『魔王』の討伐の後に
今より五年ほど昔、人々に災厄を齎すと云われる存在、『魔王』が誕生した。魔王は人々を苦しめ、自身の力が及ぶ勢力を拡大していった。誕生からおよそ二年の月日が経ったころ、ソディル王国の勅命によって八人の戦士たちが集い、「魔王討伐隊」を結成した。
彼らは旅路の中で互いを信頼し、力をつけ最後には魔王を倒すに至った。
至る所に傷を負いながら立っている七人の若者たちが、目前の青少年へ視線を集中させていた。
「何故、そのようなことをするのですか?」
銀髪の少年が疲れて座り込みながら青少年へ質問する。
「何故って、この世を救うために決まっているだろ?」
「そいつは我々を苦しめた魔王ですよ!」
紺碧のローブをまとった青年が語気を荒げる。
「そうだな。だが、俺は俺のできることを止めるつもりはない」
「ならば、ここで君を殺せば、平和に終わると思うのだが?」
エルフの青年が鋭い視線で青少年に向かって弓を向けた。
「勝手にすればいいさ。真実を知らないあんたらも十分罪だと思うんだがな……」
「何?」
「まぁ、ここでそれを話さない俺も罪を背負っているようなものか」
自嘲気味に笑う青少年の姿が、彼らには腹立たしかった。『魔王討伐』という同じ目標を掲げ、それなりに濃い時間を過ごし、仲間として十分に認め合ってきたと思っていた。しかし、青少年は真実は別にあるという。
ならば、なぜそのことを事前に話してくれない?話してくれないほど信頼を得なかったのか?話せない事情があるのか?
戦いで疲れた頭では、考えが出てきてもうまくまとまらず、疑問が疑問を呼ぶだけであった。
青少年としては、今まで共に戦ってきた仲間たちの思いも十分にわかっているつもりだ。『魔王』の行いは酷いものであるし、苦しんできたことも事実である。真実を知らされていない彼らにしてみれば当然の感情だろう。だが青少年には、恐らくごく一部の人間しか知りえないこの戦いの真相を知っていた。だからこそ、彼らの気持ちを踏み躙ってでも、一人で罪を背負う覚悟で成し遂げなければならないのであった。
「決意は固いんだな」
騎士の青年が一言青少年に告げる。
「何、そんなに悪いことにはならないさ。お国の奴らには俺のことは裏切ったとでも言っておけばいいさ。」
「それではお前が悪者として祭り上げられてしまうぞ」
「恐らく大丈夫だろ。少なくとも国王は知っていて俺たちを送り出したはずさ」
「国王が……」
「悪いが今は話している暇がない」
彼らに微笑みながら、青少年は傍らで霧のように消えかかっている『魔王』と称される者に魔方陣を展開した。
「これで、穢れが消えるといいんだが……【煌破聖光天滅陣】」
魔方陣が完成し、言葉を紡いだ瞬間、黄金に輝く光に包まれた―――――