「戦闘の秋-隻眼ガンマンvsターゲットの味方-」
後醍醐傑vs龍勢淳
友人リクエストのお話です。
傑さん視点で、淳ちゃんにちょっとした腕試しをします。
※約3,000字です
2015年9月30日 朝
後醍醐家付近 雑木林
後醍醐 傑
昨日、俺の改造銃の生みの親でメンテナンスもしてやがる大崎月光ってやつが、とんでもねぇ情報を落としていきやがった。
「人を救うと言うか……殺し屋のターゲットを逃がす阿呆集団が居るんだけどさ。まっさるさん、いっちょ様子見てくれないかね?」
こいつは裾野が抜けた直後に入った片桐組のマジシャンで、エンジニア。
いつもスパンコールのド派手な赤のマジシャンスーツを着てやがる40歳ぐらいのヤツ。
顔はいつ見ても青白くて、鼻が異様に高いし、眼光の角度が左右違うからってことで、フランケンシュタインって呼ばれているらしいぜ。
で、俺は元片桐組でフリーランスの殺し屋だから、エンジニアだけは使わせてもらえんだ。
「チッ、面倒臭ぇな。お前が行きたくねぇだけだろ」
って、図星をつくと厄介なんだよな。まぁみてろ。
月光は突然何にも無いところから30cmぐらいの杖を出して、感情のままにいつも開いている窓に向かって投げる。
これでストレス解消になんだよ。マジックも出来るし、元気に白い鳩が窓から出て行ったら行ったで、
「あ~……仕事仕事。んじゃ!」
とか言って俺にメンテナンス後の銃を返すんだぜ。
クッソ面倒臭ぇ野郎だろ?
「あいよ」
ま、こいつの腕をかって毎回メンテを頼む俺も俺なんだけどな。
それに俺もターゲットを逃がす奴らの事も気になっていたんだよな。
裾野さんと殺し屋モデルも被害に遭ったんだぜ?
相当強いか、知恵の回るおつむの良いヤツか、サイコパスかだな。
だってよ、殺し屋が罰則を受けている様を、どっかから見て愉悦に浸れるんだ……頭イカれてんだろ。
それでターゲットからカネさえ貰えりゃ、殺し屋の自信を殺す事も出来るって訳だろ?
……ふざけんな。
そんな奴ら、この銃が黙って見てられねぇって。
そこで俺は1つ、奴らに甘い蜜を用意してやることにした。
後醍醐家付近の雑木林で幼い子どもを殺そうとしている殺し屋が居るから、止めた方がいいってタレコミ情報を流す……。
これで掛かれば、噛みついて噛み砕くまでだぜ。
なんせ、向こうからすれば俺の土俵で戦うことになるからな。
そういう訳で一般道から坂になっている後醍醐家所有の雑木林の奥で朝から張ってんだけど、適当に子どもでも用意しとくべきだったか?
人通りもねぇし、荒れ放題だから近寄れねぇのかもしれねぇけど。
ん? 雑木林に近づく割には軽装備な男が居るな。
「うわ~何ここ~!」
……こんな朝早く誰だ?
聞き覚えのねぇうえに、やけに通る声じゃねぇか。
って、よく見たら白いメガネが目立っちまってんじゃねぇか。
これが殺し屋からターゲットを逃がす奴……?
「あ~あ、来たはいいけど枯れちゃって――」
……来たはいい? こりゃ疑いようがねぇ。
俺は右目で白メガネを捉え、コルトパイソンを構え撃鉄を起こし、銃弾を宙に走らせた。
「えっ!?」
白メガネは銃声に気付き、周囲を見回す。
もう遅ぇな。数秒後にはてめぇの頭は粉々だ。
そう思い、血飛沫を楽しもうと木の影から歪んだ笑みを浮かべ……あ゛!?
――カンッ!!
銃弾の軌道が……変わった!?
ということは。
「来たか……」
俺はきょろきょろする煩わしい男から、俺を見据え男に逃げるよう促す女に目線を移した。
胸ほどまで伸びる長い黒髪、透き通る旬の魚のような肌と肉付き、全身から明るくも清潔な雰囲気を感じる。
いかにも元気のある人間を思わせる女。
近頃話題の……殺し屋モデルの彼女だな。
「後醍醐傑さんですね?」
少年みてぇな声、やっぱそうみてぇだ。
俺は坂の上の木の影から姿を現すと、コルトパイソンを二丁構え間合いを取る。
「殺し屋の邪魔をすんな! お前らのしていることは、依頼人と殺し屋の哲学の否定……ターゲットにとっちゃあ取ってつけた偽善だ」
と、常に若干脳天と心臓から逸れた所にマズルを向け、相手の様子を伺いつつ、
「ハッ。そりゃ大いに結構だけどよ、殺し屋の存在を超えようとはしねぇのか?」
と、自信に満ちた目つきを疑いつつ声を張ってやると、
「しませんよ。私は全員救うんとちゃいます。殺される必要の無い人だけを助けるんです!」
と、神経質な光を帯びた悲壮で慈善心すら感じる目で、剣を抜いたときに俺はこいつのおつむが悪くねぇことを悟ったぜ。
あいつ、”私は”って言いやがった。
はぁ……んにしても殺される必要があるとかねぇとか、ご都合の良いこと。
全く、つくづく馬鹿げてやがるな。
「まぁ……殺し屋を否定したら、旦那を否定することになるしな……」
俺は口先で呟きながら煙草を口に咥え、ライターに手を掛けようとしたところで銃弾が飛んできたから、わざと仰け反らせて煙草の先端にかすらせた。
「ふぅ~……助かったぜ!」
と、潰れた左目を隠す前髪を左へ払い、弱火だが燃え始めた毒を肺一杯に吸い吐きながら言うと、女は可愛らしくウィンクをした。
なるほど、剣と銃を使うやつか。
そりゃあ、おつむが良くなきゃ無理だな。
戦い方を変えるとしますか。
俺は木に当てねぇように配慮しながら銃声を響かせると、女は電光石火で銃弾を避けて俺の目の前で地を蹴った。
それから軍人に居てもおかしくねぇぐらい鋭い目で俺を見下すと、俺の涼しい瞳に気付いたのか頬に一筋の汗が流れだした。
……どうやら月光にメンテしてもらった銃が役立ったみてぇだな?
「掛かったな」
俺は煙草を咥えながら、悪意に満ちた声で一音一音をじっくり発音してやると、地面に無残にも頽れた女の瞳はぐらぐらと揺れた。
当然だ。
スライドに”Perchino Borzoi”と刻まれた、俺にとって1番大切なmk23を改造した銃は殺し屋モデルの時も使った。
こいつのマズルを見りゃ誰だって金縛りに遭う。
あ? 理由とか仕組みとか……教える訳ねぇだろ。
強いて言うなら、俺の過去と隻眼が関係してんだよ。
あとな、銃を持ち替えるのにも、リロードするのだってコンマも要らねぇ俺だから出来んだよ。
「…………」
女は何かを言おうとしているが、口が思うように動かず金魚のようにパクパクと動かすのみ。
だから俺は距離を取ってから銃を持ち替え、一瞬の隙も与えずに睨み上げる瞳の目尻を狙って撃つと、左手に持っていた刀で弾かれた。
……チッ。残り1発か。
俺はリロードをする際に、空薬きょうをウエストポーチに入れると、女は感心したように頷いた。
これはよく目で追えましたって、言ってやってもいいな。
さて、今日は殺しに来た訳じゃねぇし……中々強くておつむが良いってのが分かったから帰るか。
「じゃ……気を付けて帰れよ」
俺はコルトパイソンをジャケットの内ポケットに仕舞い、装飾がやたら多い白のコルトパイソンを紺のパンツのポケットから出すと、女は警戒し剣を構えた。
あ~あ……まだ青いな。
「火つけの練習、しとけよ」
俺は30分経っても未だに弱火燃焼し続ける煙草に近づけ、マズルから勢いよく火を噴く所を見せつけると、絶対演技だが目を輝かせた。
それから背中を向け、手を軽く振ってみせ歩き出すと女の気配が遠のいた。
結局誰か知らねぇままだったけど、武器を手に持たねぇで背中を向けて立ち去る殺し屋を狙わねぇあたり、まともな人間だろうな。
ハッ。この煙草は、薬莢の匂いがするが悪くねぇ……。
「これからが楽しみだ……」
俺は紫煙と一緒にジジィみてぇな期待も吐き出すと、弟の純司が銃声を聞きつけてかこっちに駆け寄って来やがった。
――あの女、次会った時は必ず殺す。
俺は純司が新しく覚えた火炎魔法を嬉しそうに披露しやがるのを横目に、女の立ち去った方向を見える筈の無い左目で捉えた。
後醍醐傑だ。
後書きを任せたじゃねぇよ、あいつ。
仕方ねぇから次のテーマでも話すけどよ。
来週の土曜か日曜(10月7日か8日)に、乙女ゲームっぽい話を書くらしい。
で、Twitterのタグに触発されたらしいけど、作者は絵が書けねぇからアンケートが出来なかったってよ。
あー……攻略キャラは、ルーレットで2人に絞ったんだけど、来週から5話ぐらいが片桐組の役員でスナイパーの黒河月道ルート。
その後に俺ルートが5話だってよ。
マジかよ。
ま、そういう訳で。
一週間、楽しめよ。
後醍醐傑