悪夢
もう限界だ。
僕は、そう思った。
高い塔の先端。
しがみつく僕の腕は限界だった。
今までは、こういう場合、全て夢だった。
こんな所に居ること自体が非現実的だった。
頬をつねって痛くなかったら夢というのも、
判断基準にならない。
痛覚が麻痺している可能性があるし、
何より、夢の中でも、
『良く分からないが痛いような気がする』
となることが多い。
何より、僕の腕は疲れていて、
これ以上は限界な気がしている。
この疲れは、現実の証拠ではないか。
それとも、変な寝相で
腕が体に押し潰されているだけなのか。
これが夢か現実か。
明確な基準は、どこにもない。
結局、飛び降りてみるしかない。
99%の夢オチと、
1%の現実の前で。
僕は腕を離した。
落ちていく。
雲を抜けて、次第に街の全景が見えてくる。
落ちていく感覚は
いつも通りだ。
僕は夢であることを確信した。
グチャッという音がして、
自分がトマトになって潰れたような、
不思議な感触がした。
僕は驚いた。
いつもは、地面に落ちる前に、
世界は曖昧になり、目が覚める。
今回は珍しい。
しかし、僕は安心していた。
全く痛くない。
だから、これは夢に違いない。
今に目が覚めて、
いつもの日常が始まるのだ。
ただ、ずいぶんとこの時間が長い。
僕は、少し焦ってきた。
不安が少しづつ大きくなっていく。
道の向こうにいる小さな子と、
目が合った。
その子の目は恐怖に染まっていた。
その目が、あまりに現実感があった為、
見るのが怖くて、僕は目を閉じた。
早く目が覚めることを願いながら。
また、目を開けた。
その子は、まだ僕を見ていた。
そして、泣きそうな顔で、
無意識に現実逃避するためか、
口元を歪めて、笑った。
僕は、その顔を見て、
これは現実だと確信した。
僕は悲鳴を上げた。
そこで、目が覚めた。
恐怖は、しばらく収まらなかった。
ここが本当に現実か確信が持てず、
何かにしがみつきたくて、
枕や、ベッドの端を強く握っていた。
ようやく落ち着いてきて、
ここが現実であることを認識した。
鏡に、泣きそうな顔が映った。
夢を笑い飛ばしたくて、笑ってみた。
そこに、
夢の子どもと、そっくりな
歪んだ笑みが見えた。
僕は首を振って、全てを否定した。
落ちたのは僕じゃない。
死んだのは僕じゃない。
あの人は、僕に全く似ていなかった。
目が合ったというのも気のせいだ。
顔が半分潰れていて、
意識があるはずがない。
誰かに確認したわけではないが、
あまりに非現実的だ。
夢であったに違いない。
しかし、
僕は、はっきりと覚えている。
小さな頃の僕の、
歪んだ笑みを見て、
その潰れた血まみれの顔が、
初めて、自分がこれから死ぬという現実に気付いたような、
驚愕と恐怖の叫びを上げたことを。




