オーガリーダーの決意
俺は海で2週間の生活をしていた。しかしその生活とおさらばしてくれたのは武器屋で買った槍、アルシトーバだった。陸に上がるとオーガの群れに遭遇し、その中のリーダーと戦って勝ったのは良かったが…フロック扱いされてしまい俺は連戦することになった。
それから日が暮れ、俺は大量にいるオーガ達をなぎ払っていた。
「ぐあっ!?」
そう言ってまたオーガが一人吹き飛ぶ…レベルアップした俺はオーガ達をボコボコにしていた。
「お前ら…弱くないか?」
しかしあまりにも弱すぎる。レベルアップしたにせよこれは酷い…動きは鈍いわ、攻撃パターンも単調で作業をしているのとなんら変わりない。
「な、何おう!?」
オーガが再び性懲りもなく突っ込んできた。
「ふっ…」
そう言って俺はアルシトーバの柄をオーガの腹に入れた…
「ぐっ…」
オーガは腹をくの字に曲げ崩れた。
『相棒そういうなよ。こいつらはよくよくみればまだ子供だ。あのリーダーだけが成人している…』
アルシトーバが意外な事実を告げた。
「ん?そうなのか?」
見た目はそんなに大差ないのにどう違うんだ?
『リーダーの方は腕輪をしているだろ?ところがこいつらは全員していない…成人の儀式を終えていない証拠だ。』
確かにオーガリーダー以外は全員腕輪をしていないな。
「そうなのか!?」
オーガ達は一斉にアルシトーバに突っかかってきた。
『ああ。知らなかったのか?』
アルシトーバは呆れた声を出した。
「姐さんからそんなことは聞かれていないし…知るわけないだろ。」
オーガリーダーだけが知っているみたいだな…
「全く…バラしちまったか。」
そう言ってオーガリーダーが立ち上がった。
「こいつらはまだまだ未熟なんでね…成人するには早いって思っていたんだ。」
成人したオーガがこいつだけって…通りで他のオーガが弱い訳だ。
「姐さん酷いっす!自分だけ!」
そう言ってオーガが抗議するが…
「それよりもお前たち…勝手にこいつに手を出しておいて覚悟は出来ているんだろうね?」
リーダーはオーガ達が俺に手を出したので怒っていた。
「えっ?!いやその…」
オーガ達はその雰囲気にたじろいでしまった。
「俺のもんに手を出して覚悟は出来ているんだろうな!」
そう言ってオーガリーダーの無双が始まった。
「何にしてもあいつが圧倒的に強かったってことだな。」
俺はそう呟いてアルシトーバを見た。
『そうだな。』
アルシトーバもそれに肯定した。
そして数分後…完全に夜になり、オーガリーダーはお仕置きを終え、戻ってきた。
「全くあのバカタレ達は…」
オーガリーダーは俺に盃みたいなものを取り出した。
「これを持って座んな。」
そう言ってオーガリーダーは俺に座らせ盃をもたせ、目の前に座った。
「姐さん!?それって…!!」
オーガ達が騒然とし、オーガリーダーを見る。
「お前達は黙っていろ…兄貴を俺達のオーガ…つまり鬼ヶ島のトップになって貰いたい。これから盃に注ぐ酒を飲めば俺達のリーダーです。」
そう言ってオーガリーダーは俺の盃に酒を注いだ。
「さあ、飲んで俺達のリーダーになってくれ!」
そう言ってオーガリーダーは頭を下げたが…俺の答えは決まっている。
「あいにくだが待たせている奴らがいるんでね…断らせて貰う。」
田沼を探すのが第一優先だしな。それに俺は酒も飲めないから酒を捨てて立ち上がった。
「…すみませんでした勝手な事を言って。」
オーガリーダーは頭を再び下げた。
「もうお前の頭を下げる姿は見たくない。だから顔をあげろ。」
俺は頭を上げるようにオーガリーダーに指示したが…俯いたままだ。
「…マサトラ。それが俺の名前だ。」
オーガリーダーことマサトラはそう呟いた。
「マサトラ…顔をあげろ。」
俺は一瞬で察してマサトラの頭を上げさせた。
「…」
マサトラは上目遣いで俺をみた。余程俺にリーダーをやって貰いたいみたいだな。
「…俺は待たせている奴らがいる。だからここには滞在できない。もしよかったら俺と共に来ないか?」
俺は勧誘という手段に出た。本来なら俺1人で田沼を探すべきだが仕方ない。
「それって…ついて行ってもいいってことですか?兄貴。」
マサトラは地獄から蜘蛛の糸を見つけたかのような顔をしていた。
「そうだ。ここにいる奴らを連れてもいいし、お前だけが付いてきても良い。そこらへんは明日の朝までに相談しろ。」
まあどうせ2人くらいだろうし、わざわざ心配する必要はないだろうな。
「わかりました!兄貴!」
マサトラはそう言って頭を下げた。しかし俺のことを兄貴呼ばわりするのはちょっとな…
「兄貴、兄貴ってな…俺の名前はシュン=カブラキだ。覚えておけ。」
俺はそう言って少し内陸の方に向かった。
「シュンの兄貴、どちらに?」
マサトラが俺のやるべきことを聞いてきたので…
「寝る。」
と答え、俺は誰も見つからない場所に行き、制服を干して下着だけの状態で寝た。
そして夜から朝へと移り、乾かした制服に着替えると鬼ヶ島全体が騒がしくなっていた。
「おはようございます!シュンの兄貴!」
そう言ってオーガ達が全員並んで俺に挨拶した。
「ああ…おはよう。」
俺はそれに驚きつつも挨拶し返した。…マサトラは…あ、いたいた。
「おはようございます。シュンの兄貴。」
マサトラはそう言ってお辞儀をした。
「おはよう。マサトラ…さて結局どうなったんだ?」
俺はそう言って、連れて行くオーガが誰なのかを聞いた。
「その件なんですが…シュンの兄貴、俺達オーガ一同はあんたについていくことにした!何卒よろしくお願いします!」
マサトラは頭を下げ、そう告げた…
「ここのオーガ全員か!?」
流石にそれは予想外だった…1人か2人くらいで済むかと思えばまさか全員がついていくことになるとは思わなかった。ちなみにここのオーガの数は50~60人くらいだ。
「ええ…全員がシュンの兄貴達のような強い奴らを一目見ようと興味持っているみたいで…」
こいつら俺のことは弱いと思っていた癖にそう言う時だけ言うんだな…
『なるほどな…戦闘狂らしい考え方だ。』
アルシトーバがそう言うとマサトラはアルシトーバを睨んで黙らせた。
「もちろん兄貴の迷惑にはなりません。だからお願いします…兄貴!」
まあ田沼探すには人出が多い方が良いか?
「わかった。お前達全員を連れて行くが…少し協力しろ。」
俺は内陸に向かってオーガ達を連れて行き、あることをやり始めた。
~2日後~
「全員分終わりました!」
1人のオーガがそう言って俺に報告してきた。
「よし!例の物を海に浮かべろ!」
俺は指示を出し、2日間かけて作った5~6人乗りのイカダ10船を海に浮かばせた。
そう、俺達が作っていたのはイカダだ。オーガ達のおよそ半分をイカダの組み立てにあて、残りは材料を取りに行く係と狩りをする係だ。しかし意外にもオーガ達は器用で一度覚えるとすぐにイカダを作れるようになって材料が不足しなかったこともあり、たった2日間で終わった。
またその過程の際に余った材料でカヌーを作ってどうやって動かすかも教えているのでバッチリだ。
ちなみにその際に何故俺のことを兄貴呼ばわりするのかを聞いてみたところ「姐さんの兄貴は自分達にとっても兄貴だ」ということらしく俺のことを兄貴と呼ぶようになった。
「忘れ物はないか!?」
俺自身はアルシトーバも持っているし、制服も持ったから忘れ物はないな。
「ありません!シュンの兄貴!」
そう言ってオーガ達は返事を返した。
「それじゃ出航だ!」
そう言って俺はオーガ達を連れて田沼を探す旅を再開した。イカダだけど…