表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「趙雲の気まぐれ短編集」  作者: 趙雲
片桐組の淡恋-黒河月道-
9/69

「片桐組の淡恋(たんれん)-黒河月道ルート第3話-」

月道くんの過去について、ほんの少しだけ分かってきます。

本編連動箇所はありませんが、あことしさんと月道くんには埋まらない溝があるようです。


※約4,000字です。

2008年6月中旬 夕方

片桐組 鷹階 月道くん&永吉くんの部屋

(れん)



 次の日、藤堂エースに言われた通りに部屋の前に行くと、なんと月道くんが出迎えてくれたのだ。

一体何をしたんだろう……?

ある意味危険人物?

そう首を捻りながらも、私は2人の部屋に足を踏み入れた。

それから私は月道くんのベッドの縁に座り、

「昨日はごめんなさい」

と、すぐに謝罪の言葉を口にし頭を下げると、月道くんは首を横に振り、

「俺こそ言いすぎたけど、そういう可能性はあったから」

と、口を濁して言うのは、この業界の醜いところを知っているからこその発言だった。

だから、年月が経って血が固まって黒くなったような彼の瞳の色に恐怖を覚えた。

「あ、あのさ……恋。水たまりを見つめてたあことしさんに話聞いたら、本当に話を聞きたかっただけだって……」

永吉くんは、隣のベッドから横槍を入れてくれた。

おい、その前に私に謝ろうとか無いのか。

……なんて、特有の短気が発動しそうになったけど、ぐっと堪えた。

「そうだよね……」

と、私が月道くんから目を逸らして呟くと、月道くんは台所に大量に置いてあるクロワッサンを取りに行き、私に1つ手渡しながら、

「1つの面しか見ないのは危険だから。……それくらい、烏階だから分かると思うけど」

と、いつも通りの冷たい声色で言う彼には、なんだろう……安心しちゃう。

私はクロワッサンを手でちぎって食べながら、

「うん……ありがとう」

と、じんわりと温まるまま笑顔で言うと、月道くんは小さく頷いた。

 すると永吉くんは、ようやく私に本を破ったことを謝り、

「あのあと、司書にちゃーんと弁当したんだよ! だから許してくれよ……! あと月道、クロワッサンちょーだい!」

と、トンチンカンなことを言い出すから、私は吹きだしちゃったけど、月道くんは呆れた表情を浮かべるだけであげる気配無し。

ふふっ、だって……弁当って何さ?

「はいはい、ありがとありがと!」

それだからか、私も怒る気なんて起きなかったんだと思う。


 それに月道くんのクロワッサンをちぎる手つきが、何だか10歳とは思えない程色っぽくて夢中になっていたこともあるし!

何でなんだろうね……ヨルガオみたいに妖艶で、というよりも彼そのものがヨルガオにしか見えない。

すると月道くんは3つ目のクロワッサンを食べ終えたところで、私の方に向き直り、

「……じっとしてて」

と、ビロードのような深い闇に包まれた目で、口元を小指で器用に拭われて…………私は一瞬の筈だけど黒目が行方不明になった。

「変な顔しないでよ」

でも月道くんには見られていたみたいで、唇へと向けていた指をティッシュで拭いてしまった。

私はそのまま彼の長くてしなやかな指を見ていると、永吉くんがぶっと吹きだし、

「ほんっとお似合いだな!」

なんて冷やかしてきたから、月道くんなら無視するか適当にあしらうのかなって思ったのだけど、私と目が合ったときに若干照れていたような……?

まさかね!

気のせい、気のせい!

月道くんは、私みたいな女の子はタイプじゃなさそうだし、もっと強い人が好きそうだし……こんなカウンセラーかぶれは嫌だろうな。

「あー……私、あことしさんに謝ってこなきゃ!」

そんな暗い気持ちを払拭するように膝を叩いて立ち上がると、永吉くんが一緒に行くと言いながら後ろをついて来た。

だけど月道くんは、小さく頷いて見送るだけだった。

なんだ…………嫌だったんだ。


 私は若干心が欠けたような気持ちを引きずり、あことしさんが居ると思われる部屋の扉をノックすると、あたたかく迎えられた。

部屋はエース以外全員同じように、入り口すぐに洗面所やお風呂があり、角を曲がるとキッチン、2つのシングルベッドと、向かい側に箪笥とウォークインクローゼット、そして窓付近にソファがあるよ。

でも月道くんは、永吉くんに気を遣って部屋を移動していないから、今でも一緒なんだ。

「あことしさん……あの」

私はソファに寝転がる、相棒で象階に所属するゆーひょんに会釈してから部屋に入ると、あことしさんは自分のベッドに腰かけた。

「謝らないでいいよ! そう思われたって仕方ないよ……」

あことしさんは眉を下げて微笑むと、ゆーひょんさんに視線を遣った。

「そうね、黒河はズバズバ言う子だけど、家族に問題があるらしいわよ」

ゆーひょんさんは寝転がったまま欠伸混じりに言うと、顔に近くにあった新聞を乗っけてしまった。

その様子を一瞥したあことしさんは、肩をすくめてから、

「ゆーひょんはああ言うけど、まぁ……俺は恋ちゃんに酷い事言ったりしないよ?」

と、ベッドの上にトランプを並べながら、口の端をクイと上げるあことしさん。

この並べ方は……ポーカー。

何で私が得意なことを知っているの……?

う~ん、月道くんにしか言ってないから、もしかしたら謝ったときにでも訊かれたのかな?

すると永吉くんが私の肩をポンポンと叩き、

「あことしさんって、賭け事めっちゃ強いらしいぜ。だからさ……もう、帰っておこうよ。あいつの誕生日の準備もしなきゃだろ?」

と、いつもはおバカなことを言う永吉くんが、珍しく小声でこんなことを言うんだよ?

これは素人に毛が生えた程度の私が敵わないということだ……。

私は胸の前で手を振って、

「いえ、それはまた今度! ちょっと、その……月道くんにご飯作り置きしないと、その――」

と、冷や汗が止めどなく流れる中咄嗟の嘘を吐いていると、あことしさんはトランプに当たらないようにベッドに両手を叩きつけた。

「……ははっ、ごめんね。出て行ってくれるかな?」

あことしさんは、苦しそうに喉元を押さえながら言うと、無理に笑顔を作った。

「……」

私はどうしてここまで月道くんを敵視するのか、どうしても……分からなかった。

とはいっても、予想は出来ているけど……その予想はあまりにも残酷だったから、その場を後にしたんだ。

 それから私はこっそり祝おうと思っていた月道くんの誕生日に、ついに月道くんの過去の片鱗をうかがい知ることになったんだ。



2008年9月6日 夜

高級クラブ街

(れん)



 どうしてこんな場所に居るのかって?

そりゃあれよ……永吉くんと一緒に夜這いでもして驚かせようと思っていたのに、どこにも居ないから藤堂エースに場所を訊いたの。

それにしても何で11歳になった彼がこんなところに行くのさ?

金座の一等地に建っている高級クラブって言われても…………描写しようがないんだけど。

外見は普通のビルっぽいところだし、強いて言えば出てくるお客さんたちが明らかに富裕層ってぐらいかな?

私と永吉くんは、すぐ側の電柱に身を隠していたのだけど、そう言えば駅から後を追っていた筈の月道くんが居ない……?

「ねぇ」

2人して後ろから月道くんに話しかけられ、ギョッとしてしまっていた。

「居たんだ……」

私がボソッと消え入るような声で言うと、月道くんは眉を下げて溜息をつく。

「当たり前。そんな下手な尾行、初めて見たけど……とにかく帰って」

だけど月道くんは私たちの背中をトンと押すと、ズカズカと高級クラブへ入っていってしまった。

「……」

「……」

ま、頭の弱い私たちが何を考えるかはお分かりでしょう。

このまま帰る…………訳がない!!

「だよね!」

「だよな~!」

だからこそ、2人でしばらく目を合わせて言う事はこれで十分。

 するとすぐにクラブの入口から、月道くんと物凄い綺麗でガーベラっぽい崇高な美しさすら感じる女性が出てきた。

多分クラブの人だと思うけど、どこか切れ長な目とか端正で鼻筋が通っているところとか月道くんに似ている。

八重咲の着物も似合っているし、背も170cmぐらいあって恰好いい。

髪は黒髪で月道くんと同じように1本に結んでいるから、傍から見ると親子に見える!

「おぉ……」

それだからか、永吉くんも思わず鼻の下を伸ばしている。

全く、これだから男の子は嫌なのよね……って思う前に鼻の下を触って慌てて戻したんだよね。

「月道よりも背高いし、着物なのに色っぽく見える!」

だけど永吉くんは伸びきった鼻の下も厭わずに、電柱の影から声を潜めてはいるけど鼻息を荒くしながら言う。

「ったく、当たり前でしょうが」

私は後ろからペチと後頭部を叩くと、2人の様子を注視した。

月道くんは腕を組み、女性を見上げ眉を吊り上げている。

それとは対照的に女性は同じように腕は組んでいるが、月道くんを氷のような目線を浴びせている。

 すると月道くんは、女性に掴みかかろうと一歩踏み出し、

「俺は……父親を教えて貰いに来ただけ!」

と、彼にしては珍しく声を荒げた。

やっぱりあの人は、月道くんのお母さん……?

そう言えば、ご家族の話は聞いたことが無かったような?

「えっ、おい今の……」

永吉くんも知らなかったらしく、私の方を振り返って月道くんを指差す。

「ね……どういうことなんだろう」

私も状況が呑み込めず、とりあえず携帯のメモに打ち込むだけにしておいた。

明日にでも藤堂エースに訊いてみよう。

「とりあえず、今日はもう遅いし月道くんにバレるとマズいから、帰ろうか……」

私はメモをし終えると、食い入るように現場を見つめる永吉くんの背中をポンポンと叩いて言った。

「う~ん、恋がそう言うならしゃあないか~」

と、若干不服そうだったけど、何とか片桐組に連れ帰ることが出来た。

私も両親に怒られはしたぐらい……怖かったけどね。



 朝を迎えて学校に行っても、やっぱり月道くんの事が気になって気になって仕方が無かった。

結局教えてもらったかどうかも分からないし、どうやってお母さんの居場所を突き止めたのかも知らない。

そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、今日も片桐組へと向かった。

あ~本人が部屋に居てくれたら、居なくとも永吉くんに事情を話してくれてれば、聞きだすまで!

「はぁ……」

私は重いような、軽いような複雑な面持ちで鷹階の前まで来たのだけど、私の横を腰程まである長い艶のある黒髪を靡かせ、颯爽と歩き去る月道くんのお母さんのような美人に目がいった。

だけど絶対あの人ではない……何だろう、心がざわつく。

綺麗な女性だけど、何か覚悟を持っていたような……?

私は引き止めることも出来ず、ただ女性を見えなくなるまで目で追っていた。

恋です。

月道くん、本当に嘘つかないから……ちゃんと信じてあげれば良かったんだよね。

本当に反省しています。


さて、緊急にも関わらず読んでいただいてありがとうございます!

次回投稿日は、10月21日(土)か22日(日)になります。

それでは、良い週末を!


恋でしたー!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ