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EPISODE OF SELFA 04「光の隣」

 4 『光の隣』


 ――あの戦いが終わってから、慌ただしい日々が続いている。

   それでも、私とヒカルにとっては穏やかな、大切な、求めていた日々だ。


 あれから、私たちを取り巻く環境はがらっと変わった。

 世間はVANの長を倒したヒカルを大戦の英雄、ライト・ブリンガーと呼んでいる。

 結局、私たちが望んだような今まで通りの日常というものは、戻ってこなかった。ヒカルを始め、あの決戦の時に中心となったメンバーは顔と名前が世界中に知れ渡ってしまった。戦いが表面化してからというもの、世界は急激に変化せざるをえなかった。力の存在が表に出てきてしまったのだから、当然だ。

 連日、ヒカルたちはマスコミに追われ、まともな生活など送れる環境ではなかった。世界のバランスそのものが急変したこともあって、放っておけば落ち着くかもしれない、という楽観視はできなかった。

 あの戦いに参加した一人、というのならまだしも、私たちは名前が知られ過ぎている。普通の人のように就学はおろか、まともに就職ができるとは思えなかった。

 多くの人の認識では、私たちはまともに関わり合いになるべき存在ではなくなってしまっていた。

 ただでさえ、あの戦いの中心にいた、実力者なのだ。普通の人間からすれば、どれだけ危険な人物か分かったものではない。

 だから、ヒカルは再び動くことにした。

 自分たちが望む日常が得られないなら、創ればいい、と。

 元々、VANという存在自体には敵意を持っていなかったのもあるのだろう。ヒカルはVANの残党と、レジスタンスの双方をまとめ上げて国を興すことを提案した。

 VANという組織は事実上、瓦解していた。高いカリスマを持ち、VANの中心でその組織そのものを支える存在でもあったリーダーがヒカルによって殺された。それだけでなく、VANの実動部隊は決戦の際にそのほとんどがレジスタンスに敗れ、壊滅していた。特に、主要な特殊部隊長は軒並み死亡しており、組織としての機能はほとんど失われたに等しかった。

 ただ、生き延びたVANの人員は多く、非戦闘員は居住地域と共に無傷と言って良かった。そのVANの居住地域はそれだけでも一つの都市として機能できる規模を持っている。実際、居住地域自体は大戦以前の生活を続けていた。

 生き延びたVANの構成員は崩壊した本部跡地で瓦礫の撤去など、復興作業を始めた。

 結局、争い自体は収束したが、事態が大きく変化したわけではなかった。VANという組織に戦意はなく、事実として組織を率いて世界と一戦交えようとする者もいなかった。ヒカルの存在が、VANが再び立ち上がろうとするのを抑制していたのは明らかだ。

 あの戦いの最後、ヒカルが示した力は、すべての能力者から戦意を奪うのに十分だった。あの場で戦っていたすべての能力者が、力を打ち消され、解放していた力を強引に閉ざされた。VANの長にすら、そんな芸当はできなかった。

 名実共に、ヒカルは能力者の頂点に立った。だからこそ英雄と呼ばれることにもなり、戦いも収束した。

 ヒカルは私に思いを打ち明け、シュウに相談し、ジンたちレジスタンスの四天王にも話をした。

 VANの跡地に、新しい国を創ろうと思う、と。

 それはVANを継ぐことではないのかと、一瞬思った。

 だが、ヒカルはそれを否定した。

「VANは、力を持つ者のことしか考えていなかった。だけど、俺は、そうじゃなくて、望む人なら誰でもそこに暮らせるような場所にしたいんだ」

 あの時、ヒカルはそう言った。

 力を持たない者すべてを敵と見做して、居場所を無理矢理勝ち取るために争いを起こしたVANとは違う、と。力の有無に関わらず、望むならどんな者であろうと受け入れる。そんな国がいいのだ、と。

 その思いは、VANの長だった私の父とは違っていた。

 ヒカルは最初、ジンに国のトップを頼もうとしていた。それを止めたのは他ならぬシュウだった。

 VANのリーダーを倒した本人であり、大戦の英雄でもあるヒカルが中心になるべきだと、シュウが言ったのだ。ジンにはカリスマも、実力も、レジスタンスのリーダーという立場もあるが、実際に戦争を終わらせたのはヒカルだ。ヒカルがジンの部下だったわけではないし、厳密にはレジスタンスでもない。

 だから、レジスタンスとVAN残党を繋げる役目は、ヒカルにしかできない、と。

 英雄の名を使うことで、他の誰かがやるよりも世界に対して納得させることもできる。

 シュウはそう主張した。

 ヒカルはジンとも相談し、結局自分が中心になることを決意したようだった。

 そして、ヒカルはシュウ、ジン、カエデ、ショウ、ミズキと、私を連れてVANの跡地を訪れた。

 復興作業をしていたVANの人間たちは私たちを見て警戒したが、ヒカルは国を創りたいと、その話し合いの場を持ちたいと訴えた。

 VANの人間たちは顔を見合わせて、その場で相談を始めた。ヒカルたちを信用していいのかどうかという点から、VANという組織の今後の在り方についても話し合い、結論としてヒカルたちの話し合いに応じることを承諾した。

 復興作業の中心になっていた何人かと、居住地域から選出された何人かが代表として参加することとなり会談は始まった。

 会談は四度に渡って行われ、その最後の四度目の会談で話はまとまった。結果としては、レジスタンスとVANの和解が成立し、ヒカルの主張が通る形になった。

 元々、レジスタンスの中で最もVANを敵視していたのはジンだった。ただ、ジンの真意は復讐であり、それ自体は大戦の際に果たされていた。復讐を遂げたジンにとって、今のVANを敵視する理由はなかった。

 この会談はVANの残党がヒカルやレジスタンスを受け入れるかどうかが焦点だったと言っていい。VAN残党の中には強く反発する者もいたが、争いには発展しなかった。

 そうして、和解成立から三日後、ヒカルはVAN跡地から全世界に向けて演説を行った。

 VANのように、能力者だけの場所ではない。ありとあらゆるものに寛容な、そこで暮らすことを望む者すべてを受け入れるような場所にしたい。

 ヒカルはひたすらに訴えた。

 自分が戦うに至ったのは、居場所を脅かされたからであると。ただ、当たり前に暮らしていける場所があれば良かったのだと。今の世界は、それができない。だから、自分たちで創るのだ、と。

 VAN本部施設を国の中枢として、国を興そうとしていることを、ヒカルは語った。

 演説の後、数日のうちにVAN跡地には多くの能力者が集まった。それぞれの国で生きることが困難になった者ばかりだったが、ヒカルたちは彼らを受け入れた。

 そういった者たちの参入もあり、復興は凄まじい勢いで進んだ。

 崩壊していた本部施設は元通りとなり、国の中枢になることが決まった。居住区画を拡大する都市計画なども、専門知識を持つ者たちが集まったおかげで当初の予定よりも早く目途が立つことになった。

 様々なものが一斉に動き始めた。

 そして、年が明ける前に、ヒカルはユニオンという国の設立と独立を宣言した。

 初代首相にはヒカル自身が就任し、首脳陣にはレジスタンスとVANの実動組織、居住区域から代表が選出された。

 それからの生活は慌ただしいものではあったが、あのまま日本で過ごすよりは平穏だったと思う。

 ヒカルは法整備やら何やらに追われ、様々な取り決めに対して頭を悩ませながらも国のトップとして頑張っている。周りで補佐してくれる者たちがいることもあって、何とかやれている。

 私は、新しい自宅でヒカルの帰りを待ちながら暮らしている。隣にはシュウの家ができ、ユキも共に暮らしている。

 また、ヴィクセンというジャーナリストのすすめで、ヒカルはあの当時の体験記の執筆を始めた。本の形にした方が、分かり易いのではないか、とヴィクセンは言っていた。もっとも、ヴィクセン自身もヒカルの目線からあの当時のことを知りたいようだった。

 年が明けて半年ぐらいして、コウジとカオリの間に子どもが生まれたと報告があった。仕事の合間を見つけて、私はヒカルと一緒に日本へ渡った。時間的な余裕はなかったから、私の力で移動することになったが、仕方が無い。極力誰にも知られないように注意して、私たちは密かに二人を祝った。

 それから暫くして、シュウとユキの間にも子どもが出来たことが分かった。家が隣同士だったこともあって、私はユキと過ごす機会が多かった。

 私としては、嬉しくもあり、羨ましくもあった。

 そうして、あの戦いから一年と半年が過ぎた頃にヒカルは体験記の第一巻を出版し、ユキも出産を終えた。既にショウとミズキの間にも子が生まれ、カエデも妊娠中だ。

 対して、私とヒカルの間には、中々子どもができなかった。

「……ごめんね、ヒカル」

 ベッドの中で、私はヒカルに謝った。

「……何でセルファが謝るんだ?」

 ヒカルは不思議そうに、そう言った。

「今日、ジェーンさんに調べてもらったの。そうしたら、私は元々子どもが出来にくい体質なんだって言われて……」

 毎晩とは言わないまでも、当然だが私はもう何度もヒカルと夜を過ごしている。

 ストレスなどで子どもができにくくなるという話もあるが、私自身は至って健康だ。生理不順でもないし、別段冷え症というわけでもない。むしろ、今の生活はそれなりに大変だが幸せだ。

 いくらなんでもおかしいと思った私は、何でも見通すことのできる力を持つジェーン・オウルという能力者の下を訪ね、調べてもらうことにしたのだった。彼女はこの国で新たに目覚めた能力者の力の鑑定を行っている。私も何度か手伝ったことがある。それに、あの戦いの時にもヒカルの力を鑑定し、助言をくれた存在でもある。

 結果、私の体質だと言われた。

 遺伝かどうかまでは分からないが、私は子孫を残す能力が弱い、と。強力過ぎる力の反動かもしれない、とも言われた。

「別に、謝ることはないよ」

 ヒカルはそう言って、私の頭を撫でた。優しい表情で、申し訳なさそうな顔をする私を抱き締める。

「出来ない、って言われたわけじゃないんだろ?」

 ヒカルの言葉に、私は彼の胸に顔を埋めたまま頷いた。

「じゃあ、大丈夫だよ」

 ヒカルの顔を見上げる。

 優しい表情で、私を見ている。

「子どもが欲しいから、セルファと一緒になったわけじゃない。セルファが好きだから、セルファに子を生んで欲しいと思うんだ」

 言い聞かせるような言葉に、私は俯く。

「一生出来なくたって、君と要られるなら、俺は構わない」

「でも……」

「養子を貰ったっていい。俺にとってはセルファが一番なんだ」

 ヒカルはそれでいいかもしれない。

 けれど、私はヒカルとの子が欲しい。ヒカルとの間に子どもができるのが、一番だ。それはヒカルだって同じはず。

「俺たちのペースでいいじゃないか。急ぐことなんてないさ」

 優しく私の髪を撫でながら、ヒカルが言う。

 私のせいじゃない、と言っているような気がした。私の体が原因だとしても、私がそれを自分でどうこうできるわけではない。生まれつきのものなら、尚更だ。

「いっそ、私の力で――」

「それはやめよう」

 私の呟きを、ヒカルは遮った。

 私が持つ力は、理論上、あらゆることができるというものだ。それで自分自身の体質を変えることも、確証はないができるかもしれない。

「どんな悪影響があるか分からないし、それに」

 ヒカルが私を抱き締める。

「ありのままでいいんだ、俺は」

「あ……」

 その言葉で、思い出した。

 ありのままの私を受け入れてくれたから、私はヒカルに惹かれた。ヒカルも、私を好きになってくれた。

 手を加えては、意味がない。それで悪影響がでるかどうかはさして問題ではない。その行為を認めることそのものが、問題なのだ。

 ヒカルは元々、何事もなく、そのまま生きていける未来を求めていた。自分を偽ることもなく、自分が思うように生きていく。それを、VANの長が、私の父が妨げた。

 自分にとって都合の良いように、他のあらゆるものを利用して、ヒカルを殺そうとした。ヒカルは自分だけでなく、他者も、極力生かそうとしていた。

 このできたばかりの国だって、ありのまま存在できること、を重視している。

「私、焦ってたのかな……」

 ユキや、ミズキ、カエデ、周りの人たちに、おいていかれた気がしていた。追い付かなければいけないような気がしていた。

「まぁ、そりゃあ、俺だって思うところはあるけどね」

 ヒカルは苦笑した。

「でも、俺は、今、幸せだから」

 それを聞いて、少し安心した。ヒカルも同じだったんだ、と。

 どちらともなく、視線を合わせる。唇を絡ませて、肌を重ねて、全身でお互いの温もりを確かめて。

 そして。

 その日、私はヒカルの子を宿した。

 私が気付いたのは、数日後だったけれど。

 ヒカルは喜んでくれた。私も嬉しかった。

 私が、彼と歩んできた証。

 私が、彼と歩んでいく証。

 ヒカルの隣が、私の居場所だから。

 私にとっての、光。

 私は、ヒカルの隣にいる。

 これからも、ずっと。

 かなり間が空いてしまいましたが、セルファの話は2012年1月の段階で完成していました。投稿処理をせぬまま放置してしまっていたものを投稿し、ひとまずこの短編集はこれにて完結としておきます。

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