プロローグ
「遂に僕たちも引退か」
右隣にいる有村一樹が話し掛けてきた。
「3年間なんてあっという間だね」
前に座っていた福井由希も振り向いて言う。
高校生活の大半を、この2人と過ごしてきた。同じ水泳部の仲間として。
誰よりも信頼できる友人だった。
「・・・そうだな」
俺は呟くように言った。何故か自然と涙がこぼれてきたが、拭おうとはしなかった。
市民プールの中にある、ごく普通の25mプール。ここが、俺たち3年生の引退試合でもある市大会の会場だった。
俺たちは、会場の片付けを終えて、プールサイドに集合している。
俺、西村祐介は、とある中学校の水泳部のキャプテンを努めていた。一樹は副キャプテンで、由希は女子キャプテンだ。
3年生は俺たち3人だけで、2年生が5人、1年生が4人と、人数の少ない部だった。
しかし、部員同士の結束は強く、誰もが熱心に練習に取り組んでいた。そのお陰で、フリーリレーとメドレーリレーを含め、個々の出場した種目全てでそれぞれが入賞を果たし、総合優勝もすることができた。まあ、市大会自体は比較的小さな規模ではあったが、それでもかなりの快挙である。
そんな引退試合を有終の美を飾ることができた俺たちは、いよいよ最後のミーティングを迎える。そして、引退する3年生は、最後に後輩たちにスピーチをすることが決まっていた。
何を話そうか・・・・・・
俺は試合中、ずっと考えていた。しかし、結局何も思い浮かばなかったのである。
「全員、揃ったな」
顧問の高岡先生が部員を見渡す。
「それじゃ、早速だが3年生に少し話をしてもらおうか。これが最後の話になるから、1年生と2年生はよく聞くように。じゃ、まずは有村から」
一樹は神妙な顔で立ち上がり、前に出た。
副キャプテンとしていつも支えてくれた一樹は、最後に何を語るのだろう・・・・・・
そんなことを束の間思った俺は、また何を話すか考え始めた。