Prologue
―魔者。この世の悪意、邪念といった負の感情が形を成し具現化した、いわば悪霊や妖に分類される存在。それは時代の流れとともに消えることなく、今に至るまで僕達人類の影で生き続けている。
魔術師、呪術師、異能力者、精霊術師、その他にも多くの力ある者たちがそれらを滅し続けてもなお、魔者が途絶えることはなかった。
『人類が滅亡でもしない限り、魔者が消えることはないだろう。それでも私達は戦わなくてはならない。力ある者の義務だよ』
師匠はそう言っていたけど、果たしてそうなのだろうか。
人々の負の感情。生き続ける限りそれがなくなることなんて不可能だ。でも魔者を生み出している根底はもっと別にあるのではないか。僕にはそう思えて仕方がない。いや、そう信じたい。
「-だから僕は、滅し続けるよ」
目の前で低く唸りを上げる狼の形をした魔者に視線を向ける。僕の周りを深い、黒と紫が入り混じったようなまさに闇と形容できる無数の粒子が溢れ出す。
大きく叫んだ魔者は一直線にこちらに向かってきた。これでもかと言うほどに大きく開かれた口は刃のような鋭い牙を剥き出しにして僕の首元を狙いにかかる。
一瞬だった。魔者は闇の粒子に包み込まれ、粒子が消えた時にはもう跡形もなく消えていた。
「依頼完了、っと」
目的が済んだ僕は報告のために依頼主の元へと足を進める。
闇夜に身を委ねた僕の姿は、闇に溶けていくかのようにその場から消えた。