「最後の告白」
藍竜総長の過去、最終話。
総長としての覚悟を決めさせた、1人のまだ幼い情報屋。
彼は過去故、人を嫌い、寄せ付けなかった。
だがそれにも彼なりの本性が隠されている。
※約3,400字
※凝縮し、ナレーションベースにしました。
2002年3月30日 午後3時
ハトリョーと出会い、失踪するまでを語ろう。
彼は壁を作り過ぎたことを後悔しているからこそ、きっと裾野の時には素直についていったのだろう。
藍竜組が軌道に乗り、情報屋も信頼出来るまではホワイトハッカーとして働いてもらい、エンジニアも全員が十分な休息を取れるまでになってきた。
さて、最後は今情報課長をしている鳩村涼輔……ハトリョーの話をしよう。
裾野の同期にして無類の鳩好きである彼は、没落貴族の家出身で噂や新聞が正しければ、父親と弟を殺めている。
理由は本人の口からは決して語らないが、彼の髪色だけ親兄弟と違うからという可能性が高い。
プライドの高い貴族のことだ……髪を染めさせる手間や金さえ掛けたくもないのだ。
手法は裾野が見た母親のノートによれば……家に元からあったという処刑部屋に憑りついた霊たちに殺らせたとある。
だから母親はハトリョーのことを、「人殺し」と呼ぶ。
だが……あくまでもノートが正しければ、だ。
母親がハトリョーの右胸をナイフで刺し、その後ヤブ医者に診せたせいで肺炎を患い、縫合も雑な為血を吐き、吃音になったのではないか、と凄腕の医者は言う。
最近調べさせたら、ハトリョーを助けた医者も大崎月光を治した医者も……縫合の仕方から同一人物ではないか、との情報が出ている。
あぁ……その情報が真と分かった日には、メロンを差し入れなければならなさそうだ。
そろそろ本題に入ろうか。
ハトリョーがホワイトハッカーとして居たのは、ほんの数か月。
どのメンバーよりも情報分析が遅く、決して向いているとは思えなかった。
しかしそれは俺が数字ばかり見ていたことや、当時のラッパー情報課長が弱そうだからと仕事を大量に振っていたのが原因だ。
だから俺も本人と話すまでは、いや……本人と話せるようになるまでは、彼が藤堂からすに匹敵する程の類まれない才能の持ち主だとは知る由も無かった。
それでなぜ3月30日なのかは、この日で鳩村が入ってきて数か月が経つからなのだが……初日から彼だけは独特な雰囲気が出ていたのだ。
近づくな、寄ってくるな。
君たちを傷つけたくはないから……。
そう言われているかのような彼の物憂げな表情を見れば、誰も仕事の時以外は話しかけようともしなかった。
だから俺も話しかけづらかったが、総長としてやっていく時に幼い頃からの目標であった悪の組織のリーダーを思い出し、仕事後全員が帰った後に残っていた彼の背中に向け、
「もう遅いから帰っていいよ」
と、肩に手を置いて言うと、ハトリョーは憂鬱や闇を具現化したかのような仄暗い目をカッと見開き、ギョッとした顔でこちらを振り向き、俺の手を振り払った。
それからパソコンにいそいそと文字を打ち込み、読むように指差した。
「……話しかけないでください。貴方の過去なんて調べれば分かってしまうんですから、か」
俺は無機質な文字列を目で追い、「だからどうした?」と、はにかんで見せる。
だがハトリョーは童顔とも言える血色の悪い顔をパソコン画面に戻し、
「放っておいてください。仕事中です……すまなかった。だが明日も早いから、早く帰って寝てくれ」
と、しばらく何を打とうか迷った末に、先程の文章よりも大分短い文言でそう書いた為、そう言い残し部屋を後にした。
このときハトリョーは、上司から振られた仕事を全てこなしていた為、深夜まで残業していたと弟から聞かされた俺は、翌朝に情報課長を叱りつけたのだが――
「そんな証拠無いYO! 内容も無いYO!」
と、あっさり躱された……筈だったのだが、俺の背後に感じる春の匂いは唯一の目撃者である暁。
「……」
弟は隊員の前でも話せない為、背中に手を回し促す俺の掌に無言で録音機を置く。
俺はそれを情報課長の前にチラつかせ謝罪を要求すると、ハトリョーが遅刻して情報室に入り、録音機を投げ捨ててしまった。
すると残念ながら古い型であったこともあり、掃除用のロッカーの角に当たって壊れてしまったが、彼はどこか安心した様子で俺を見上げた。
「ぼ、く……」
ハトリョーはそこまで言いかけると、すぐさま自分のパソコン椅子に座り、カタカタと流れるように文字を打った。
だが決して美しいフォームではなく、指を削るように打つ彼の様はどこか……自分の命すら削っているようにも見えた。
俺は入口手前にある彼のパソコン画面を覗くと、
「もう自分のせいで、誰かが傷つくのは嫌です。放っておいてください、か。ハトリョーはそうやって逃げてきたのか」
と、思わず口が滑ってしまうと、ハトリョーは図星だったのかあからさまに俺を見る目が嫌悪へと変わった。
そしてキーボードを両手で一度だけ叩きつけると、何も言わずに仕事をし始めた。
「……」
俺がハトリョーの過去に興味を持ち始めたのは、ちょうどこの頃だったか。
怒るとキーボードを叩きつける、笑うときは苦しそうに、悲しそうな時ほど顔に出さず、泣きたい時は……今現在でも分からない。
前述したが、ハトリョーは家族に忌み嫌われた男の子だ。
しかし裾野の話や菅野の話では、微笑むくらいは出来るようになっている。
そのうえ、裾野が数か月後に取り返してくれる時には母親からも解放されているのだ。
だが誰しもが見逃している事実が、この日に顔を出すのだ。
「…………っ!!」
平穏な午後3時。
そろそろ休憩にしようか、とちょうど俺が声を掛けにきたときだった。
ハトリョーは、赤く点滅するパソコン画面の前でわなわなと身体を震わせ、カチカチと歯を頻りに鳴らしていた。
俺は密かに彼の後ろに回り込み、情報課長を呼んで画面を見てもらうと、
「藤堂からす……ですYO! こいつ、仕事出来ない癖……韻が無くなったYO! 帰りたいYO!」
などと、意味不明な供述を……ではなく、聞き覚えのある名前の登場に頭が混乱した。
片桐組烏階エース。親子三代に亘り情報屋という天才の名を恣にかっさらっているような男が敵。
……何故こいつにハッカー勝負を仕掛けたんだ?
言い方は悪いが、勝てる筈がないのだ。
新米ホワイトハッカーである鳩村涼輔が。
「ハトリョー」
だから純粋にそれだけが気になった。
別に組の損害は他で返せるから良いものの、このまま無謀なことをすれば彼の精神がもたない。
「……」
だがハトリョーはあまりのショックで、涎が垂れてしまっていても気付いておらず、床に小さな水たまりを作ってしまっていて、同じ情報課の人間は部屋の奥で仕事をし、完全に彼を見捨てている。
「……ぼ、くが……」
彼はようやくロボットのように口を動かし、
「ま……けた……? か、て……た……は…………ずな、の……に……!!」
と、だんだん語気を強めて言うと、骨すら浮き出ているような手でキーボードを思い切り叩き、Yキーが跳ねあがって床に落ち真っ二つに割れ、C、Pキーは勢いのまま窓を突き破った。
そうして見えた彼の隠された本性。
彼は無類の負けず嫌い。
そして……格差があろうと挑戦しようとする強い心を持っていること。
悔しがれる素直さ。
……だがそれを裾野と菅野は本当に気づいているのか?
心底不安になる。
というのも、彼はおそらく”BLACK”でも2人の為に無理をする。
だから……藤堂からすにサシのハッカー対決を挑むだろう。
それを止めるのは、俺では駄目なのだ。
権力で押さえつけたように見える……どうしてもな。
だからこそ、裾野が片桐に行ったことで素直で感受性の豊かな菅野に賭けている。
こいつが止めなければ。
悪い……閑話休題だ。裾野の話で知ったと思うが、この後ハトリョーは行方を眩ませる。
俺は踏み込むな、という彼の前に自然に出来た壁を取り払えず、今も後悔している。
社交的な性格の部下が多いから、おそらく調子に乗っていた。
自分は幼い頃夢見た悪の組織のリーダーになれている、と。
……そうして遮光的な性格のハトリョーを無視し、マジョリティばかりに目を当てていた過去の自分をいくら殴りつけても解決しない。
現在を変えなければ、未来は決して変わらない。
こうして俺が短く凝縮し、かなり省略した云十年分の過去も、語っている現在の自分が学んで変わらなければ、ただの過去語り。
もちろん少なくとも、裾野と菅野はそうではない。
だから俺も……罪の告白をし、清算してから前に進む。
やりたくもないであろう毒の研究をし続ける死んだマジシャン・大崎月光のために。
片桐に遣わされ、再び使われる裾野聖のために。
自分の前に幾重もの壁を張り、部下を寄せ付けず挑戦を続ける鳩村涼輔のために。
声を奪われ、桜と俺を信じ隊員とこの世を見守る忍者・青龍暁のために。
――総長として全員を救う、未来の自分の為に。
副総長の暁です。
現在の情報課長は、負けず嫌いという言葉が似あいます。
見守っていて、いつも心配です。
だから俺も、よく情報課で見かけられます。
今度、桜の花びらを置いておきます。
励ましたい。
次は、後醍醐傑と借りキャラの龍勢淳の戦闘です。
情報課長と違って、人を傷つける戦いです。
投稿日は、9月30日(土)です。
作者さん、タスクが多い。
きっと大変……だけど、若い時に苦労はするべき。
俺はそう考えます。
そうすれば、働いた時も老いた時に楽になれます。
それでは、良い一週間を。
下手な文でごめんなさい。
藍竜組副総長 青龍暁