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闇夜の復讐者  作者: れいろ
対極の術師
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4. 対極

光の魔術の名家、来栖家。

その屋敷内のある一室で宗主、僕、赤羽さん、時期宗主候補である玲奈がそれぞれ対面して座っていた。


先程一悶着があってから宗主の言葉で落ち着いた玲奈。だが未だにどういうことだと僕に視線を向けている。このままでは話が進みそうにないので、渋々ながらも話すことにした。


「僕の名前は逢沢奏。ここにいた頃は夏野の姓を名乗ってた。以上」


「夏野、奏って……あの落ちこぼれのっ!?今更何しに戻ってきたのよ!」


「来たくて来たわけじゃないんだけど」


「これ、落ち着かんか玲奈。今は逢沢奏。夏野奏ではない。客人だ。時期宗主候補として、相応の振る舞いをしなさい」


宗主の言葉に納得はいかないといった感じだが、流石に自分の立場は理解しているのか席に着いた。

……敵意は剥き出しのままだが。


仕切り直しと言わんばかりに咳払いをし、宗主は玲奈に向けて告げる。対策室からの依頼内容。それに当たって僕達三者による共同作戦。だが僕がいるということにやはり納得がいかなかったのか再び立ち上がり抗議する。


「お父様!こいつは光の魔術を使えない!私達来栖家の恥なんですよ!そんなやつが魔者、しかも人型なんて相手にできるわけありません!足手纏いです!」


「しかしな玲奈。彼の実力は既に対策室も認めている。それに、お前より強い」


「なっ……!?こんな奴より私が劣っているというのですか!?」


落ちこぼれだと下に見ていた奴が自分よりも強い。そんなこと言われたら更に激情することなんて玲奈の性格からして目に見えている。それがわからない宗主じゃないはずだ。実の親でもあるのに。

こうして焚きつけるということは何か狙いがあるから。そしてその狙いはおそらく……。


「……逢沢奏!私と勝負しなさい!圧倒的な力の差ってやつを見せてあげる!」


これだ。来栖家に誇りを持ち、自分の力にも絶対的な自信を持っている玲奈を納得させるなんて実際にその実力を示す他ない。

ふと宗主の顔を見る。……無言の圧力を感じる。別に無視すればいいが共同作戦と言われた以上、雇われている側としては依頼主の意向は無視できない。

心中で深い溜息をつきながらも、その目を玲奈へ向ける。仕事中にも突っ掛かられて支障をきたすのも面倒だ。

その場を立ち上がり外へ向かう。

僕の行動を見て理解したのか玲奈もその後をついてくる。


僕が来たのは裏庭。昔からここで皆が自らの魔術や体を鍛える、つまりは修行場なのだ。それなりの広さはあるし、何より障害物がない。純粋な勝負ができるというわけだ。


お互いに距離を取り対面する。未だに敵意剥き出しの玲奈は、やる気なさそうにあくびをする僕に更に怒りを見せる。


「あんた余裕ね。自信ありってわけ?」


「別に。玲奈じゃ僕には勝てない。それは揺るぎない事実だからね」


「勝手に呼び捨てにしてんじゃないわよ!……あんたのその余裕、ぶっ潰してあげる!」


「はいはい、お好きにどうぞ」


「こんのっ……!!」


僕の挑発に更に怒りを見せる玲奈。そんな状態で我慢なんてできるはずもなく、玲奈はすぐさま僕に向けて魔法を放つ。


翳した手から一直線に光の線が伸びる。

圧倒的なスピードと貫通力を誇る光の魔術の基本技の一つ。光速で繰り出されるそれは基本技とはいえ並大抵の術師や能力者は避けることは困難だろう。


だが僕はそれを僅かに体を傾け、躱す。元々僕を甘く見ていた玲奈は避けたことに驚くが、すぐさま思考を切り替え今度は連続で同じ魔法を放つ。

息つく暇もなく放たれ伸びてくる光線をただ少し体を傾けるだけで全てを交わしていく。これは流石に予想していなかったのか、玲奈に僅かばかり隙ができた。それを見逃さず一気に闇の粒子を凝縮し玲奈の四方八方を囲む。

一瞬のことに目を剥く玲奈だが、すぐに状況を理解し襲い来る闇の粒子を自分を覆い尽くす光の壁で相殺する。

その臨機応変さに少し感嘆の声が漏れるも、僕としてはこれくらいはやってもらわなきゃ拍子抜けだと息を吐いた。


「あんたこれ……闇の異能力ね。光と対極する闇の力を持つなんて、どこまで一族を恥にさらすつもりなのかしら!」


「僕はもう君達一族とは関係ないんだけど」


「うるさい!!」


怒号とともに大きく手を真上に挙げる。その瞬間、空が瞬き避けるのは困難なほどの量とスピードで光の矢が僕に向けて降り注ぐ。流石にこれは避けれないと一つ一つ凝縮させた闇で光の矢を相殺していく。

光の矢が降り止む。自分に当たるもの以外は相殺しなかったため、地面に落ちたことで砂煙が舞い僕の姿を消す。

姿が見えないことで僕が相殺していたことに気付いていない玲奈は確かな手応えを感じていた。


しばらくして砂煙は段々と薄れていき、視界が開けてくる。


「嘘……。どうして……!?」


玲奈の目に映るのは、全くの無傷で変わらずに立っている僕の姿だった。


「火や水といった自然の属性と違って光と闇は対極、つまりはどちらも弱点であるってことだ。それは単純に力の差が明確に現れるってことでもある。まぁようするに……」


ー玲奈の光より僕の闇の方が強かったってことだ。


「そんなはずない!来栖家の光の魔術は世界最強よ!それを落ちこぼれのあんたなんかに、劣るはずがない!!」


「光の魔術ってよりは君の実力不足なんだけどなぁ」


「っ……!?ば、馬鹿にしてぇ……!!」


僕の煽りにまんまと乗ってきた玲奈は光を収束させ圧縮する。先程の魔術とは比べ物にならないほどの高エネルギーだ。でもそんなもの放ったら正直ここもタダじゃ済まないけど。ま、いいか。関係ないし。


必要な魔力を収束し終わったのか、それを僕に向ける。その瞬間放出された光は広範囲に渡り辺りを飲み込んでいった。このまま能力で瞬間的に移動すれば良いのだが、そうすると屋敷は半壊どころじゃ済まないだろう。あとで赤羽さんや宗主に文句を言われるのも面倒だ。


ー消すか。


放出された光に片手を向け、一気に闇を収束させる。闇が集まるとその周りの空間が徐々に歪んでいき、その歪みは瞬く間に大きく広がった。

光が僕を覆い尽くそうと迫るが、僕の手前で広がった歪みがその全てを飲み尽くす。

光が消える頃には歪みもなくなり、後には何も残らなかった。まるで、何なかったかのように。


「あんた、何したのよ……」


「さぁね。わざわざ自分の手の内教えるわけないじゃん。馬鹿なの?」


「あんた本当に……つっ!?」


僕の挑発に再び魔術を行使しようとしたが、発動することなく膝をつく。その額には汗が滲み、おそらくは魔力切れだろう。あれだけの量、威力の魔術を使ったのだ。並みの術者ならこの程度では済まないほどにダメージを受けるだろうが、流石は来栖家時期宗主候補。その実力は計り知れないということか。


勝負がついたと判断したのか先程まで傍観していた宗主がこちらに歩いてきた。

それに気付いた玲奈は苦虫を潰したかのような表情を浮かべる。


「この勝負、奏の勝ちだな」


「ま、待ってください!私はまだ戦えます!」


「そんな状態で何を言っている。もう殆ど魔力もなかろう。それに対して奏は一切の疲れを見せていない。このまま続けたところで結果は目に見えている」


宗主の言葉に何も言い返せず、ただ唇を噛むことしかできない玲奈。悔しさを浮かべるその表情は、昔の自分を見ているようだった。かと言って干渉する気も何かしてあげる気にもならない。寧ろ僕が玲奈に対して持ったのは失望。それだけだった。

僕にはない、純粋に光の魔術の才を最大限に受けた神童。なのにこの程度の実力しかないなんて、期待外れもいいところだ。こんなのに、僕は憧れを抱いていたのか。

先程の感情とは別に、一気に心の中の熱が冷めていくのを感じる。


「で、これで実力の証明はできたわけです。もう仕事に向かってもいいですか?これ以上は時間の無駄なんで」


「……うむ。そうだな。すまなかったな、手間を取らせてしまって」


「別に。ただ、期待外れでしたよ。この程度の力しかないなんて。拍子抜けです」


「ちょっ、ちょっと逢沢君!」


「赤羽さんと宗主様には悪いですけど、足手纏いのお荷物になるようならいらないですよ。一人でやったほうがよっぽど良い」


そう言い残して能力を使い、この場から姿を消し移動する。宗主もその場を離れ、後に残るのは赤羽さんと玲奈のみ。赤羽さんは何か言って励まそうとしたが、玲奈の表情を見た限り一人にしたほうがよさそうだと判断してその場を離れた。


一人残された玲奈は拳を強く握りしめ、悔しさと怒りをその表情に宿して僕が消えたところをずっと見ていた。

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