11:AM
A
入ってきた感覚は、イチカの時と似ているようで、まるで違うものだった。
最初の一瞬に感じたのは、心の底から全身を突き刺す、そんな冷たさだった。
しかし続けてやってきた光にあっという間に吹き飛ばされた。
暖かい。心が安らぐ。ずっとそこにいたくなる。そんな温もりに包まれていく。
これが彼女の、ミサの力だっていうのか。
M
あったかい光が、目の前に道を作ってる。
その中を進んでいくことで、アタシはよりアタシになっていく。
アタシの受け皿になってくれた身体も、アタシに合わせて変わっていく。
身長も大きくなる。おっぱいもおしりもぼんとふくらんでいく。髪も光と同じあったかい色に染まっていく。
そして、その身体を包む服も変わり始める。身体の変化に耐えきれずぐいぐいと締め付けてきたのは最初だけだった。
さらさらとしたものに変わった後、アタシの身体にぴったりとフィットする形になる。
そしてその上から全身を覆うのは、肩の辺りからくるぶしの流れるように伸びている、一枚のドレス。袖はなく、お尻のすぐ下のところに、すごく動きやすそうだ。
これが、アタシを守ってくれる鎧。そしてアタシに戦うための力をくれる。
さぁ、いくよ。身体の持ち主さん。
A
聞こえてくる心の呼びかけ。何が何だか分からないけど、僕はそれを受け入れた。
どうせ、いつものことだからね。
アタシの
僕の
戦いが始まる。
竹林のすぐ上に、ツヴァイの姿はあった。林の中でもっとも長く伸びている竹、その頂点に立っているのだった。
太陽は既に地平線にさしかかり、空には夜が訪れようとしている。
そんな昼と夜の狭間の空間で、こちらの影を探し回っていた。
そんなことは、するまでもない。
なぜなら林の中から溢れんばかりの光が、突然輝きだしたからだ。
かぐや姫がいた竹は一節の部分だけが輝いていたが、この光は違う。竹林全体を輝かせ、
そしてその光の中心にいたのが、
アタシであり、僕なのだ。
ツヴァイもその存在を認めたようで、慌てて右腕の装備を輝きの中心に向けた。その先端には既にエネルギーが集まっている。
アタシは
僕は
その方角に向かって、左腕を伸ばす。
左手に、三日月のように綺麗な曲線を描いている、光の弓が握られる。その大きさはこの身体の身長にも匹敵する。
さらにそこに右手をかざすことで、光が一本の矢を作り上げた。
この弓に弦はないが、その矢を思い切り引くことで、発射のエネルギーが充填される。
ツヴァイが光弾を放つのと同時に、矢を握っていた右手を放した。
弓と弾丸が一点に集約するように空を切って跳んでいく。
衝突、そしてパァン!という破裂音。
そして次の瞬間には、矢はツヴァイの胸のところに突き刺さっていた。銀色の光弾は欠片も残さず砕け散り、後には何も残っていない。
ツヴァイの身体は当然バランスを崩し、竹の上から落ちる。ガサリガサリという音を立てながら、林の地面に落下する。
アタシは
僕は
ゆっくりと歩いて、ツヴァイが落下した場所に近づいていた。この林はそれほど大きくない。十秒も歩いたところで、苦しむツヴァイの姿を見つけることが出来た。
突き刺さった光の矢は、矢の形を崩してエネルギーに戻り、ツヴァイの身体を、その身体を包み込むアンセムの力を浸食していく。
ツヴァイは苦悶の表情を見せつつも起き上がり、胸の矢に何とか手を伸ばしてそれを引き抜こうとした。しかし矢は既に溶け込みを始めていて、先端は既にその身体と一体化している。やむを得ずツヴァイは右腕の武装を掲げ、胸から生える光の矢にぶつけた。
溶け込んでいなかった矢の後方部分がへし折られ、落下しながら消えていく。
そしてツヴァイは胸を押さえながら、こちらに背を向け、瞬時に飛び立っていった。
さっきまでの戦いでこちらが追いつけなかった、その自慢のスピードで逃げる気なのだろう。次の瞬間にはもうツヴァイの姿は竹林の外にあった。
輝きを伴わない銀色の影は、夜の闇の中に溶け込んでなくなりそうだった。
でも、無駄なことだね。
アタシは
僕は
アイツが逃げていった先に向かって、再び光の弓と矢を構えた。
アンタたちみたいな、冷たくて暗い存在は、存在してちゃいけないんだ。
とびっきりあったかいのを、お見舞いしてあげる。
矢が放たれた。
矢は竹の合間合間をぬって進み、あっという間に林の外に抜けていった。
そして、夜の空の中に消えていったかと思うと、藍色の空の中に一点、暖色の強い輝きが生まれた。
腕をおろすと、弓と矢はぱっと消え去った。
アタシは
僕は
その強い輝きの方に向かって行った。
輝きのあったところは、竹林から数百メートルは離れたところだった。
その場所の真下の地面に、一人の人間が倒れているのが見えた。
ゆっくりとその身体を起こしてみる。もう冷たくて寒いあの感触は感じられなかった。
その人間の顔には見覚えがあった。アタシを、あっためようとしてくれた男の人、三枝ショウくん。
結局、あなたにはあっためてもらえなかったね。
でも、その代わりにアタシは手に入れた。アタシという底の部分からわき上がるあったかさを。冷たくて寒いものを吹き飛ばす、そんな力を。
ある意味それもキミのおかげだよね、ありがとう。心の中でお礼を言う。
そしてもう一度、大きく息を吸い込んで、意識を内側に集中させた。
アタシの身体、その身体を包むドレスの形をした鎧、そしてアタシの中を流れる力。
とっても、あったかい。
これがあれば、アタシはもうあの冷たくて寒いところにいなくて済むんだ。
その喜びに、アタシはしばらくの間、思う存分浸っていた。
やっと終わりました。