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ファミレス女子高生

作者: 五十嵐 涼

ある日の昼下がり。


ファミレスにて同じ制服を着た3人の女子高生がランチを食べた後ドリンクバーの飲み放題で2時間程粘っていた。


僕は大学の春休みの間このファミレスで毎日バイトに入っているのだが、まぁああゆう客は少なくない。


特に主婦や女子高生のグループにはありがちなパターンだ。


普段なら「早く帰れよ」と心の中で呟く程度なのだが、その女子高生達の一人の子がかなり気になってしまいどうしてもチラチラと視線がいってしまう。


少し明るくしているセミロングヘアに、子猫みたいなクリクリとした目。


これは完全にクリティカルヒットだ。


他の2人は彼女の隣に座るのはギャル、その向かいに居るのは腐女子みたいな見た目なので、余計にその子が可愛く清楚に思えてしまう。


しかし、この3人は友達なのだろうが、どんな組み合わせだよとツッコミを入れたくなる感じだ。


しかし彼女達の話は盛り上がっている様で、まぁそうじゃなきゃ2時間も居ないよな。


とにかく僕は少しでも彼女の事を知りたくて他のテーブルに料理を持って行く時もあえてその席を通る様にしたり、その席の近くのテーブルを片付ける時は他のスタッフに先を越されない様にかなりの早歩きで向かった。


そして、今はちょうど彼女の真後ろの席を片付けている。


「ねぇねぇ、この間の嵐のハワイライヴがさ」


ギャルがストローを指先で弄びながら突然話題を振ってきた。


「黙れ、ジャニヲタ」


すると腐女子がスパッと会話を遮った。


「なんだとーこのアニヲタ、BL野郎」


ここで喧嘩でも始まるのかと思いきや、2人はきゃっきゃと笑い出した。


(なんだよ、こいつら。全くもって意味不明だ)


さっきからこの2人はこんな調子で、それをニコニコしながら猫ちゃん(勝手にそう呼んでみた)は完全に聞き手に回っていた。


「でもさ、松潤ってあんたが読んでいるBL漫画に出て来るパティシエに感じ似てない?」


「あ、それは思った。眉毛の描き方が確実に松潤だよね」


(眉毛、眉毛って!お前らは眉毛で松潤かそうでないかを判断しているのか!?じゃあ、藤岡弘と松潤は7割同一人物って事でいいんだな!)


僕は心の中でツッコミを入れてやった。しかしまぁ、さっきからこいつらの会話はアイドルかBLかドラマかアニメの話題ばっかりだ。


どんだけ内容がない話に2時間も費やしているんだよ。


しかも、あの可愛い子はその間一言も喋ってないじゃないか。


いや、僕がキッチンに行っている間に話しているのかもしれないが、僕はまだ彼女の声を聞けていない。


(お前らの話なんて知りたくないんだよ!僕は彼女の事が知りたいんだ)


しかし、この2人はよく喋る。それをずっと笑顔を絶やさず、うんうんと頷いて聞いている彼女はまさしく天使だった。


(顔も可愛くてしかも性格まで良さそうだ。あ〜あんな子が彼女だったらなー)


春休みなのにバイトに毎日入っている時点でバレバレだろうが、僕には彼女が居ない。


よってデートの予定もないので毎日毎日バイトばっかりしているのだ。


「そういえば、うちのクラスの山下ってさ、ちょっと玉森くん意識してない!?」


「あ、分かる分かる、あいつ目の位置とかまじ意識し過ぎてうざいよねー」


(目!?目の位置!?玉森くんの顔が分からないが、そんなもん意識レベルで変えられるものなのか!?目の位置って普通固定されてねーか!?)


まだ2人の話が盛り上がっている中、僕は後ろ髪を引かれる思いで机を片付け終わるとトレイを持って裏へと向かった。


「ふふ、前田くんあの席の子達が気になるみたいね」


裏に行くとバイトの先輩で大学の先輩でもある麻友さんが声をかけてきた。


この人は仕事が出来る上に、かなりの美人さんで大学のミスコンにも選ばれた人だ。


「えっっ、そ、そんな」


「ふふふ、分かり易過ぎ」


麻友さんにバレてしまっていたのはかなりのショックだった。


女子高生なんかに現を抜かす男だなんて思われたくはなかったのだが、実際現を抜かしてしまっているから仕方ない。


「ねぇ、声をかけてみたら?」


「えええ!?」


大袈裟に驚く僕を見て、麻友さんは吹き出してしまった。


「前田くんって純粋よねー。冗談よ、仕事中にそんな事しちゃ駄目に決まっているでしょ」


「あ、そうですよね、はい」


「でも、もう前田くん上がる時間だから、お客さんとして後ろの席に座るってのはアリかもよ」


そう言って麻友さんはウィンクをしてみせた。


(いやいや、そんな大胆な事、僕には…)


出来てしまった。


僕はタイムカードを押して私服に着替えると、入り口から入り直し、麻友さんに彼女達の後ろの席に案内して貰ったのだ。


(ひゃー来てしまったー)


僕は猫ちゃんとちょうど背中合わせになる様な形で座った。


これは相当恥ずかしかったが、反対側の席だと腐女子を見つめ合う形になり「なにジロジロ見ているのよ!」などと因縁をつけられては困るので苦肉の策だった。


そう、もちろん苦肉の策だ。


ギャルと腐女子の会話はまだ続いていた。


「でさ、明日ディズニー行くじゃん。その時3人でお揃いのダッフィー買おうよ」


「あー良いねーそれ」


(猫ちゃんがあの熊のぬいぐるみ持ったらどれだけ可愛いんだろう)


「でさ、そのダッフィーを頭に乗せて今度のライヴ行こうよ!」


「いいね!目立てそう!でもさ、体中にダッフィー貼付けて行った方がもっと目立ちそうじゃない?」


「あ、それ!あんた天才!」


(いやいや、天才!じゃねーよ。それ、キチ◯イだろ)


「でもさ、体中に貼るんだったらめっちゃダッフィー買わなきゃいけないよね」


「あーそっか、うち金ない」


「うちも。あ、じゃあ、ダッフィーの中の綿を体に貼ればいいんじゃない!?綿なら伸ばせそうだし」


「それ!あんた、マジ天才!!」


(いやいや、ダッフィー中身出ちゃっていいのかよ!?お前らあの熊に愛情はねーのか!?てか綿になった時点でダッフィーかどうかもはや分からねーじゃねーか)


勝手に2人の会話にツッコミを入れながらも、僕は背中越しに彼女を感じていた。


それは初恋みたいなくすぐったくも幸せな時間だった。


「ちょっと、ごめんね」


僕が一人でムフフと喜んでいると今までの2人の声とは違う、可愛らしい声が聞こえて来た。


(彼女だ!猫ちゃんの声だ!)


「あ、何?トイレ〜?」


「いてらさ、いてらさ」


2人が適当な返事を返すと、彼女は立ち上がり、そして僕の横を通り過ぎ奥のお手洗いへと向かって行った。


その歩き方も後ろ姿も何とも可愛らしい。


(はぁ〜可愛いな。あ、待てよ。今ここで僕もトイレに立って出て来るのを待っていたら彼女に近づけるじゃないか!)


僕はそそくさと席を立ち、トイレへと向かった。


うちのファミレスは男子トイレと女子トイレが別れており、右側が男子、左が女子となっていた。


一応そのまま右側の扉を開けようと思ったのだが、女子トイレ側からガンガンと何かがぶつかる音が響いていた。


何事かと思い、誰かに見られていないか周囲を見渡してからそっと女子トイレの扉に耳を当ててみた。


すると、多分プラスチック製のゴミ箱を激しく蹴る音とドスの聞いた声が聞こえてきた。


「くっそつまんねー話してんじゃねーぞおらぁ、あのドブスども!!!」


………思いたくはないが、多分彼女だ。


彼女がトイレで汚物の様な言葉を吐き散らかしているのだ。


「熊なんて欲しくねーんだよ!!ガキじゃあるまいし!!そんなに熊が欲しいなら熊の檻の中にお前らを投げ込んでやろーか!ああ?!」


(うう…猫ちゃん…ストレスが溜まっていたんだね)


僕は心の中で号泣した。色んな意味で。


「だいたいあのバンドのライヴも行きたくねーーんだよ!なんだよあのバンド!!イケメンカスタネッターズって名前もだっせーんだよ!なんでカスタネットなんだよ!せめて歌でも歌えよ!!しかも衣装が宇宙服だからイケメンかどうかヘルメットの所為でわかんねーよ!」


(イケメンカスタネッターズ!僕は食いついてしまったぞ!しかも歌わないんだ!みたい!YouTubeを検索しなければ!)


思わずイケメンカスタネッターズに食いつき過ぎてしまい油断していると、ふいに女子トイレの扉が開いた。


「しまった」


しかし、時すでに遅し、彼女は扉の前に立っている僕に驚き目を丸くしていた。


「あ、あの、男子トイレはそっちですけど」


彼女の声はまた可愛らしいものに戻っていた。


しかも、モジモジと恥ずかしそうに頬を紅潮させていた。


(その姿可愛いんだけど、どうしてだろう、どうして僕の心はこんなにも冷えきっているんだろう)


「あ、あの、もしかして外まで聞こえていました?さっきの」


ちらりと上目使いで僕の顔を見てきた。


それは、先ほどの事をオートデリート出来るくらいの威力だった。


と思うんだが、やはり、あの叫びが強烈過ぎてモヤモヤは僕の心に居座っていた。


「い、いえ、特に」


「そう、なら良かった」


そう言い残すと彼女はスキップをする様にまたあの2人が待つ席へと戻って行った。


(ああ、僕の恋は一瞬で終わった)


僕はぼんやりと彼女が去った後をいつまでも見送っていた。


「あれ?前田くん、こんな所で突っ立って何しているの?トイレ行かないの?」


トイレの清掃に来た麻友さんが、キョトンと首を傾げながら僕を見てきた。


「あ、いえ」


「ん〜?さては、狙っていた子にフラれたな〜」


なんで女性ってこんなに鋭いんだろう。


一発で正解を言われ、僕は肩をがくりと落とした。


(あ、でも、これは慰めてもらえるチャンスかも?)


僕はなんて単純馬鹿なんだろ。


「よしよし可哀想に。じゃあ私が慰めてあげる」なんて言ってもらえるとでも一瞬期待してしまい麻友さんに泣きついた。


「麻友さ〜ん、女子高生ってこえーッスよ〜」


すると彼女は作った様な笑みを浮かべてこう言った。


「残念。ゲームオーバーです、ゴールドを消費してコンティニューしますか?」


「ん?」


そうだ。


すっかりのめり込んでしまっていたが、僕は恋愛シュミレーションゲームをしていたのだ。


麻友さんはこのゲームの案内人で、ヒントをくれたりサポートをしてくれるキャラだった。


僕は迷わず「はい」を選択した。


「次はあなたの最良のパートナーが見つかると良いですね。ヒントは色んなお客様の会話を聞く事ですよ」


麻友さんがにっこりと微笑んだ後、また昼下がりのバイト中のシーンに戻った。










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