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闇夜の復讐者  作者: れいろ
黄昏の奏者
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8. 学園

学校。それは仲間と共に学び、競い、お互いを高め合い、そして友情やらなんやらを深めていく場所である。と、本に書いてあった。

確かに僕は十六歳。普通であれば学校に通っていてもおかしくはない。しかしこの国では高校からは義務教育ではないのだ。海外を飛び回ってた頃から依頼を受けては報酬を貰いということを繰り返して、金銭的にはかなりゆとりがあるため生活にも何ら困ることはない。

なのに……


「はい、今日からこのクラスに編入してきた逢沢奏君です!まだ来たばかりでわからないことも多いと思うので皆さん色々と教えてあげてね!」


ーどうして僕は高校こんなところにいるのだろうか。


窓際にちらりと視線を向けると、そこには口を大きく開けてフリーズしている玲奈の姿が。

そもそもどうしてこんなことになったのか。それは今から三日前まで遡る。





三日前ー


赤羽さんから連絡を受けた僕は対策室へと足を運んでいた。ノックして入るとそこには紅茶を啜りながらデスクで書類と睨めっこしている赤羽さんの姿があった。僕が来たことに気付くと、ソファーに座るように促す。その通り座りふと、前にある長机に目を向けると一冊のパンフレットとA5サイズの茶封筒が置いてあった。

パンフレットには『藤峰学園高等部』の文字が。嫌な予感がして赤羽さんにこれは何かと視線で訴えると物凄くいい笑顔で口にした。


「逢沢君。三日後からそこに通ってもらうわ」


「……何故?まさかとは思いますが依頼ってー」


「察しが良くて助かるわ。そう。これは依頼よ。正確には来栖家からの依頼、だけどね」


来栖家。これ以上関わりは持たまいと思った矢先にこれか。もしこれが来栖家からの依頼だとしたら、依頼内容は多分玲奈に関することだろう。この高校の紋章、初めて玲奈に会った時の制服に付いていたものと同じだ。


「依頼内容は来栖玲奈の護衛。時期宗主候補ということで狙われやすいのよ、彼女」


「でも何で僕に?年が同じ、ってだけではないでしょ?」


「単純にあなたの実力を認めて、よ。宗主様も先の戦いでのあなたの活躍を知っているみたいだから当然と言えば当然よね」


「…….悪いけどその依頼は」


「報酬、弾むわよ」


その言葉に一瞬動揺したが、なんてことはない。これ以上関わらない、そう決めたのだ。それに別にお金に困っているわけでもないし、何より僕には目的がー


「逢沢君の指定額で出すって」


「引き受けます」


「それじゃあ決まりね!」


気付いたら勝手に口が動いていた。お金って恐ろしいね。

だが一度引き受けてそれを投げ出すのは癪だ。それに来栖家から逃げてるような感じがして、それにも嫌気がさす。

どのみち日本にはしばらく滞在するつもりなんだ。それに玲奈の護衛、っていうのもなんだか気になるし。あの宗主のことだ。きっとそれ以外にも何かあるに違いない。


話を聞くと編入の手続きは既に済んでいるとのこと。この人は僕が断るとは思わなかったのか。


「それじゃあ逢沢君。よろしくね」





そもそもあの日、素直に対策室へ行ったのが間違いだった。今更後悔しても遅いかと、無理矢理自分を納得させて指定された空席へと向かう。不運にも窓際、しかも玲奈の隣の席という飛びっきりの災難が待ち構えていた。

僕が隣に座ると、流石に場所をわかっているのか小声で話しかけてきた。


「なっ、なんであんたがここにいるのよ……!?」


「何も聞いてないのかよ……」


あの宗主め。知っていたとしても一波乱あるだろうに、知らせないとか嫌がらせなのか。

来栖家宗主からの依頼でこれから玲奈の護衛に就くことになったこと。その上で学校に通うことになったことを伝える。すると深く溜息を吐いて頬杖をついた。


「確かに奏は強いけどこれはもう本当に……」


どうやらこの状況に対して不満があるようだ。僕にも不満があるわけだから当たり前と言えば当たり前か。

それからホームルームも終わり、最初の授業が始まる。予想はしていたけど、まさかここまで簡単とは。

魔術の使えなかった僕は一族内でも嫌悪の対象として見られていた。修行なんてしようものなら他の分家の奴らに的にされるだけだ。それは嫌だと部屋に引きこもって毎日淡々と勉強していた結果、この国を離れる前には高校卒業レベルの学力は身につけていたのだ。


海外を放浪していた時も色んな国で合間合間に勉強して知識を蓄えていったので、今の僕からしたら高校の授業なんて退屈で仕方がない。

手持ち無沙汰な僕は何気なく横に座る玲奈に視線を向ける。

意外、と言っては失礼だが真剣な顔で授業に臨む玲奈に何故だか目が離せなかった。

しばらくして僕の視線に気が付いたのか訝しげにこちらを見る。


「何よ」


「別になんでも」


僕の返事に不満があるようだが、すぐさま授業に集中する。根は真面目、という点では昔憧れて見ていた頃の玲奈と変わらないようだ。


「ん?」


「……!?」


視線を感じてそちらに目を向けると一人の少女がこちらを見ていた。目が合った途端に顔を赤くして思いっきり逸らされる。ちょっと露骨すぎて傷付くレベル。

というかあのどこか小動物を彷彿させるような感じ、確か不良に絡まれていた時に玲奈と一緒にいた子だ。

ま、僕にはどうでもいいことだけど。


授業も終わり、教師が教室を出た途端に押し寄せてくる生徒達。前はどこの学校にいたかとか、好きな音楽はとか、部活はいらないかとか、彼女はいるのかとか。噂には聞いていたがこの質問攻めが編入生の宿命なのか。

どうしようかと考えていると意外なことに玲奈が助け舟を出してくれた。そのおかげで押し寄せてきた波も徐々に引いていき、五分もしないうちに終わった。


「ありがと。おかげで助かった」


「……あんたもお礼とか言えたのね」


「ねぇもしかして喧嘩売ってる?」


人が折角お礼の言葉を言ったというのにその言い草は流石に怒りを感じる。軽く睨んでいると何やら玲奈は手招きしていた。本格的に喧嘩売ってるんじゃないかと拳を握ったが、どうやら僕に対してではなかったらしい。その手招きに寄せられて一人の少女が来た。その子はさっき僕から顔を逸らした子。近くで見るとますます小動物っぽくて保護欲を唆られる。

玲奈に耳元で何かを言われたのか顔を真っ赤にして僕と向き合う。倒れるんじゃないかというくらい顔を赤くして、少女はようやく口を開いた。


「私!七瀬美雪と申します!あの時は助けていただきありがとうございましたぁぁぁ……!」


「ちょっと美雪。緊張しすぎて最後空気抜けていってるわよ」


「だ、だって……」


「はぁ……全く美雪ったら」


そう言いながらも微笑んでいる玲奈は、美雪に対して柔らかい表情を浮かべている。これだけで二人の信頼関係というか、仲の良さが窺える。

あんたも何か答えなさいよ、という玲奈の視線を受けて改めて美雪に向き直る。


「別に礼を言われることでもないさ。まぁこれからよろしく、美雪」


「あんた馴れ馴れしいのよ!いきなり美雪を名前呼びとか許されないわよ!」


お前はこの子の番犬か。当たりが前にも増して強い気がするのは勘違いではないだろう。

玲奈の態度を見てオロオロし始めた美雪は思いっきり頭をぶんぶん横に振り、玲奈を止めにかかる。


「べ、別に気にしてないから!そ、それにその方がいいと言うかなんというか……」


「ああ、美雪そういえばあんたそうだったわね。納得できないけど。……納得できないけど!!」


「何なんだよいったい」


「別に何でも!」


「はぁ……」


勝手に敵意とか怒り向けられても困る、というか迷惑極まりないんだけど。さらに理不尽な怒りを受けても面倒なのでそうとも言えず、取り敢えず今は適当に流して話を終わらせることにした。


特に望んでもいなかった学園生活。波乱が待ってそうで気が遠くなる。本当に、こんな依頼受けなければよかった……

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