「すれ違いのメリークリスマス」
遅ればせながら、クリスマスイブのお話。
それでは皆様、メリークリスマス。
※約2,800字です。
2014年12月24日 夕方
初めて行ったグスト
菅野(関原 竜斗)
裾野と初めて行ったグスト……ここにはどうしても行きたかってん!
それは、その……そろそろ淳と結婚しようと思っているし、結婚したら2人きりで出かけることも無い気がするからや。
だってさ、不倫になったりするんとちゃうん?
今までは裾野だけ既婚者やったから……って、あ゛!?
俺、まさか不倫してた!?
いやいやいや、ナイナイ。
てか、ここで思い出話しながらクリスマスプレゼント兼誕プレ渡すの狙ったことがバレたらマズい……。
考え事はせん、アホやからせんっと。
「何を考えているんだ?」
そんなこと考えとったら、真向いに座った裾野が眉間に皺を寄せててん。
裾野はいつもシンプルな格好。黒か焦げ茶色とか、深い色ばっかりや。
でも肌が白いから、ええアクセントになってんねん。
「な~んも。何頼むか決めた?」
俺は不信感オーラを感じ取りながらも、メニューを辞書みたいに難しそうに読む裾野の顔をじっと見つめててん。
ほんま頭良さそうな顔してはるなぁ……ま、ほんまに頭ええんやけど。
「あぁ。ハンバーグにしようかな」
俺は頭の中でメニューを即決するタイプなんやけど、何で頼むモン一緒やねん。
ま、そんなこと言えへんから、
「ええんとちゃう? あん時もハンバーグやった気がするし……」
あん時ってのは、裾野と出会って初めて行ったときのことや。
そしたら裾野は頬杖をついて、俺を流し目で見てきてん。
「よく覚えているな?」
ほんでいやらしくそんなこと言うから、俺はそっぽ向いてん。
……当たり前やん。
「ありがとう」
は……?
ほんまびっくりして裾野の方ちょいと見たら、イジワルそうな笑顔で、
「婚約指輪をプレゼントしたらどう思う?」
とか、訳わからんこと急に訊いてきてん。
あーあ、お礼言われたから期待してもうたわ。
「俺は……」
性別が違ったら、結婚したってええで?
でもな、バイセクシャルの裾野にはきっと……いや結構キツい一言やろうから、グッと飲み込んで、
「サンタさんにあげるわ!」
って、空元気して呼び出しボタンを押してん。
そしたらな、裾野はふふって微笑んで、
「サンタと婚約しても嬉しくないな」
とか言ってな、七面鳥を食べる仕草をしてん。
あれはサンタとちゃうけどな。この時期その格好はするけど。
「ま、せやな」
俺はニシシと歯見せて笑うと、ちょうどサンタ帽子被った店員さんが来てん。
注文も終わって、互いに頼んだものが来たんやけど、なんやろ……やっぱ俺が変えた方が良かったんかなぁ。
めっちゃ茶色やもん。美味しそうやけどな!
「菅野」
俺がまさにニンジンにフォークを刺そうとしたところで、裾野は真剣な顔で名前を呼んでん。
「ん?」
フォークを元の位置に戻して、裾野の目をじっと見ると、
「クリスマスプレゼントは要らないからな」
って、コートとマフラーで隠したつもりの俺の右隣を指差して言ってん。
何言うてんの、こいつ。
てか、バレてるんかい!
「菅野が選んで買ってくれたのは嬉しいが、俺はお前とこうして一緒に居るだけでいいんだ」
裾野はそう言うと、俺の返事も待たずに手を合わせて食べ始めてん。
うぅ……なんやズルい奴やな。名家様やから食べ始めると喋らへんし、あーあもうムカつくなぁ。
「……」
言うても、俺も嬉しいけどな。
心の中でそう思いながら、無言で食べ続ける裾野にときどき見上げながら完食してん。
ほんでな、店員さんがお皿を下げた後に、
「裾野、でも……」
俺はクリスマス色の包みを机に置いて、裾野に差し出してん。
「誕生日……やろ?」
そっぽ向いているけど、気持ちは伝わる筈。
せやけど裾野は微笑みながら首を横に振ってん。
「少し、寄りたいところがあるのだが……付き合ってくれるか?」
裾野はプレゼントを差し出す俺の手を握ると、結婚指輪が若干指を掠めてん。
「……ええけど」
俺は裾野の奥さんの弓削子さんに罪悪感を抱きながら、渋々頷いてん。
てか……裾野の手って、こんなに温かかったかな?
まぁええや。
支払いは裾野が払うって聞かへんかったから払ってもろたけど、そろそろこっちが払えるぐらい大人になりたい!
それにしても、結構な距離歩いている気がすんねんけど……どこに行くんやろ。
「なぁ」
クリスマスイブやから人混みが凄いんやけど、裾野はぐいぐい進んでいってん。
「間に合うといいのだが……」
その一言を最後に、俺は足の速い裾野とはぐれてしもてん。
こんな都会に1人残されても、どこかで右折か左折かされたら終わりやで。
せやけど、ここらへん……見覚えあるかもしれへん。
もしかして……裾野はずっと――。
俺の予想は的中したらしくってな、裾野の頭をまた見つけられた場所は……俺が売られた人間オークション会場跡地やってん。
しかも今は……クリスマスやからか、見上げきれへん程のクリスマスツリーがキラキラ光っててん。
「綺麗やな」
俺は裾野の隣で手を擦って息を吹きかけて言うと、裾野はクリスマスツリーを見上げながら無言で頷いてん。
「……人間オークション会場だったとこ、やんな?」
俺が小声で言うと、裾野は温かい目で見下して頭を撫でて、
「いつかここも昔の姿を忘れられるだろう。お前が"商品"だったことも、いつか……誰も知らなくなる。そのときまででいい」
なんて、俺には何にも理解できへんような回りくどい言い方をすると、耳元でこう言ってん。
「印のマスターになってもいいか? 指令は自由に今まで通り生きろ、としか言わない。これで印だけ触った太田雄平の権力が消える。ただ、これは……俺とお前だけの秘密にしてほしい。それを……プレゼントにしてくれればいい」
俺は裾野のその言葉を疑ったけど、それでも裾野がマスターなら……ええかもしれへん。
「ええよ。でも下……脱がへんと印に触れないやろ」
印は太腿にあるから、長いパンツやと指令も何もできへんの。
流石に外寒いのに脱がすことは無いやろうけど、部屋には騅も居るやんな。
どないするんやろう?
「菅野さえ良ければ、部屋の脱衣所の掃除を教える口実で出来るが……」
「それでええよ! でもこのプレゼントどうするん!?」
俺が折角買ったのが嬉しいくせに、一向に受け取ろうとせえへんこの繊細怪力男。
流石に怒るで。いくら喜んでも、流石に怒るで。
「それはな……部屋にあるユーカリが育った頃にくれないか?」
せやけど裾野は俺の頭をふわふわと撫でて、優しい笑顔を向けてん。
って、あれユーカリやったんや。ずっと観葉植物やと思ってたんやけど。
「う、うん……それまでとっとくからな? 絶対、絶対渡すからな!?」
俺は撫でている手を払いのけて、裾野の胸倉を掴んでん。
「あぁ。どんな俺でも渡してほしい」
それでも大人の余裕の笑顔を崩さへん裾野は、胸倉を掴んだ腕をそっと撫でてん。
「よう分からんけど、渡す……突き返されても、絶対渡すんやからな! 覚えとくんやで!」
俺は軽く肩を小突くと、今度は見失わへんように手を繋いでん。
「あぁ、俺たちの未来にメリークリスマス」
裾野は複雑な表情で、俺の手を握り返してん。
「うん! メリークリスマス」
せやけど俺は満面の笑みでそう返してん。
このときから、もしかしたらすれ違いがあったんかな?
俺はそんなことを思いながら、ユーカリを眺めててん。
気まぐれで連載中に。
お正月前の大掃除もあるので、連載中のままにしておきます!
さぁ、もう寝ましょう。
趙雲




