ボスモンスター撃破
「はっ、はっ、」
大して走ってもいないのに出る息はまるで走ったかのようで、そっとネステトラは息を整えた。
息の荒い原因は、極度の緊張だった。
クラスメイトが殺される場面を見た。
それは彼女にとって大きなショックとなった。
今も目の前を大きなゲームで言う『ウルフ』が通り抜けていくのをロッカーの中から見つめていたネステトラは、恐る恐るロッカーを出た。
「これは・・・」
ロッカーの前に落ちていた物を拾う。
「ナイフ・・・?錆びていますが護身用の武器にはなりそうですね。」
そう言って手に取った瞬間、
『ブーッ』
スマホをサイレントモードにしていたせいで、音がなった。
柄にもなくビクリと肩を震わせてスマホを見ると、
『武器獲得「錆びたナイフ」 バックに追加しました』
「・・・?あ、もしかして!」
スマホのホーム画面をよく見ると、『バック』『ステータス』『索敵』が追加されていた。
バックには錆びたナイフが表示されており、それを押すと、手にナイフが実体化された。
「・・・・これで、少しは戦えますかね・・・?」
索敵を使うと、周りの敵が見えるようで、高等部の棟に赤い点があった。
青い点は生存者のようである。
辺りを見回し、今の状況に悩む。
「で、ここは森プラス学校、と・・・」
学校がダンジョン化していた。
そして、ピコーン、と間の抜けた音がスマホから出され、
『グオオオオオオオオッ!!!』
スマホに高速でモンスターの表示がされる。
『ボスモンスター『ウェアウルフ』』
だということだけはわかった。
あとは早すぎてわからない。
『ボスモンスター『ウェアウルフ』との戦闘が開始されました。ボスモンスターとの戦闘ではエリアを抜け出さない限り追跡を続けられます。』
メールが届く。
「はい!?こいつを殺せと!?これで!?」
混乱している間にもウェアウルフからの攻撃は繰り出され、なんとか逃げ切り、とりあえず手を切ってみる。
『ガグアアアアアア!』
苦悶の声を上げるウェアウルフを見て、ネステトラはふと気づく。
目に相手のステータスが浮かんで見えるのだ。
『スキル発動中 透視』
「なんて気楽な名前・・・」
呆れ気味にいい、もう一撃を当てれば、呆気なくウェアウルフは消え去った。
『世界中でボスモンスターがネステトラさんの手で初めて撃破されました。全ての国合わせて100、初期のボスモンスター撃破を達成すれば次のエリアが開きます』
メールが告げるが、ネステトラは、
「こんなにも呆気なく・・・なにかを刺すなんて初めてですね。」
手を握ったり開いたりして感触を感じていたネステトラは、スマホに着信が来たことに気づく。
電話に出ると、突然の怒鳴り声が耳を刺した。
『ちょっとあのメール!ホント!?大丈夫!』
「怪我などはないです。ボスモンスターが消えればそのフロアのモンスターは消えてしまうみたいですね。あとレベルアップとかスキルとかあるみたいです。」
『そ。私は一応高等部にいるんだけど・・・声しないしヒロカゲはいないのね。』
「はい。無事だとは思いますけど。」
そう言った後、電話にノイズが入りだした。
「そろそろ電話回路もダメみたいですね。スマホのアプリでステータスなどを確認してくださいねあと」
プツン、と音を立て、電話は切れてしまった。
「あと無用な戦いは避けて、と言おうとしたんですけど・・・まぁわかってますよね。」
スマホを見ると、
『レベルアップ』の文字と、『ドロップアイテム「鍛冶屋』と表示されていた。
「鍛冶屋?鍛冶屋の鍵とかじゃなくて?」
開けてみれば簡単な答えだった。
「小人・・・」
小人が出てきて、ナイフを預けるとほんの少しして錆びが完全に取れたナイフを持ってきたのだ。
『持ち物「錆びたナイフ」→「鍵のナイフ」武器ボックスからキーアイテムボックスにも共有します』
「つまりこれはどこかの鍵になるアイテム、ですね。まだ奥はあるようですし、進みましょう。」
「これは・・・」
目の前に広がる光景に、少し慣れてしまったような気がしてネステトラはあからさまに嫌そうな顔をした。
それはそうだ。なぜなら、神殿の外に人間の死体が物凄い転がっていたのだ。
全員制服というわけではなく、教師もいるようだ。
「・・・逃げましょうかね。レベル2で戦える相手ではなさそうです。」
「判断力はよいがちと遅かったの、娘。」
踵を返した先には、黒に赤い帯の着物を着た白髪の女性だった。
「名前、つけて、ください。」
神殿側には黒の翼を持つ濃い紫の髪のメイド服を着た女性。
「名前?」
「この者たちは妾やこやつに名をつけようとして失敗したのじゃ。妾たちの力に沿う名をつければここから生きて出してやる。条件を飲めば味方になろうぞ。」
「名前・・・、力ですか、じゃあそのまんまで椿、夜烏でどうですか。」
「ふ・・・ははははっ」
着物の女性の笑いが静寂に響き渡った。