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「趙雲の気まぐれ短編集」  作者: 趙雲
『光信じて』
23/69

「輝きの試練」

菅野の本気度は如何程か。


※約2,100字です。

『ユーカリと殺し屋の万年筆』連動箇所:「16話-希求-(終編)<後・始>」

2018年5月17日 18時過ぎ

後鳥羽家付近

鳩村涼輔



 僕の同期の裾野くんが所属するバンド――Coloursの復活までの話を聞いた帰り道。

菅野くんと裾野くんの話で盛り上がったり、あことしくんの芯の強さや二面性について話したりしていたんだけど、不意に菅野くんが足を止めたんだ。


 それから2,3歩先に行って足を止めた僕が振り返ると、

「鳩村はん」

菅野くんは残酷な程真剣な表情で僕の名を呼んだ。


 街灯がちょうど項垂れた暗めの短い茶髪を照らし、ぼんやりと菅野くんの表情を映す。

僕はたまたま1つ先の街灯の下に居たから、薄鈍色の髪が光ってしまっているだろう。


「俺さ」

ぽつりと呟く菅野くんの声は、ほんの少し震えていた。

何か気にかかる事があるのかもしれない。それとも何か悩みがあるのかな?


 こうして流れる沈黙に、僕は何か言わなければと焦るばかりだ。

こういう時、何もできやしないのに焦るのはなぜだろう。

調べても調べても、気持ちの問題とばかり出るのはどうしてなんだろう。

僕みたいな弱い人間は、解決策すら求めてはいけないのだろうか。


 やがて顔を上げた菅野くんは、安堵のような夢見心地のような表情で、

「鳩村はんと、バンドやりたい」

と、嬉々とした声で言った。


「――!!」

正直驚いたけど、僕を受け入れてくれるのは嬉しい。

それが僕のすべてで、他にどう言ってあげればいいのか思いつかない。

だけど菅野くんの気持ちは本物なのだろうか。


 口を噤んだまま唯疑ってみても、目の前で笑顔を見せる菅野くんの言葉に噓は無いとしか思えない。

じゃあ――どう返せば良いのかな?


 いつものようにCAINやメモ帳に打った文字を見せればいいのかな。

でもそれじゃあ気持ちが伝わらない。だから――


「ぼ、僕で……よけ、れば……」

僕が俯きながら言葉を紡いでいたら、菅野くんは柔らかい表情で僕を見下ろしていた。


 そんな菅野くんが側に居てくれる安心感からか、

「いっ、一緒に……やり、やりたい……」

と、言葉にしてて、それと同時に吃音の僕を周りの皆が理解してくれた喜びを思い出していた。

それが声に表れていたのか、菅野くんは言い終えた瞬間僕をキツいくらいに抱きしめてくれた。


「ありがとう! めっちゃ嬉しい!」

関西のイントネーションで話す菅野くんの声は心地良くて、ジャケットから覗く健康的な小麦肌も綺麗。

羨ましいと思う部分は沢山あるけど、全く自慢しないから色んな人に好かれるんだろうな。


「う、うん……くる、苦しいよ……」

対照的に自分でも病的だと思うくらい白く細い腕で、何とか菅野くんの背中を叩く。

"BLACK"以降頑張ってはいるけど、中々筋肉はついてくれない。


 すると菅野くんは凄まじいスピードで離れ、

「わっ、ごめんごめん! ほんで鳩村はんさ、1つ聞きたい事あんねんけど」

軽く前髪を整えながら話を続けてくれた。


 僕が何だろうと思い首を傾げると、

「どの楽器やる~?」

菅野くんはそれぞれの楽器のジェスチャーをしながら訊いてきた。


 どうしよう。

ボーカル、ギター、ベース、ドラム、そしてヴァイオリン。

Coloursみたいにギターボーカルでもいいんだろうけど、僕が思う編成だとヴァイオリンが聞こえにくくなりそう。

じゃあボーカル? 無理。歌なんてとんでもない。


「あ、ごめん。言い出しっぺやから俺からな?」

しばらく僕が黙ったのを見かねて、菅野くんが声をかけてくれた。

ちょっと申し訳ないかな。


「俺は裾野とおんなじギターがええなぁ~! ほんで、舞台で弾いてるとこ見せて、めっっちゃビックリさせたる!」

菅野くんの目の輝きを見ると、心から裾野くんを慕っているんだなって思う。

それにギターは菅野くんにも合いそう。

きっと上手くなれる。


「そ、そ、それいいね。ぼ、僕は……ま、まだ……」

明確な目標がある菅野くんの前で、僕は適当にだって楽器の名前を言えなかった。


 でも1つ気になってる。

舞台で弾いてる所を見せたいってことは――


「全部……じ、自力で……や、やる、つも、り……?」

と、僕が恐る恐る訊くと、菅野くんは親指を立てて、

「勿論やん! リゾゼラもほぼ1からやし、練習して上手(うま)なってからでも(おそ)ない」

って、自信満々に言った。


 え!? 絶対とは言わないけど、相当難しいよね。

ボーカル、ベース、ドラム、ヴァイオリン。

僕がどれかやるとしても、他3つを担当してくれる人を探さないといけないのに。

しかも一緒に練習する事も考えると、同業界だよね?

それに自主練習までするって、どうなってるんだろう菅野くんの思考回路。

いつもなら物凄く慎重なのに、たまに大胆になるの何でなんだろう?


 追い打ちをかけるように、頭の整理のついていない僕の両肩に手を置くと、

「鳩村はんも俺に内緒でええから、楽器決めといてや。じゃ、俺は早速買ってくるで!」

って、満面の笑みで言い、僕を残して走ってどこかに行ってしまった。


 本当に、どうしよう?

これが輝きの始まりでいいの? 信じていいの、かな?

ここまでの読了、ありがとうございます。

作者の趙雲です。


次回投稿日は、10月15日(土) or 10月16日(日)です。


それでは良い1週間を!!


作者 趙雲

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