「再会の鍵」
いざ竜馬の部屋へ――
※約2,700字です。
2018年5月25日 13時30分過ぎ
後鳥羽家前
鳩村涼輔
そうして門の向こうへと歩み寄ってきた彼は、
「こんにちは。菅野様、鳩村様に龍勢様。執事長の橋本です」
先程までの覇気を消し、柔らかい笑顔と優しい口調で対応してくれたのだ。
橋本さんは、裾野くんの担当をされている執事の中でもトップの方なんだ。
「あ! やっぱ橋本さんやん!」
菅野くんは嬉しそうに手を振って言う。
「お久しぶりです」
龍勢さんも挨拶されていて、皆面識があるんだなと気付き僕は胸をなでおろした。
「お約束は特にお聞きしておりませんが、何の御用でしょうか」
橋本さんは物腰柔らかで、僕の胃も大分元に戻ってきた。
データベースには、恐怖を与える能力を持っていると書いてあるから、普段から怖いのかと思ってたんだ。
そんな僕の心の声に気付いたのか、
「"BLACK"の時以来なので、殺されるかと思いましたよ~」
と、龍勢さんが怖がる素振りをして言ったのだ。
どうしよう。
これで怒られて会えないなんてことになったら。
でも"BLACK"の時対峙しただけで、もう終わった事だから大丈夫、だよね?
再び胃が痛くなって菅野くんに助けを求めようかと思ったけど、穏やかな表情をしててギョッとしてしまった。
菅野くんには何か確固たる自信があるのかな?
とはいえ一縷の望みでしかないから、恐怖に慄きながら首をゆっくり橋本さんの方に戻すと、
「私には、貴方がたが殺されに来たようには見受けられませんよ。ご用件は何でしょうか?」
と、橋本さんは包み込むように言ってくださったのだ。
言っている事こそ物騒だけど、ね。
ん? 殺されに来た? 僕達が?
ということは橋本さんには、この人数差で勝てる確信があるんだ。
僕にはとても言えない言葉かな。
凄い。流石裾野くんの執事長さん。
心の中で拍手を送る僕の横で菅野くんは、
「竜馬――さんに会いに来ました」
と、竜馬くんを呼び捨てしかけたけど何を思ったのか慌てて"さん付け"をしていた。
ちょっと微笑ましい、かも。
でも会いに来た、だけで通してもらえるのかな。
「サプライズで来たんですけど、都合が合えばええなぁ、という感じでして」
と、心配した僕を察してか、龍勢さんが補足を入れてくれた。
「左様でございましたか。しばらくお部屋に籠っていらっしゃるので、開けてくださるかは分かり兼ねますが、折角来ていただいたので案内致しますね」
と、橋本さんは大きな目をぐるっと回しながら言ってくれた。
本当に優しい人なんだな。
御礼を言いたいけど、どう伝えようかな。
なんて悩んでいると、
「ありがとうございます!」
菅野くんが一歩前に出て、僕達を代表して御礼を言ってくれたのだ。
それに対して橋本さんは軽くお辞儀をして、門を開けてくれたのだった。
それから果てしなく広がる庭を通り抜けて家の前に着き、そこからも迷う事無く竜馬くんの部屋の前まで案内してくれた。
その間何となく言葉は交わさなかったけど、気まずい雰囲気も無かった。
折角だから美術品でも見れば良かったのかもしれない。
もしかしたら2人はそうしていたかもしれない。
だけどなぜか僕は橋本さんの背中をずっと眺めていた。
そうしていると僕と身長がそこまで変わらない筈なのに大きく見えて、これも橋本さんの能力なのかと変に身構えてしまった。
そうして辿り着いた竜馬くんの部屋の扉は、金と黒を基調とした豪華な雰囲気だけど寂しさを感じた。
カーペットは深紅で落ち着いた雰囲気なのに不思議だな。
それにしてもこんなに綺麗なんだ、後鳥羽家って。
僕の実家とは物凄く違って、藍竜組の独特な雰囲気とも違うから、落ち着かない? かも。
そして橋本さんが竜馬くんの部屋の扉をノックして、
「お客様です」
と、声を掛けた。
するとしばらくしてから、
「誰?」
と、かなり疲れた声が中から少しだけ聞こえてきた。
竜馬くん、かなり根を詰めて作曲してくれていたのかな。
「鳩村様、菅野様、龍勢様でございます」
橋本さんは凛とした声で竜馬くんに話しかけていて、聞いているだけで背筋が伸びる。
「5分待って。片付ける」
竜馬くんは溜息混じりに返事をすると、かなり大きな物音を立てながら片付けを始めた。
「承知致しました」
橋本さんはゆっくりお辞儀をし、5秒くらい経つと気だるそうにこちらを振り向いて、
「部屋はいつも片付いてた気がするんですけどね」
と、かなりくだけた口調で言ったのだ。
声も表で話した時よりも低くなっている。
橋本さんはもしかして裾野くんとか、後鳥羽家の皆さんとか外部のお客様には丁寧なのかな?
でもそうなると、僕達にも丁寧になる筈だよね?
「そうなんですか」
菅野くんは困惑した様子で、扉を見遣っている。
「まぁ菅野様がいらっしゃって良かったですよ。堅苦しいの苦手なんで」
橋本さんは腕組みをし、小さく溜息を吐く。
その間も、目線が凄い勢いで左右に動いている。
今の態度が誰かに見られないかも気にしているんだ。
だから外では絶対に態度を変えないのかな。
「あははは。龍も呼ぶべきでしたね」
そう苦笑いしながら言う菅野くんは、珍しく裾野くんのことを本名で呼んでいた。
ということは、気心知れた人もくだけた雰囲気になるんだ。
そうなると裾野くんの前でも、こんな形で話していたのかな。
ちょっと見てみたかったな。
「龍様が居たら、竜馬様がまともに口利きませんよ」
と、橋本さんがかなり面倒そうに言っている。
それに対して菅野くんは、「そうですかね~」と、相槌を打っている。
まともに口を利けない。
メンバーにスカウトした時竜馬くんから感じた、裾野くんに対してのマイナスの感情は気のせいじゃなかったのかもしれない。
でも裾野くんがメンバーに居る訳じゃないから大丈夫だよね。
やがて5分が経ったようで、
「どうぞ」
と、中から声が聞こえた。
竜馬くんの声と同時ぐらいに、「ありがとうございます」と、橋本さんが返事をし、
「じゃ、俺はここまでで」
と、軽く手を振ってその場を去っていったのだ。
去り際、菅野くんが慌ててお礼を言うと、「龍様によろしくお伝えくださいね」と、会釈をしてくれた。
やっぱりそうだ。
門の前では、私って言っていた。
素、と言っていいか分からないけど、今の態度と外とで使い分けているんだ。
ずっと引き締めていたら疲れるのは、僕には少し分かるような気がする。
「橋本さん、元気そうで良かったやんな」
と、龍勢さんが嬉しそうに言うと、
「ほんまそれな! ほんじゃ、俺が先頭きって行くで!」
と、菅野くんが拳に気合を入れて言った。
これから喧嘩する訳じゃないのに、なぜか言葉に覇気があった菅野くんが気になる。
けど、菅野くんのおかげでここまで来られたから、竜馬くんにもしっかり報告しないとね。
そう決意した僕は、一足先に部屋に足を踏み入れた菅野くんに続いて一歩踏み出したのだった。
ここまでの読了、ありがとうございます。
作者の趙雲です。
次回投稿日は、3月4日(土) or 3月5日(日)です。
それでは良い1週間を!!
作者 趙雲




