能力ともう一つの記憶
「・・・・あの」
「なんで、しょう?」
「なんかとてつもなく人間が殺したいんですけど。」
なんともまぁ物騒だなぁと自分でも思ったネステトラの一言に、ああ、と納得した表情を見せた二人は説明を始めた。
「もともとこの世界にゲームの世界を重ねようという黒幕・・・まぁラスボスじゃな、そやつがそんな無謀なことを考え、この世界にゲームの世界を重ねた結果、ここにいる住人たちは消え、ゲームの住人として『上書き』される予定じゃった。しかし、ここで予想外のことが起きた。『上書き』ではなく、『混合』が起こってしまったのじゃ。自分の全てはそのままもう一つの記憶が混在する状態が巻き起こり、今主人が気づいたのが『ゲームの主人』の感情じゃ。能力や過去を見ておいた方がよかろうの。」
という椿に、
「そうですね、そうします」
と応じて、ネステトラは集中した。自分の過去を見るという、なんとも滑稽なもののために。
「・・・なるほど、よーくわかりました。」
冷えた声でトイレの壁に背中を預けながら言う。
あまりにも痛々しい記憶で泣きそうになったので、トイレに避難したのだ。
「まぁまとめると、私はメドゥーサと人間の間に生まれて、腹違いのさとり妖怪と人間のハーフの妹と暮らしてて、人間に襲われて、二人だけ生き残って妹が首吊りで死んで人間絶対殺す!ってとこですかねー。ああだからこの記憶が出た時、『なにも感じなかった』んですね。
・・・人はあまりにも辛いことがあると感情がなくなるとか言いますけど、これはどちらかというとあれですね、なんていうか・・・『感情の歪み』ってとこですかね。」
トイレから出ると、椿と夜烏が立っていた。
「ほぉ、悪役らしい顔つきになったのぉ。」
「あぁお嬢様、とても素敵です・・・!」
「あれ、夜烏普通に・・・。」
「さっきなぜだか喋れるようになりまして。」
「あ、左様で・・・。」
ちらりと窓に映る自分を見れば、
「あー、悪役ですね。」
明らかに歪んだ心を持つ少女の黒笑いであった。
窓には近づくと電気が発生し跳ね返されてしまうので、これ以上は近づけないが。
くすくすと自分の変わり様に笑えば、企んでいる笑いにしか見えない。
「なるほど、私は生粋の悪役なんですね。元の世界でも悪役でしたし丁度いい感じですね。ていうか能力もチートでしたね。あらゆる物を零に戻す能力でしたか。命は戻せないみたいでしたけどね。」
手を握って開いて、能力の宿る身を確かめる様にすれば、椿にスマホを見てみるよう伝えられる。
スマホは、手帳型のケースがついていた。しかも、真っ赤で、留め具には黒の下地に白の宝石をあしらった薔薇。それと黒とメタルの鎖がついていた。
「なんですか?これ・・・」
言った瞬間に『重要』と書かれたメールが送られてきた。
メールには、
『皆様ゲームの世界はいかがでしょうか?モンスターがいることは既にご存知であることと思われます。
そこで、主人公達はとある国々に誕生しています。主人公達はその役を受け入れ、既に仲間を集めています。
そこで、主人公達を導くものであり敵である者達を誕生させました。彼らも既に役を受け入れています。主人公達、導き役兼敵役は自由に誰とでも連絡を取り合えるようにしてあります。そのお相手様はその場合のみ通話が使えます。主人公達には主人公達の、導き役兼敵役達には導き役兼敵役たちの連絡先をいれてあります。10分後に全員をチャットで繋ぎます。それではどうぞ引き続きよろしくお願いします。』
メールを閉じると、すぐに着信があった。
メストからだった。
黙っていてくたざい、と椿と夜烏に指示を送る。なぜなら、彼女はネステトラと同志、もしくは主人公、またその仲間である。ならこちらは有利に立っておくべきだ、なにがあろうと。と判断したためである。
「はい、もしもし・・・?」
『良かった!テトラ無事だったのね!?』
「メストもよく無事で・・・ところで、あのメールによれば、メストは主人公か導き役兼敵役さん、なんですよね。」
『えっと、それがね。主人公の仲間組に今入れてもらったの。その主人公さん・・・テトラも知ってるでしょ、ディアに連絡権限借りたの。そういうのもできるらしくて。今から行くから、どこにいるの!?』
ネステトラは椿、夜烏を困ったように見る。
椿が言った。
「遅かれ早かれ、知ることじゃ。彼らはこの学校におるのじゃろう。サービスで攻略ヒントを教えてやると良い。我らがこの間ここの攻略は教えたであろう?」
その椿の言葉と、夜烏の頷きで、意思を固めたネステトラが口を開く。
「来なくて、大丈夫です。」
『なに言ってるの!?だって私は戦えるよ!?だけどネステトラはダメじゃない!ボスモンスターだってきっと偶然だし最初は弱いものじゃない、ゲームなんて!だから・・・』
「そっちに、今メストのお仲間さんは居るんですよね?」
メストの叫びを遮り、ネステトラが言う。
『え?いるけど、なにする気・・・?』
「皆さんに聞こえるようにしていただけます?」
『・・・はい、これでいい?』
(さぁ、悪役最初の仕事だな。)
ネステトラは、静かに声を出さず笑った。