1-4 付人
さて、前回のそのまま続きとなっています。
今回はユキとの絡みありですが……
目も閉じ、もう思うように体も動かせない。
ユキはそんな俺を受け止めてくれた。
「もう、本当に可愛いんだから―――」
まだ僅かに聞こえている。
が、もうなにを言われたのか意識することもできない。
腹に、広く、暖かな丸みを感じる。
ただ、心地よいばかりで意識は加速度的に沈む。
突如、浮遊感を感じ、その後体がバウンドする。
ベットに投げ出されたのだろう。
しかし、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
おそらく、布団かなにかを掛けられたのだろう。
左半身に心地よい温もりを感じている。
春の穏やかな日差しにも似た―――。
しかし、質量のある暖かさ。
本当に心地よい。
一度は覚めかけたが、再度意識が沈む――――。
□ □ □ □
徐々に、意識が覚醒してくるのを感じた。
温もりの中、心地よく浮き上がってくる感覚。
リアルにをより強く感じるようになる目を開け――――。
左肩の窪みにフィット感のある重みに気がついた。
暖かく、緩やかな丸みを帯びた心地よい質量からは仄かに甘い香りすらする。
淡い期待感。強い願望が胸に押し寄せてくる。
天井から、目を肩の辺りに向け、その事実を確認する。
ユキだった――――。
言葉も無い。
そこらの女よりも可愛らしさを感じさせる〝少年〟を肩に乗せ、ベットで寝ている俺――――。
それは、ただの変態ではなかろうか。
そんな、信じがたい事実を目の当たりにしている、俺。
が、しかしそれ以上に、信じがたいことが起きた――――
「おはよう、いい朝だね。顔色が悪いけど安心して!!ハヤトは今日も逞しいビートを叩いてるよ!!!」
――――――――――目が合ってしまった。
俺は声も上げられず、ただ心臓の音だけが大きく聞こえる。
ユキは俺の胸の上に手を置いて
「どうしたの?硬くなっちゃって……ふふふっ」
当然のように、自然に話しかけてくる。
おかしい。
コレはおかしい。
「もしかして――――。」
にやりとユキが笑う。
「ボク様のこと意識してる?意識してるよね?ボク様可愛いもんね!しょうがない、しょうがないよ!!特別にボク様の胸を貸してあげるから元気だしなって!!!」
「借りるか!!!」
ユキは、依然としてニヤニヤしたままだ。
「えぇ~でも、本当は借りたいでしょ?触りたいでしょ?抱きつきたいでしょ?ボク様、素直なハヤトがいいなぁ……」
「既に素直だアホ!!!自分がなに言っているのか分かっているのか!!!」
「分かってるよ!!!だから、こんなにも楽しいんじゃないか!!!!!」
「………」
そうだな、そうだったよ。お前はそういう奴だ。
「でもさ」
ユキは続けて珍しく、不満げな顔をする。
「何でボク様が女みたいなポジションにいるんだ!!!ハヤト、代われ!!ボク様は男だ!!男でありたいんだ!!!」
「断る!!!」
「なんでさ!!!男のボク様に恥ずかしいことをさせてるんだぞ!!」
さっきまでとは打って変わってユキが暴れだす。
「さっきまでノリノリだったろう!?」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか!!」
……BGMが流れそうだ。渡る○間は○ばかりのあのBGM。
「そもそも、一緒に寝なきゃいい話だろう!なんで、俺とユキが一緒のベットで寝ているんだ!!」
「そ、それは……ぽっ」
「なぜ、そこで顔を赤らめる!?」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか!!」
「またか!!」
二度目のネタは寒いだけだ。一度目も寒かったが。
「ボク様にはまだ早すぎたんだ!!」
「なにが!!」
「あんなに硬くてでっかいの……」
「だからなにが!!!!」
「ハヤトのベットだよ!!なんであんなに硬いのさ!!!」
「じゃあ、なんで顔を赤らめた!!!」
「!」
「なぜ驚く……」
「いや、今日のハヤトは鋭いかな?って」
「ユキお前、バカにしているだろう?」
あはは、バレた?とユキが笑う。
俺はどっと疲労感を感じる。
どうせ、ユキのことだ深い意味は無いのだろう。
「でも、ハヤトが悪いんだよ?」
「なにが?」
意味が分からない。
「ほら、ボク様との約束忘れていたでしょ?」
「約束?」
すぐにはピンと来なかった。
「まだ、思い出さないのか……じゃあ、ヒント!オ・カ・ネ!!!」
「金?金……あぁ、金を返したら……」
「おお、思い出した!?」
ああ、今のでピンと来た。
昨日の仕返しだ。
「お嫁さんにしてやるんだったな。しかし、いいのか?お前はこの約束で男を捨てることになるぞ?」
一番いい笑顔で答えてやる。
どうにもユキは絶句しているようだ。顔を赤らめて俯いている。
相当に悔しいのだろう。
これで、昨夜の仇は返してやった。
まあ、コレで金が返ってくるようだったらさらに嬉しいのだが……。
「そうだね……そうだったね………」
沈んだ声で答えるユキ。
まぁ、当たり前だろう。本来の約束を忘れられている上に自分が仕返しの心算で吐いた嘘がそのまま自分の首を絞めているのだ。
ユキは、黙ったまま立ち上がり、部屋の隅にあった小さな袋を俺の目の前に置く。
「じゃあ、コレ……」
「なんだ?コレ?」
「お金だよ。返す。」
ユキにしては珍しく淡々とした声で反応した。目も合わせようとしない。
「ユキ、怒ったのか?」
「………」
反応しない。
相当、ご立腹のようだ。
さすがにやり過ぎたようだ。
「なぁ」「ねぇ」
俺たちは同時に口を開いた。
奇妙な沈黙が流れる。
最初に沈黙を破ったのは俺だった。
「悪かった。」
「な、なにが?」
「約束のことだ。昨日は忘れてて悪かった」
「うん」
ユキは少し、顔を俯け息を吐いた。ため息ではないと思う。
「いいよ。その様子だと思い出しているみたいだね」
「ああ」
ユキは許してくれたのか、元気を徐々に取り戻りだしてきた。
「じゃあ、約束をちゃんと果たしてよ?」
「そうだな」
「日給は5万円だよね?」
「違うな」
無理に決まっている。どさくさにまぎれて何を要求している?
「じゃあ3万」
「無理だ」
それも無理だ。聖翔の従護士見習いにはなるが、学生で稼げる金は限られている。
「じゃあ――――」
「1万だ。」
「オッケ~。商談成立!!!」
ガッツポーズを取るユキ。
少し、割高にしすぎたか?
まぁ、いい。
今回はやり過ぎたようにも思える。詫びのしるしだ。
話がまとまったところで、二人は部屋を後にした。
更新遅くなってすみません
やばいです。眠くなってまいりました。
安眠丸の名は伊達じゃないです。