「片桐組の淡恋(たんれん)-黒河月道ルート最終話-」
分岐前最終話。
月道くんと会い、話をすることになっていたが……?
※約8,000字です。
※本編連動箇所:月光の美しい血の夜に
2012年9月6日 深夜
片桐組 鷹階 月道くんと永吉くんの部屋
恋
あれから数年が経ったけど、私も月道くんも互いに知られたくない事は口にせず、準相棒として相談に乗ったり休みの日を一緒に過ごしたりしていたんだ。
やっぱり……私は月道くんが好きだ。
だってさ、一緒に居るだけで楽しいし、月道くんも目の奥では笑っているのが伝わるから。
だから9月6日午前3時から4時は、月道くんに空けてもらうようにお願いしていた。
政府要人警護が終わって数時間空けておけば、気に入って依頼してくれた依頼人も解放してくれるだろうからって。
私さ……学校を休みにしているから、宙に浮きそうなくらい楽しみにしているの。
でもまあ決して細くはないからミニスカートなんか履けないけど……魔法使いっぽい黒いマキシ丈のワンピースを着て、同じ色の魔女帽子を被って行ってさ、少しでも驚いた顔が見たい。
「どんな顔、してくれるかな~?」
私は家から箒まで持ち出して、2人の部屋の前に立ったんだけど、人の気配をまるで感じなかった。
「……あれ?」
もしかして、依頼人にまだ捕まっているのかな?
そう思ってスマートフォンを確認してみたけど、〈依頼経過一覧〉には無くて〈完了一覧〉のトップにあったのだ。
どうして?
月道くんは嘘をつかないから、完了にしてから遊ぶことはしないし、空いていることは確かなのに。
何かがおかしい。
次に〈移動中隊員一覧〉にタブを切り替えたのだけど、そこにも載っていない。
「え……」
私は背中に冷や汗が流れ出したのを感じながら、藤堂エースにメールで一報入れることにした。
電話だと慌ててしまって迷惑をかけそうだったから、なるべく冷静に打てるメールで。
それでもフリック入力する指は震えてしまってまるで言う事を聞かなかったから、たった5行を入力するのに普段の倍の時間は掛かった。
まさか、片桐組を裏切った……?
そうしたら、藤堂エースの暗殺者として選ばれた私は月道くんを暗殺せざるを得ないのかな?
……それは無い、よね。
そんなこと言われたって……出来る訳が無いもの。
無い知恵を使って逃がすしかない。
「でも今は……藤堂エースに訊いてみるしかない」
私は胸に手を当てて深呼吸をしてから、烏階に駆け足で戻った。
そしてエースインフォーマー室の扉をノックすると、中から腑抜けた返事が聞こえた為半ば突入した。
部屋は深夜だというのに仮眠した形跡も匂いも無く照明は全て付けていた。
それに、お気に入りのソファに寝転がらずに部屋中を歩き回ってはため息をついていた。
だが机の上に積み上がっている『女性との接し方ハウトゥー』という本につい目がいってしまい、すぐに目を逸らした。
「……」
多分、藤堂エースはこうなることを予測していたような気がする。
いや、予測はしていたけど……その選択肢を取るとは思っていなかった、みたいな感じかな?
その証拠と言わんばかりに、烏たちも肩や頭に止らずに、ソファで皆項垂れている。
やがて私の姿を捉えた藤堂エースはピタリと足を止め、
「読んだよ。黒河自身が話したくなったら聞く予定だっただろうけど、ごめん恋ちゃん……ちょっと話させてくれない?」
と、いつもと違って真摯さを含んでいるうえに2人の考え方を汲んでそう言うので、私は躊躇いがちにでも頷くしかなかった。
おそらく、この件で必要な情報なのだろう。
「ありがと。じゃあ話すけど、黒河には同じ誕生日の異母兄弟……腹違いで2つ年上お兄さんが居んの。その人の名前は、後醍醐騅。どっちも捨て子で、後醍醐家の養子だったんだけど、騅含めお兄さんたちに言われた事で家出して養子縁組を解消してんの」
藤堂エースはそこまで話し終えると、ソファの手前の方にようやく座り、大きくため息をついた。
「そんでも黒河は出て行く前のどっかのタイミングで後醍醐騅がくれたクロワッサンのクッションか何かが気に入ってて、総長に拾われて殺し屋になってからも顔を見せに行ってたんだよ。俺にわざわざ学校を調べさせてまでね~……。で、そんなお兄さんが後醍醐家の継承権の闇を知っちゃったんだよね」
と、咳ばらいを交えながら話す藤堂エース。
ここまで聞いただけでも、かなり壮絶な過去……だけど、騅というお兄さんに恩返ししたい。
そんな気持ちが見え隠れする月道くんは、あんなに冷たく振舞っているけど……本当は温かい心を持っているんだ。
それなら笑顔を見たことはないけど、本当はできるんじゃないか……そうも思えてくる。
「……女も継げることをね。しかもそうなると後醍醐騅は5番目……縁起が悪いから4番目が飛んで自分が継ぐことになんの。あ~そもそも養子が継ぐと家が潰れるっていうジレンマか何かがあるから、それならお姉さん消そうってね」
と、身振り手振りをしながら話す藤堂エースは、淡々と話しているように見えてどこか話しづらそう。
私はなんだか心配になり眉を下げて聞いていると、
「あ~……恋ちゃんが心配してる通り、色々飛ばすけど後醍醐騅は黒河の名刺を持ってたから手助けを依頼した……もう後のことは分かる?」
と、一瞬涙ぐんだようにも見えた藤堂エースは、プイと顔を背け私が近づかないように烏たちで自身の顔を隠した。
そう……だったんだ。
急だけどお兄さんに恩返しができるなら……でも私との約束を延期するなりすると説明しなきゃいけない。
まだきっと話したくなかったんだ。
自分が数年でも元名家であったことと、捨て子であることも。
だけどまだ分からないことがある。
要人警護をやってから、そちらに向かったとしたら問題は無い……?
でも名家はたしか、元であれ身内殺しに関わったら駄目だったっけ。
そうなると……月道くんはどうなるの?
「あの……元であれ身内を殺すのは駄目ですけど、手助けでも駄目なのでしょうか?」
私が鼻を啜る藤堂エースの方角を見て言うと、藤堂エースは鼻をかんだティッシュを軍服のジャケットのポケットに入れ、
「ごめん恋ちゃん。そこもそうなんだけどね~……黒河は後醍醐詠美が深い眠りに入る時間帯を狙いたかったから、要人警護をすっぽかすしか無かったんだよ」
と、彼なら絶対にやらない事をサラッと言われ、私は一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「まぁ、依頼自体は平気だったんだけど……依頼人の女は黒河の能力と絶対にキャンセルしない精神に惚れて頼んだから、すぐに総長に怒りの電話が入った……『黒河月道が来なかった』ってね」
藤堂エースは放心状態の私を他所にそう続けると、赤くなった目をこちらに向け、
「あいつもバカだよ……。でもさぁ、それだけ嬉しかったんだろうな~って思うと、羨ましいんだよね~あいつのこと」
と、回顧しながら目線を空へと向ける藤堂エース。
どこか昔を懐かしんでいる言い方から察するに、何となく噂程度に流れている藤堂エースの元相棒である光明寺優太さんの事だろう。
「あ~あ……」
藤堂エースがそう大きく天を仰いだ頃、耳を劈く総長からの特別着信音が部屋中に鳴り響き、藤堂エースは一気に表情を引き締めスマートフォンの画面をタップした。
しばらく適当さを微塵も感じさせない仕事モードの藤堂エースの返事が反響し、しばらくすると深々とお辞儀をしてスリーブモードにした。
そしてすぐに普段の表情に戻ると、
「佐藤永吉が生け捕りにしたから、これから形だけの拷問だって。何かね~もう1人呼んでいるらしいけど、見学はそれだけだって」
と、もしゃもしゃ髪を掻きむしりながら言い、ようやく理解の追いついた私を置いて部屋を出ようとするので、
「拷問部屋……私も付いていっていいですか?」
と、ほぼ衝動的に言うと、藤堂エースは不思議そうな顔をしつつも頷いてくださった。
ここまで聞いておいて帰れるわけもないし、何よりも月道くんが本当に無事かどうか知りたかったんだもの。
総長室のある中世の悪のお城みたいな造りのところの最上階の更に角。
そこにある血の臭いが鼻を衝く6畳程の小部屋の前を突き当りまで走る廊下に来ると、血が固まったような色の垂れ幕が3枚の高窓を覆い隠すように下がっており、中を窺い知ることは出来ない。
たしか廊下側にある扉はオートロックで、こちらから入る以外にも部屋の奥にシャワー部屋と総長室に続く廊下があった気がする。
あとは中からの声は外に聞こえるけど、外の声は中に聞こえないっていう特殊な防音加工をしていた筈。
それにしても、もう1人呼んだっていうけど……私たち以外には誰も居ない。
とはいえ片桐総長の秘蔵っ子の月道くんなら、形だけの拷問だけでサッと終わるだろう。
そう思いながら、廊下にあるベンチに並んで座っていた。
すると2人の足音が中から聞こえたことから、総長と副総長だと推測した。
「黒河月道……まさかお前をこんな風にするとはな」
この地響きを体現したかのような低い声は総長だ。
独特な威圧感と、声の反響し具合が恐怖を煽ってくる。
それから縄が軋む音が聞こえたから、吊るされているか、椅子に縛り付けられているかされているんだろうな。
「……依頼人の手前こうしているが、黒河。騅という男との共犯を否認すれば、拷問は形だけで終わらしてやる。それに拷問の見学者は3人の予定だ、分かるな?」
総長は私たち一般隊員には絶対に使わないような優しい声色で言うと、さらりと髪を撫でる音が微かに聞こえた。
……総長は、本当に月道くんのことを知っているのかな。
月道くんは…………髪を触られるのを極端に嫌がるのに。
「……」
月道くんの返事は聞こえないけど、代わりに規則的にギシッギシと軋む縄の音が聞こえてきた。
それを聞いた私と藤堂エースは顔を見合わせると、互いに頷き合った。
――モールス信号だ。
それは一通り軋み終えるともう1度同じリズムで軋んだ為、本で読んだ知識を引き出しから探し当て、
「吊るされている、手首縄、他拘束具無し……ですね」
と、モールス信号表を脳内で映像化して言うと、藤堂エースも目を泳がせながら頷いた。
「多分、俺たちが来ているの分かったんじゃないの~?」
藤堂エースは欠伸混じりに言うと、脚をグンと前に伸ばした。
「そうなのでしょうか……」
私は明かりがついているかどうかも分からない赤黒い垂れ幕を見つめ、首を捻った。
そう思っていると今度は中から総長が歩み寄ったであろう音が聞こえ、
「どうした? 騅なんて男は知らない、要人警護に向かってはいたが居合わせた為助けた。そう言えば解放だ。……返事は?」
と、またしても息子に語り掛けるような口調で言う総長。
余程お気に入りなんだなぁ……月道くんが。
それに月道くんだって、別に総長が嫌いという訳でも無い。
このまま肯定の返事をして終わり。後日にでも私と話す筈だったことを話してもらおう。
そう思って椅子を立とうとした私を引き止めたのは、月道くんの鼻で笑ったような溜息だった。
「はい、そうですね。騅は自分の人生を投げうってまで俺を頼ってくれた大事な兄です。……ですから、俺が殺人指導から逃亡まで計画致しました」
そして彼から紡がれた言葉に私は……口をあんぐり開けたまま崩れ落ちるように座った。
多分……初めて総長に逆らったんじゃないかな?
嘘が付けない、そもそも嘘をつく気すら無い月道くんが、私に嘘を付いてまで……。本当に嬉しかったんだろうな。
私は人間らしい部分が見られた嬉しさ半分、総長に逆らった事への不安半分で息をつくと、それから数時間にも感じる程の重い沈黙が流れた。
「……」
私も藤堂エースも言葉を発せず、中からも何も聞こえない。
月道くんはどんな表情で総長を見ているのだろう?
総長は人間らしい彼をどう思うのだろう?
私はこの先の展開がまるで読めなかった。
――グゴキッ!!!!
誰もが固唾をのむ数分程の静寂を切り裂いたのは、骨を数本砕いたような音だった。
「うがっ……ぁ……っ!!」
その次に聞こえてきたのは、月道くんのものとは思えない程の掠れた断末魔のような声と、血を吐く気味の悪い音!
「……っ!」
私は助けに行かなければという使命感から俊敏に立ち上がったが、すぐに藤堂エースに腕を掴まれ首を横に振った。
「恋ちゃん……」
睨みつける私を諫める藤堂エースは、どこか過去の自分を見ているかのように物憂げで私は自然と椅子に吸い込まれていた。
まさか今の一発で絶命することはないだろうが、気を失っているのか無情にも振り子のように揺れる縄の音だけがこちらに聞こえてくる……。
「総長……今のはいくらなんでも――」
中から副総長がため息混じりに言うのが聞こえるが、止められなかった事を考えると相当覇気が出ていたに違いない。
「……」
外に居る筈なのに総長の覇気がこちらまで伝わっており、副総長が言葉を飲み込む気持ちも分かる。
それから時を置かずこちら側から部屋を出た総長は、私を見つけるなり無表情のまま……睨みつけることもなく歩み去った。
「……月道くん」
私は軋みながら閉まる扉の先に駆け寄りたい気持ちを抑え、俯きながら何も出来ない自分を自責した。
だが扉が閉まる寸前で腕を挟み安堵の溜息をついたのが耳に入り、ガバッと顔を上げるとそこには――
「後醍醐傑のせいで遅刻だよ! ったくあいつ!」
と、”隻眼の銃使い”である後醍醐傑に対し悪態をつく、”片桐組のもう1人の天才”と名高い大崎月光さんが居たのだ。
天文学に詳しく、特に土星が好きだという彼の知識と性格を飲み込んだ者は天才になれる、と言われる程理解に苦しむ趣味嗜好をしている。
ここに来る前はマジシャンをしていたが、藍竜組の誘いを断り今は月道くんの毒弾の研究開発と、武器開発改造をしている。
「何だ今休憩中か~!」
と、月光さんは半ば嬉しそうに扉に細工をすると、椅子に座ったままの私たちに向かってガッツポーズをした。
「いや~……これ、実は歴きとした脱出マジックなんだよ」
そう言うと、月光さんは得意げに人差し指を立てて目を閉じ、
「今から5分後に片桐兄弟が戻る。その15秒後、20秒程舞台照明程の強い光を部屋中に当て、黒河月道を起こす。それから5秒後、扉施錠の強迫観念から扉の方に来て中央部分を叩く。その振動で十分なんだが、今挟んでいるチョコがこっちにズレて、扉の内側に仕掛けた俺特製の釘が挟まる。これで扉が若干浮くのに、内側からは閉じている事になっている……密室偽造トリックの出来上がりってな訳で?」
と、頼んでもいないのに種明かしを始めるので、私は身を乗り出して聞いていたのだが、ふと横を見ると藤堂エースは夢の世界だ。
それにも関わらず月光さんは息継ぎをすると、
「で、2~3時間の痛そ~な拷問は、鞭、総長の拳と副総長に俺があげた斧が使われる。……安心しろ、斧は出血が目的で傷をつけるのが目的じゃあない。拷問なのに毎回綺麗な死体しか出てこないのは、俺が一役買ってるからってな訳で」
と、矢継ぎ早に言われてしまい、私は一瞬思考が追いつかなかった。
毎回ということは、毎回拷問を見学しているのだろうか?
だとしたら、藤堂エースの資料通りの変人!?
いやいやいや。それよりも、何で月光さんが脱出マジックなんて仕掛けるのさ?
資料によれば、そこまで親交が深い訳でもないし、むしろ私よりも冷たくあしらわれているらしいし……キメ顔をしているうちに訊いておこう。
「えぇっと……助けたいんですか?」
と、最後の一言を言う前に月光さんは口からトランプを勢いよく出すマジックをしたため、図星だとすぐに分かった。
これだけは分かりやすい……これだけは。
しかし月光さんは突然顔をしかめ、眉間を伸ばすような仕草をすると、
「大事な人を裏切ったことがあるから。今度は違う意味で総長を裏切ってみせようかとね」
と、小鼻を膨らませ、目を輝かせて言った。
私はそれが何を指すのが分からず首を捻ると、いつの間にかこちらの世界に戻った藤堂エースが口を開いた。
「あ~……大崎月光裏切り事件ね~。びっくりしたよ~」
そう言われた月光さんは、くいと顎を引き私に視線を遣った。
「はは……君は知らないだろうが、俺は一度死にかけた人間のようなものだ。片桐組の人間たちが簡単なマジックを見抜けなかったから集団リンチに遭って、死亡ニュースまで流されて迷惑したと思ったらな、藍竜組からの帰り道で拉致されて。俺はこの手で総長を殺す為に偉くなって、毎回拷問見学してあいつの能力を盗み見てやろうとした。だが分からない……後醍醐傑の右目を綺麗にくり抜いた方法が――」
月光さんは小声かつ早口で言いながら頬を擦り、落ち着かない様子で歩き回ると、頭を抱えてその場に座り込んだ。
その様子を見た私は、月道くんと違ってベラベラと自分の過去を話す月光さんを何となく懐疑的な目で見てしまった。
するとそこで総長と副総長が戻り、月光さんが推理した状況そのものが目の前で繰り広げられた。
「はぁ……」
これが彼の脳内に秒単位で記憶されている光景……。
これは本物。紛れもない現実を見せられている。
「……」
私は藤堂エースと各々の腕時計を見ながら感心し、その後2~3時間……名状しがたい拷問に私は耳を塞ぎ、その手すら震えはじめた頃、藤堂エースがそっと胸を貸してくださった。
それにしても、クールで氷山みたいに気高い月道くんがあんなに……喉を枯らして叫ぶなんて……。
好きな人の身体が、絶対に敵わない相手にどんどん傷つけられていく。
それだけでもう、何も出来ない悔しさも相まって私の心は壊れかけていた。
だけど藤堂エースがずっと背中を擦ってくださって、月光さんも心配そうに見下してくれたから……月道くんは死なないんだと心の奥底の方では安心できた。
そうしているうちに時間は刻々と過ぎていき、烏が頭に止ったことで耳から手を離すと、先程とは打って変わって音の無い世界が広がっていた。
「あれ……」
私は顔をあげる途中で藤堂エースの軍服が自分の後悔で濡らしてしまったことに気付き、すぐにペコペコ頭を下げた。
「い~よい~よ」
藤堂エースはそう言うと、ぎこちない手つきで頭を撫でてくださった。
嬉しい反面ハウトゥー本が頭を過るけど、藤堂エースなりに私との接し方を考えてくださっているので素直に感謝した。
「おいおいお二人さん、俺の脱出マジックの成果見てもらわなきゃ~」
月光さんは私たちを交互に見ながら腰に手を当てていたが、藤堂エースは完全に寝ていた為愛想笑いを決め込んでいる。
「ぽいじゃ!」
それでも月光さんは甲高い声で叫んで釘を引っ張りロックを解除させると、消えていた照明を付け藤堂エースだけを手招きした。
おそらく、免疫の無い私に気を遣ってくださったのだろう。
藤堂エースは何度も小さく頷き、私の肩をポンと叩いてから部屋に入った。
う…………ハウトゥー本のおかげな気しかしない。
だいたい急に優しくなったり、適当じゃなくなるのって好きな人の前でやればいいのに……。
……ん? もしかして実験台にされている?
うぅ……何だか複雑だけど、藤堂エースの役に立つなら仕方ない、か……?
なんて顔を引きつらせながら考えていると、藤堂エースがひょっこり扉の隙間から顔を出し、
「久々に手術でもすっかな~……って感じの傷と失血量」
なんて大事なことを淡々と言われたため、私は思わず「そうですか……」と、返事しそうになったが、頭をブンブンと振り、
「藤堂エースは内科医じゃありませんか!?」
と、ツッコミを入れてみると、藤堂エースは首を傾げながら烏の羽を撫でつけ、
「まぁそうでもある」
と、やんわりとした笑顔で言われ、つくづく天才は怖いと感じ、
「はいはい、そうですねー」
と、医療に関しては無知なので適当に流すことにしたのだけど、藤堂エースは急に真剣な表情になり、
「あとのことは、俺たちに任せてくれないかな?」
と、口調すら適当さを抜いてきたため、私は一瞬返事を躊躇った。
(どうしようか……?)
A. 専門的なことは分からない為、「はい。よろしくお願いいたします」と、返事をする。
B. 邪魔になるかもしれないが、「いえ、月道くんと一緒に居させてください」と、返事をする。
恋です。
最後の分岐はどちらかだけ書く訳ではなくて、ちゃーんと書きますよ!
ちゃーんとね!
順番は上からです。
どちらがHappyか予想しながらお待ちくださいね。
このシリーズの次回投稿日は、11月中旬予定です!
……と言いますのも、10月31日はハロウィーンですよ!!
もちろん、そのお話も別で書きます!
その次の週は、資格試験勉強に充てさせてください……。
ご迷惑をお掛け致します。
それでは少し早めに……トリックオアトリート!!
恋でしたー!




