「片桐組の淡恋(たんれん)-黒河月道ルート-」
Twitterにて、うちの子を恋愛ゲームで攻略するなら誰にする?というタグを見つけ、即座に小説にしてしまおうと思いました。
ですが生憎絵が描けない為、友人に候補を何人か挙げてもらい、ルーレットアプリで決めさせていただきました。
黒河月道ルートは、本編『騅-後醍醐のもう1人の息子-』とも絡んできます。
本編を読んでいない方は、ネタバレ注意です。
ヒロインに恋を抜擢した理由は、本編で何故彼女が入隊したのかを描いていないからです。
続編で明かす予定でしたが、黒河月道ルートということならと……明かすことに致しました。
ちなみに全5話で、最終話で分岐有(Bad or Happy)なのでお楽しみに!
※本編内容有。ネタバレ注意
※約4,400字です
※本編連動箇所:「明かされし真実」 黒河月道視点
2005年11月中旬ごろ
片桐組 総長室
恋
子どもの頃から、誰かの役に立ったり、誰かを元気付けたり、相談をしてもらえるような……人の為になる仕事がしたかった。
それで武器も使えたら恰好いいからって、ずっと情報屋になりたかった。
聞けば片桐組は医療にも携われるし、カウンセラーの道もある。それに警察の役割もするって。
それなら、少しでも殺す事を仕事にする隊員を支えたい。
でも藍竜組を含めた他の組に、”カウンセラー1本は不可”とか”武器不携帯”という理由で何か月も落とされ続けてて、最後に残ったのが片桐組。
そんな状況で肩を落としていた私を拾ってくれた片桐総長には、本当に感謝はしているんだ。
それで片桐総長は私の話を聞くなり、当時8歳で一般家庭出身だから名家でも何でも無いのに簡単な履歴書と志望動機で合格にしてくださった。
あぁそうだった、何でこのタイミングなのかは、思ったらすぐ行動しちゃうからなんだよね!
でもまぁ、これにはしっかり理由があるんだよねぇ……。
それは未だに藤堂さんには言えていないこと。
……ていうか、誰にも言えてないこと!
面談と待遇説明が終わった後、総長は徐に社長机のような重厚な机の前に立つ私に視線を遣ると、
「藤堂からすが除隊や謀反など怪しい動きをしないよう、お前が見張れ。恋。今日からお前はエースインフォーマーである藤堂の直属の部下だ」
と、地響きのするような重く低い声で言うと、バタフライナイフと革製のカバーを机の端に置いた。
「……」
私は状況が呑み込めなくて、バタフライナイフをじっと見つめていたんだ。
言葉の意味は大体分かるけど、どうして私なのかな? とか、見張らないといけないほど危ない人なのかな?
エースインフォーマーって何だよ……とかね。
直属の意味も正直このとき知らなかったし。
だからきっと私は眉を潜めて、片方の頬を膨らませていたんじゃないかな?
片桐総長はそんな私に呆れてか、私が通うことになる部屋の地図を渡してきたんだ。
ほら、家族が居る一般家庭だからさ、小学校までは放課後に通う感じで住み込み出来ないっていうね。
少し面倒なんだけど、土日は自由に出来るみたいだし、家族との時間も考えてはくれるみたい。
「話は以上だ」
だけど片桐総長は私の前に壁を作って、机をドンと叩いた。
ピシャリと遮るような声は、結構苦手かも。
私はとりあえずナイフをカバーに入れ、懐に入れることにした。
護身用、護身用!
でも……今日から烏階でバリバリ活躍することになるんだし、いろいろ直属の上司の藤堂さんに訊こう!
そう意気込んだ私だったのだが……。
地図片手に中世のお城から出たまでは良かった。
案内役の方が居たからね。
そこからよ……烏階にすら着かず、真っすぐ行けば着いたのにふらふらと道草をむしゃむしゃしているうちに、鼻の先を弓矢が掠めたんだ。
「わっ!」
私は自分の方向音痴に苛立ちつつ、訓練途中か何かの隊員さんに謝ろうと思ってきょろきょろしていると、
「そこ、うろうろされると邪魔です」
そう話しかけてきたのは、真面目で堅物の雰囲気の漂う中学生ぐらいの男性隊員さん。
背は私より大分高くて、前髪は二重瞼の真上ぐらい長くて、メガネの上に乗っかりそうで、後ろ髪は襟足ぐらいかな。
あとは……神経質そう!
「ご、ごめんなさい……!」
私は背後にある的にハッとしつつ、ぺこぺこ頭を下げていると、
「当たらなかったので構いません。……が、見ない顔ですね」
と、顔を覗き込まれてしまい、私は殺されるのではないか、という恐怖から慌てて距離を取った。
当たったらどうしたんだろう……?
そう訝し気な視線を向けてしまっていると、男性隊員さんは心外といった表情を浮かべ、
「……蒼谷茂と申します。12歳、烏階所属です」
と、弓を肩に寄り掛からせ、自ら名乗ってくださったのだ。
あれ? 烏階ってことは……直属ではないけど先輩!
「わ、私は恋と言います! ほ、本日から烏階で勉強させていただきます! よろしくお願いします!!」
私は腰を痛めるのではないか、という程勢いよく頭を下げた。
すると蒼谷さんは段々頭を上げる私を無表情で見下しつつ、
「はい、よろしくお願い致します」
と、再び弓を構え始めながら淡々と言ったので、私は彼の真横まで小走りし、
「あの……藤堂さんはどちらに……?」
と、邪魔をしないよう小声で訊くと、視線だけこちらに向け、
「真後ろが烏階ですけど、最上階のエースインフォーマー室という所に居ます。ただ、人間関係を築くのは難しい方ですよ」
またしても淡々と言う蒼谷さん。
やっぱり、人を殺しているから皆冷たいのかな。
私はそう思いながらも、感謝の言葉を述べ、その場を後にした。
私はこの時まだ知る由も無かったのだ。
……藤堂からすという、コミュニケーション能力のステータス振りを間違えている男の本性を。
烏階は他の寮と同じく学校のような構造をしている。
そのおかげで、壁にぶつかることも、階段で落ちそうになることも、ましてや逆方向に歩き出すなんてことも数回で済んだんだよねぇ。
御手洗いの場所も各階固定だし、きっと片桐総長は私と同じく方向音痴に違いない。
そう思いながら、エースインフォーマー室の扉をノックすると、中からいかにも適当そうな男の人の声が聞こえてきた。
さぁ……いよいよ、片桐総長のミッションを遂行する時が来た!
危険人物かもしれない、藤堂からすさんとは如何なる人物か!?
私は期待に胸を躍らせ、勝手にクールで無愛想な黒髪青年を頭に思い浮かべて扉を開けると、正面に見える応接間のソファにだらしなく寝転がる男性が1人。
「……」
このせいで藤堂さんの第一印象は、ぐーたらソファ。
あぁ……危険人物、クールでイケメンなんて妄想は泡沫と化した……。
ちょっと初恋とか空想した時間を返せって言いたくなっちゃったよね。
それでも、せっかく直属の部下になったのだから仲良くしたい。
「あの……」
私はもしゃもしゃ髪を弄る20代男性、藤堂からすさんの後頭部を見つめて話しかけると、
「ん? 女の子?」
と、気だるそうな掠れた声で言い、体を起こして物珍しそうな顔をした。
あぁう~ん……タイプじゃないなぁ。
黒い目は垂れていて、決して端正でもない。
もしゃもしゃ髪はわざとなのか、たまに烏が楽しそうに突いている。
……って、室内に烏!?
「あ~こいつらは気にしないで~。大事な仲間だから~……えーっと、恋ちゃんだよね? 直属の部下なんて居たこと無いけど、何とかなるよね~!」
藤堂さんは烏たちと一緒に大欠伸をしながら腕を大きく伸ばし、背もたれに身体を預けた。
もう何て適当な人なんだろう!
こんな人が本当に危険なのだろうか?
私はそう思いながらも、藤堂さんの向かい側に座り、
「よろしくお願いします!」
と、深々と頭を下げて言った。
とりあえず、これで殺されずに済みそうかな?
私は心配しつつ頭を上げると、藤堂さんは既に夢の世界へと旅立っていた。
「はぁぁぁぁ……」
絵に描いたようなマイペースさだ。
おかげさまで、緊張感が一気に身体から抜けていく。
ま、まぁ……初日なんてこんなものかな?
私は椅子から立ち上がり、一礼してから部屋を出ると、ちょうど藤堂さんに用があったのか、廊下の壁に寄り掛かっている長い黒髪を後ろに束ねた男の子と目が合ってしまった。
え……何この私の思い描いていた殺し屋の男性像にピッタリな男の子は。
私と多分同世代だけど、常に緊張の糸を張っている目つきをしているし、少し身長も私より高いから何歳か年上にも見える。
それに1番グッと来たのは、笑ったことの無さそうな頬。
幼いからとかじゃなくて、1本の皺も無い端正すぎる顔が……殺し屋のイメージそのものだったから。
「……」
男の子は私から目をすぐに逸らし、大股で私の目の前まで来ると、
「ねぇ、藤堂エースは生きてる?」
と、いきなり物騒な言葉を吐いたのだ。
その冷たくて凍りついた心と声色は、家族の愛を知らないようにも見えた。
「い、生きてる……けど、寝ているよ?」
私は引きつった表情で何とか言葉を返すと、男の子は興味無さそうに「そう、死んでないんだ」と、機械のように呟いた。
な、なんだその返しは……!
いやぁ……流石殺し屋さんだなぁ。
内部で争ったりもするのかしら、あはは。
私はそう思い込むのが限界で、本心としては今すぐ家に帰りたい程怖かった。
そう言えば、彼……顔にほくろも傷も無かった。
もしかして、本物の天才殺し屋!?
う~ん、それならほくろは関係ないか。
私は藤堂さんの叫び声に肩を震わせながらも、自分の部屋へと向かったのだった。
この後、私の姿を見かけた隊員さんたちが噂を広めたか何かで、部屋の前に大量の男性が詰めかけていたときは、失神しかけたかな。
でもね、消灯時間の関係で部屋の前がクリアになったとき、彼は友達を連れて部屋に来てくれたんだ。
ま、1%の確率で来ると思って必死で片づけたなんて口が裂けても言えないけど。
「どーぞー。あ、私が恋。8歳。あんたたちは~?」
……なんて陽気に話したのは、黙っていたら絶対言葉を発してくれないと思ったから!
何だろう、理想の殺し屋像そのものの人のこと、もっと知りたい!
単純だけどそんな理由で待っていたから、こんな話し方をしたんだ。
すると彼は無表情のままだけど、
「俺は黒河月道。9歳でスナイパー」
と、名前を教えてくれたのだ。
へぇ……るろうくんっていうんだ。
じゃあ、るろちゃんかな?
「佐藤永吉。同い年の忍者だ」
相棒っぽい背の低い男の子。
私よりも低いけど、忍者なら最強そうね。
よし、この子のあだ名は決まった。
「るろちゃんとえいきっちゃん。2人は相棒なの?」
私が話題を振ると、るろちゃんの目は若干曇った気がした。
もしかして、あだ名は好感度マイナスかな。
だけどえいきっちゃんは嬉しそうに、
「そうだよ~。恋は誰かと組んでる?」
と、更にボールを投げてくれた。
「まだよ。というよりも、片桐さんによると情報系は基本1人らしいし」
私はるろちゃんと相棒が組めないことを残念がりながらも、ちらちらと視線を遣ってみる。
……全然合わないのですが。
「よかったら俺らと組む?」
目が合わないなんて考えている隙に、斜め上の質問が来て思わず私は口をわなわなとさせてしまった。
だけどすかさずるろちゃんは、
「何言ってるの、きちべえ」
と、秀逸なあだ名で切り返していて、一気にテンションの上がった私は、
「そうね。残念だけど、私は1人ね。内線番号交換しとく?」
と、重い腰を持ち上げ、事前に準備しておいた内線番号と携帯番号の書かれた無地の白い紙を渡した。
「携帯もいいのー?」
えいきっちゃんはピョンピョン跳ねながら紙を握りしめる。
「いいよ。2人のも教えてくれる?」
……頑張った。
さらっと言う練習なんてしていなかったけど、これでるろちゃんの番号を貰えた時は本当に嬉しかった。
彼にとっては、タイプじゃない方がいい。
私はただ、殺し屋のことを沢山知りたいし、学びたいだけ。
彼なら時間は掛かるだろうけど、冷たく跳ね除けるだろうけど、それでも付いて行きたい”何か”がこの時からあったような気がする。
その感情の名は、この何かの名前は、何でしょうか……?
恋です!
後書きまで私だそうです!
恋と書いて、れんって読むのは珍しいそうですが……他に読みようが無いので寂しいです。
るろちゃんみたいに、何て読むんだろうってなりたいんですよ。
ちょっとした会話のきっかけにもなりますし!
あと、作者さんには感謝です!
まぁ勢いで続編ネタバレをしないかが心配ですが、見守っていきましょう!
次回投稿日は、来週の土曜日か日曜日です!
日付は、10月14日(土)、10月15日(日)。
それでは良い一週間を!!
恋でした~!!