03_夢の中?
チュンチュン...ピュー...チュン
暖かな陽気のなかを小鳥が忙しく動き回っている。建物の窓や出入口は開け放たれ、時折優しい風が通りすぎていく。
隼人はぼんやりと天井を見つめていた。
いつまでも浸っていたいと思うような静かな雰囲気を慌ただしい声がかき消した。
「せ、せんせぇ。なんとかしてくれ」
両脇を抱えられた男が入ってきた。腕には真っ赤に染まった布が巻き付けてある。顔は青ざめて眼はキョロキョロとさ迷って焦点が定まらない。
「こっちにつれてこいっ」
奥の部屋から野太い声が聞こえる。
男たちは駆けるように部屋へ入ると中央に置かれた診察台へと包帯の男を寝かせた。
「お前たちは外へ出てろ」
先生と呼ばれた男は白衣をまといながら付き添いの男たちを追い出した。
「大丈夫かなぁ。」
追い出された男の片方が不安げな表情をみせながら呟いた。
「ドクトゥル先生に任せておけば大丈夫さ。」
もう片方の男は自信ありげに答える。
「でも...あんなひどい怪我」
「大丈夫だ。これを見てみろ」
そう言って自信ありげな男は自身の左足をポンポンと叩き古い傷跡を見せた。
膝の上辺りに色の違う皮膚が見て取れる。
「あのときは自分でも駄目だと思ったよ。思い出しただけでめまいがする。」
「お前もあんな大ケガをしたのか。」
「ああ、ガキの頃にな。何もわかっちゃいないあまちゃんだった。だから、先生には感謝してもしきれねぇ。あいつもきっと大丈夫だ。」
自信ありげな男は遠くを見つめている。胸にぶら下げた袋から巻きタバコを取り出すと左手に意識を集中させる。指先が赤く染まるとタバコを近づけて火を着けた。
「手術は間違いねぇ。もと患者の俺が言うんだから...ただ...その後が...」自信ありげな男は目が泳いでいる。
ガチャ
奥の部屋のドアが乱暴に開いた。
「たっく、そんなところでゴチャゴチャ話してっと五月蝿くて集中できねぇだろうがっ。」
ドクトゥルに一喝され二人は直立の姿勢になった。
「それから…俺の仕事場で煙草をふかしてんじゃねぇよ。ここは一応病院だぞ。」
そう言いながらドクトゥルは自信ありげな男から煙草をひったくり歩いていく。
「ドクトゥル先生、アイツは、エレルは。腕は動くようになるんですか。」
「腕はくっつけてやった。完璧にな。だが、そのあとは俺の仕事じゃない。わかってるだろコンシュアン。それとも、もう忘れちまったのか。」
コンシュアンと呼ばれた自信ありげな男は目に涙を浮かべて、ドクトゥルを見つめている。それを確認するとドクトゥルは煙草をふかしながら建物から出ていった。
二人が主のいなくなった奥の部屋を覗くと、腕に清潔な包帯を巻かれたエレルが微かに寝息をたてて眠っているのが見えた。
彼はこれから始まるであろう地獄のようなリハビリを知る由もない。
コンシュアンは胸の奥に蘇る悪夢と闘っていた。