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儚い想い

作者: 富樫かづや


 恋をすると言う事は簡単な訳ではなく、それなりの覚悟が必要になる。

 幸せだと思えば思うほどに辛い事も増えていくからであろう。

 僕は、いまその瞬間に立ち会っているのだから――



◇◇ ◇◇



 綺麗な白銀の長髪を夜風になびかせた少女は少し震えた声で

「そろそろ……だね」

 寂しそうに呟いた

「……うん」

 僕はこんな言葉しか言えない

 どうしてなのだろう。僕達は、もっと違う形で出逢いたかった。

 そうすれば、こんな悲しい想いをする事もなかったのに……

「やっぱり、どうにもならないんだよね……」

「……うん」

 悲しげな彼女の言葉になぐさめの言葉すら出てこない。浮かぶのは同じ答え。

 でも違う。僕は、こんな事を言いたい訳では無い筈なのに。言葉が出ない、こんな時になって何も言えなくなる自分が情けなくて、言わないと……

 でも、どうゆう風に言えばいいのだろう?

 言ったところで何かが変わるのか?

 だって彼女は、お姫様。月の都に住む姫様なのだ。

 僕は太陽の都に住む何の肩書きも持たない、ただの男でしかない。

 決して、交わる事が無い僕達が出逢えたのは運命なのかもしれない。だが形がどうであれ、これが許される事でないことくらいは僕にだってわかる。

 それでも、僕は彼女が好きだ。手放したくないくらいに

(手放したくない?そうだ、僕は彼女を……)

 想いに気付いた時には遅く、彼女の迎えがすぐそこまで着ていた

「じゃぁね……また、逢えるよね?」

 悲しげに言う彼女の手を僕は必死に掴もうとするが、僕の手は風を切る様にすり抜けて行き、掌には空しさだけが残り

「うん……きっと逢える。きっと……」

 空しさを押し殺す様にてのひらを強く握り締め、僕は最後くらいは悲しませない様にと必死に笑顔をつくり、彼女に言い返す。

 そして彼女も、透き通る様な蒼い瞳で僕の瞳を見詰め返すと笑顔で返し小さく震えた声で一言

「さようなら……」

 恐らく、彼女は精一杯の気持ちを言葉にしたのだろう。

 それはとても悲しく、とても寂しく聴こえ彼女の瞳には今にも零れ落ちてしまいそうな大粒の涙が浮かんでいた。それは僕も同じで、きっと最後くらいは互いに涙は見せず、笑顔で別れようと思っていたから――

「ありがとう」

 僕の精一杯は、感謝の言葉しか浮かばなかった。別れの言葉なんて言いたくも無かったから。きっと、それを口にしてしまえば二度と逢えなくなるような気がして。

 いつか、またいつか必ず逢える。そんな日を僕は信じて『さようなら』の言葉だけは彼女に言いたくない。本当は、彼女だって同じ気持ちなのだ。

 けれど、今の僕達がどんなにあらがったところで何も変わりはしないから。こんな無力な自分が惨めで、本当に悔しい。


 僕等は出逢うべくして出逢った訳では無い。

 太陽と月、光と影は決して交わる事が無いのだから。こうして彼女と出逢えたのは軌跡きせき。でも僕にとってみれば、これは『軌跡』ではなく『運命』なのだと信じている。

 だからこそ、いつかまたきっと逢えると信じていたい。

 今が別れだとしてもこれから何十年、何百年、何千年先になるのかはわからない悠久ゆうきゅうの時を僕等は待ち続ける。

 たとえ生まれ変わったとしても僕は、きっと彼女を待ち続けるだろう。


 想えば想うほどに涙が頬をつたう。

 互いに涙を流すまいと誓った筈なのに、やっぱり気持ちは正直で隠すことなど出来はしない。

 僕はうつむき震える彼女の肩を抱きしめ

「大丈夫。逢えなくても僕はいつも側にいるから」

 優しく言い聞かせた

 『うん』と涙ながらに小さくうなづき、顔を上げ涙目で僕の瞳を真っ直ぐと見つめる彼女は

「逢えなくてもじゃない。また逢えるから」

「そうだったね……待ってる」


 太陽の下に生まれた僕と、月の下に生まれた彼女。

 光と影、隣通しにある二つの存在だが追いかけても追いつけるものでは無く、同じ時を過ごしてはならない。

 幾年いくねんに一度の『軌跡』は、幾年に一度の『出逢い』となる。

 それが僕と彼女にとっての幸せな時間となるから。だから――



「今日をありがとう。そして、また逢えるその日まで、さようなら……」


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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。ツイッターでフォローしていただいている「小説カフェやすらぎ」のミユーです♪ この小説を拝読して、とても切ない気持ちになりました。人生に出逢いと別れはつきものですが、こと恋愛となる…
2012/12/28 17:45 退会済み
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