヤタさん?」
「えっ、いえ隼人です。」
「あはは。ハヤトさんね。わかってますよ。」
「…」
この人はちょっとおもしろいかもしれん
なない。
「おかわりですか?」
にこやかに笑いながら話を変えてきた。
「ぐぅぅ~」
隼人が返事を返す前にお腹が返事した。
「大盛りにしましょうね。」
「…お願いします。」
赤くなった顔を隠すように下を向きながら食器を渡した。
「はい、足りなかったらまた来てね。」
「は、はい。」
重たくなったお盆を持って近くのいすに腰掛けた。
「いただきます。」
隼人は手を合わせてから食べ始める。先ほど一杯目を食べたハズなのにスルスルと入ってくる。こんなに大食漢だったかなぁなどと考えてしまう。
「相席、いいですかな。」
「ああ、どうぞ。」
行商の商人だろうか、六人組の集団が隼人の隣の席を陣取った。テーブルは四人掛けで余った二人が隼人と共にテーブルを囲むことになる。
「調子はどうだい。」
「いやぁ、お陰様で何とかなってる、くらいのものだよ。」
同じテーブルに座った二人の会話が聞くともなしに耳に入ってくる。食事中の商売人たちは情報共有の時間を無駄にしない。さすがである。
「最近、武術大会が頻繁に行われるもので商売には嬉しいことなんだが…。ちょっと気になるうわさを耳にしたんだよ。」
「なんだい。うわさって。」
「いやね、武術大会がそのまま国防隊の選抜試験に使われているって聞いたもんでさぁ。」
「へぇ、別にいいんじゃないの。もしもの時は国を守ってくれるんだから。強い人材を集めておきたいんじゃないの。」
「でもよ、ここ十年くらい何も発生してないんだぜ。アイツらも現れてないし。街や城壁の修理をするのにあんなに増員しなくても…」
「まさか、またアイツらがくるとでも言うのかよ。別な世界から来たとかうわさだったが。もう全部討伐されたんだろ…違うのか。」
「…」
「…」
「まさかな、そんなこと…。」
「そ、そんなわけないさ。だって、・・」
二人の顔が少し曇った気がする。「何かが始まるのだろうか?」と思案してみたが、わかるはずもない。
「おいっ。いつまで下らなことくっちゃべってんだ。いくぞっ。」
隣の席の四人組は食事を終えて席を立っていた。怒鳴られた二人は残りを急いでかき込むと少々むせながら小走りで出て行った。