5話 冒険者登録する際、ゴロツキに絡まれるのは当然のことである
はい。皆さんお待ちかねの絡まれタイムです。
冒険者ギルドで主人公が絡まれるのはファンタジーのお約束ですよね?
ね?
親切なオークに連れられて冒険者ギルドに向かう途中、ふとオークが立ち止まった。
オークは俺の方に振り返りこう言った。
「そういえば、自己紹介がまだだったブヒィ。ボクの名前はシューバイン・マンガリッツァっていうブヒィ。シューバインで良いブヒィ。」
そう言ってまた歩き出した。
そういえばそうだ。まだ名前すら名乗ってなかった事に今気づいた。こんなに世話になっておいて恥ずかしいな。そう思いつつ、俺もシューバインに名乗った。ていうかなんかカッコイイ感じの名前だな…
「ヒデオっていうブヒィ?良い名前ブヒィ。うちの里にも似たような響きの名前の人がいるから親近感湧くブヒィ。」
「あ、着いたブヒィ。ここブヒィ。」
へー。オークにも日本人っぽい名前の人もいるのか。ってそうこうしてるうちに着いたみたいだ。
これが冒険者ギルドか。なんかこうイメージ通りというか、THA酒場って感じの建物だな。
「さあ入るブヒィ。」
そう言ってシューバインは建物の中に入っていった。俺も後に続いて行く。
中の様子は外観通り酒場みたいだった。
いくつもあるテーブルで軽鎧を付けた冒険者風の人達がビールっぽいのを飲んでいるのが見える。
中心近くの目立つ席では、剣士らしき爽やか系イケメンとガッシリした戦士らしき暑苦しい系イケメンと、魔法使いらしき女の子と僧侶らしき女の子の4人組が楽しそうに談笑している。
わー。王道勇者っぽーい。
ゲームとかアニメなら確実に主人公だわ……
壁際の席には、異世界物でよく冒険者登録したばかりの主人公に絡んで来る荒くれ者って感じの、ガタイの良くて上半身ほぼ裸で棘の付いた肩パッドを装着した目つきの悪すぎるスキンヘッドやモヒカンな方々がビールらしき飲み物を飲みながら豪快に笑っている。
……うん。関わらないようにしよう。そうしよう。だって怖いもの。なに?あのヒャッハー!とか奇声上げながらバイク乗り回して略奪とかしてそうな人達!?あれも冒険者なの!?目を合わせちゃ駄目だ!!絡まれる!!
「ヒデオ。何してるブヒィ?こっちが受付ブヒィ。ここで登録できるブヒィ。ボクはあっちの買取カウンターに居るから終わったら来るブヒィ。」
おっとシューバインが呼んでる。世紀末な方々と目を合わせないようにして、できるだけ目立たないようそそくさと移動する。
冒険者の登録は割と簡単に終わった。名前を書いて冒険者カードに血を垂らすだけだった。冒険者カードはステータスと犯罪歴とかが分かる身分証的アイテムだった。あ、文字の方はなぜか日本語だった。ひらがなとカタカナと漢字が普通に使えたのだ。シューバインに聞くと大昔はこの世界特有の言語が有ったらしいけど、勇者が召喚されてからは勇者が日本語を広めたらしい。他にも現代日本の技術とか色々この世界に合わせて広めていったらしい。紙とかペンも普通に有るし、ライトは魔法道具で量産されてるし、香辛料も大量栽培されてるそうだ…やりすぎだぜ先輩方…
転移前の準備が全て無駄になったことにショックを受けて項垂れていると、誰かが近づいてくる気配を感じた。
シューバインかと思い顔を上げると、そこには例の肩パッド様方が居た。
「ようニーチャン。今、冒険者に登録してたろ?見てたぜぇ。そんなヒョロイ身体で冒険者が務まると思ってんのか?あ゛あ゛ん?」
ヒィッ!?俺なんもしてないのになんで絡まれんだよぉおおおお!?
なんでそのデカい身体で下から覗き込むみたいにガン付けてくるんだよぉ!?
「どうしたぁ?ブルっちまって声も出ねえのかぁ?そんなことでこれから魔族やら魔物やらと戦って行けると思ってんのかぁ?舐めてんじゃねえぞ!!」
そう言って俺の肩を掴み近くの椅子に座らせてくる。
こ、怖すぎる!言い返したりしたら殺される!シューバイン助けて~!!
「ちっ!これから冒険者やって行くんならそのナヨナヨした身体からどうにかしな!手始めに肉食え肉!おら!このステーキは俺の奢りだ。腹いっぱい食いやがれ!」
ドンッ!と目の前にデカいステーキが置かれた。
へ…?
「冒険者は身体が資本だからなぁ!これ食って鍛えて、せいぜい死なねえように頑張るこったなぁ!」
そう言って俺の背中をバンバン叩いてから、ガハハハハ!と豪快に笑いながら肩パッド達は去って行った。
えーと…どゆこと?
訳が分からず呆然としていると、シューバインがこっちに歩いてきた。
「ヒデオ。通過儀礼は終わったブヒィ?」
なんだよ通過儀礼って?めっちゃ絡まれてたんですけど!?
「そのステーキのことブヒィ。あの人達、新人が来ると毎回やってるブヒィ。あれは冒険者になったからって調子に乗らずに気を付けるようにって言ってくれてるブヒィ。ああ見えて良い人達ブヒィ。」
なんだ。そうだったのか。めちゃくちゃ怖かったけどな!それにしても後輩冒険者が直ぐに死なないように注意してくれるなんて、やり方はアレだけど良い先輩冒険者なんだな。
「ん?何言ってるブヒィ?あの人達は冒険者じゃないブヒィ。」
え?じゃあなに?まさか本当は暴力団か何かだったのか…?それはそれで怖いんですけど…
「いや、清掃屋さんブヒィ。」
ヒャッハー!!汚物は消毒だー!!
この主人公はゴロツキに絡まれてもビビって反撃できません☆
だって、ステータスも大して高くないただのヒキコモリだもの☆