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明日は自分の力で…  作者: よしあき煎餅
2/12

02_ここはどこ

誰かが叫んでいる。


「おい!」


その声は自分に向けられているようだ。声に重さなど感じるはずがない。でも、その声は僕の体をドンドンと叩いているかのようだった。


「おい君。大丈夫か。立てるか、」


隼人は目を開けたが強い光に当てられてすぐに閉じる。


「眩しいな。ライト近づけすぎですよ」


背中と腰の痛み、目の前に見えた強い光で咄嗟に言葉がでた。

警備の人だろうか。夜中に派手な音を立てたものだから見回りに来たのかもしれない。


「大丈夫です。転んだだけですから。それより、ライト。ライトが眩しいです。」


「ライト?何を言っているんだい。頭を打ったんじゃないのか。」


「いえ、大丈夫です。」


瞼を閉じたままでも光が熱量に変換されて隼人の目を刺激している。


「大丈夫なら立ち上がり、構えなさい。」


「えっ?何?構える?」


妙なことを言う警備員だなぁ、などと思いながら身体をひねって四つん這いの状態になる。途中左手の盾が地面とこすれてジャリ、ジャリと音を立てた。


「ん?」


地面に立てた手のひらに、尖った何かで刺される痛みがあった。掃除はしたはずなのに…。隼人は恐る恐る目を開いた。


「え?何で。」


視界から飛び込んできた情報と記憶が合致しない。


「ここは…どこ。」


「何を言っているんだ、ここは試験会場だろ。早く立ち上がり、構えなさい。」


隼人の独り言のような声に先ほどの声が反応した。


目の前の地面は白っぽく光を反射している。まるで小学校の校庭にはいつくばっているようだ。


カン、キン


ドンドン、ドサッ


「よし、そこまで。」


自分の意識とは別の存在であるかのように五感は周りの情報を次々と知らせてくる。周りが騒がしい。頭を上げて音のする方向に視線を移すと、


「人影?」


少し離れたところに4人集まっている。ひとりは両手を上げて何かを叫んでいるようだ。その足下には力なく横たわる人を揺すり、声をかけているようだ。


「君、本当に大丈夫なのか。」


背後から怒気の混じった声が聞こえた。


立ち上がり、その声の主に一言叫ぼうと振り向いた。


「うるさ…い、な…」


白い布を巻いたような服装に鈍く光る胸当てをつけた男がこちらを見つめている。


「構えて!」


叫ぶように告げると腕を胸の前で交差させるような仕草をした。その合図と同時にドドドドと地鳴りにもにた足音が聞こえる。足音の方向に顔を向けると大きな影が近づいてきた。


「おい、おい、おい。どういうことだよ。」


悲鳴にもにた声を上げ逃げようとするが、足が動かない。足音の男は丸太のような腕を振り上げ、こちらへ向かってくる。


腰が引けた隼人に丸太の腕を振り下ろす。咄嗟に両方の腕で顔を覆い縮こまった。


「うげぇ」


我ながらみっともないうめき声が出たものだ。男の力に押し負け自分の腕で顔を殴ってしまう。


「クソッ!何がどうなってるんだよ。」


僕の力いっぱいの叫びに答えるものなどいない。


「うおおおぉ。」


目の前の男が雄叫びを上げながら、丸太の腕をこれでもかと振り回す。


頭の中は混乱していても動物本来の本能がそうさせるのか、身を堅く縮こまらせる。


「はあ、はあ、はあ」


すでに何発殴られたかわからない。直撃していないのに、腕は赤く腫れ上がり力が入らなくなってきた。


嵐のように打ちつけられていた拳の音がやみ、腕への圧力が消え隼人は一瞬気を抜いた。その直後、風切り音をお供につれた丸太の腕が、防御の薄くなった隼人の横っ腹にめり込んだ。


「ぐふっ」


今までに味わったことのない痛みが全身を駆け巡り隼人の意識を奪っていった。隼人の体は空中で1回転半周り地面に着地した。


「…」


隼人の耳には観客たちの悲鳴や歓声は届いていない。もちろん丸太腕の男が勝利の雄叫びを上げていることなど想像もできなかった。

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