集結せよ!二代目新宿戦隊
激動の時代、昭和。
この時代を象徴する言葉は数多くあるが、最も衝撃的だったことと問えば誰もが口を揃えるだろう。
――そう、かの異星人襲来である。
正体不明の異星人が日本を襲撃し始めたのは、昭和も終わりに近づいた1970年代後半のこと。
便宜上「異星人」と呼ばれていたが、最も人間に近い外見をしていたのは幹部の命令があってのみ動ける下っ端兵士たちだけで、幹部も二足歩行をしている率が高くはあるが異形の者ばかりだった。
彼らは各地で日々大量の下っ端兵を率いて事件を起こし、その地を我が物にせんとした。星間移動などを行う技術力はあるのに、何故か幹部以外は個々の戦力や戦術がいまいち足りていない異星人たちを蹴散らすのは自衛隊にとって難しいことではなかったが、質より量かつ神出鬼没な相手にはどうしても対応が後ろ手となり、手のまわらない事例も出てしまうようになった。
対応に追われた日本政府は1980年代、各自治体毎に対異星人用の特殊な部隊を設立するよう求めた。国はその部隊に必要となる特殊な教育や設備等の支援を行うのである。
そうして組織された『自治体戦隊』のメンバーらは、消防団とほぼ同じ形で社会に貢献した。つまり、本業はそれぞれ別にあり、有事には素早く集結し事件を解決するのである。
自治体戦隊の中でも最も活躍したのが新宿戦隊だった。後からわかることだが、敵の上層部が新宿に潜伏していたのだ。故に敵の出没回数も多く、その手法もバラエティに富んでいたため派手な立ち回りが多くなり、人気はとどまるところを知らなかった。注目された結果か、新宿戦隊はエンターテイメント性にも優れた才能を発揮し、ギャラリーとお茶の間を沸かすヒーローの代名詞となった。
…1985年に敵本部を壊滅させ、同時に自分たちも解散した、あの最終決戦を迎えるまでは。
とにかく、当時国外を巻き込んで異例の戦隊ブームとなっていた日本国民が最も注目し、熱狂し、解散を惜しんだのが新宿戦隊なのである。
***
「――…というわけでだ!俺たち二代目新宿戦隊は敵を一掃するだけじゃなく、他の自治体戦隊を鼓舞する役目だとか、国民を楽しませる役目も担ってる!」
時は経ち、2010年3月。
新宿区内にある某大学の教室で熱弁をふるっているのは、教卓よりも生徒側が似合う若い風貌の青年だった。
量が多く手入れの行き届いていない黒髪に、酷使した様子のジーンズ。くっきりとした顔立ちに爛々と輝く瞳は、さめた空気のその場には異質なものだ。
ギャラリーは広い教室には寂しいたったの3名。1人は学ランをまとった小学生程度の子どもで、前列端の席に身を縮めて座り、リアクションに困った様子でとりあえず頷いている。あとの2人は教卓の若者と同じ年代の男女で、どちらも水系の商売をしていそうな風貌だ。女性の方は教室中央の席に腰かけてはいるものの、イヤホンをつけてリズムに体を揺らしながら携帯をいじっている。男性の方は教室の後ろで腕を組んで立ち、涼しげな瞳を細くして、青年の話を聞くというよりは見下したような態度を向けている。
青年の講義は続く。
「俺たちは今日初めて集結を命じられ顔を合わせたわけだが、実際今敵はいない!では何をすべきか?もちろん訓練は必要だ。訓練がなければ初代のように、変形した都庁を華麗に動かす、ということもできないからな!だがその前にまずは地域住民に親しみやすさを…」
「おい」
腕を組んで立っていた男性が、青年の話をさえぎった。青年は嫌な顔ひとつ見せず、「なんだ!」と笑顔を返す。先生が生徒を当てるときのようなノリだが、当てられた男性はそのノリを一切受け付けないような低いテンションの声で続けた。
「てめえはさっきレッドに任命されたっつったが、その程度の知識量でリーダー勤まる気でいんのか?あ?」
問いかけというより挑発のそれは、悪く言ってヤクザ、良く言ってチンピラだった。だが、青年…レッドは変わらず笑顔のまま返す。
「ん?何か妙な所でもあったか、イエロー!」
「なんで俺がイエローだよ」
「金髪だからな!」
指摘された髪の色は、細身を際立たせる黒いスーツと対照的で、確かに金に近い茶色だ。
「俺はブルーだ、メンバーの顔と名前も知らねえのか?リーダーさんは」
ブルーは眉間に思い切り皺を寄せながら、一歩一歩靴を鳴らして教卓に近づいていった。険悪なその様子に、学ランの子どもは怯えた様子をみせながらどうなることかを伺っていたが、唯一の女性は騒動に気づいた様子もなく携帯をいじり続けている。
ブルーは「悪い、知らされてなくてな」と笑うレッドの一歩前で止まると、身長故に見下す形になりながら再度口を開いた。
「いいか、新宿副都心ができたのは1991年…つまり、異星人が去ってからだ」
「…何だと!?」
レッドの目が見開かれ、その動きが止まる。
ブルーは勝ち誇った表情で口角をあげた。
「新宿戦隊が変形した都庁に搭乗して敵と戦ったっつうのは、後の戦隊モノ番組の架空の設定で事実無根。…真っ赤な嘘たあてめえに似合いだなあ、レッドさんよ」
更なる挑発の意図でブルーがレッドの胸元に仕掛けた、ドアをノックするような軽いパンチは、茫然自失な様子のレッドをぐらつかせるのに充分だった。
紅一点は騒動に気づいていないのか我関せずなのか、上機嫌に携帯を打ち続けている。
(…顔合わせがこんなんで、大丈夫かなあ…。)
リアクションに困り続けている子ども…グリーンは、自分以外の3人の様子を見てため息をついた。
なおその頃イエローは、集合時間を間違えて学食でカレーを食べていた。
はじめまして。
細かいことを考えずに書いてるので、大雑把に楽しんでいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。