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境界線

作者: リュウカ

暗めです。お気をつけください。

「明日から夏休みが始まりますが、皆さん規則正しく過ごすよう――」

 ありきたりな、「普通」のコトバ。大人が最も好み、最も嫌う。

 子供が最も嫌い、……最も、好む。

 この世は、そんなものでいっぱいだ。

 ……居場所など、もう、何処にも無いのかもしれない

 きっと、気づいたら、砂のようにこの手からこぼれ落ちてるんだ。

 それまでは、自分を騙せても


 ”気づくこと””知ってしまうこと”以上の絶望が、果たしてあるのだろうか……?


『いっつもおんなじだよね。校長のコトバ。少しはひねれって、思わない?』

 軽快なコトバ。なんとなく落ち着いた。……それはきっと、知っていたから。

 彼女が……蛍が、自分と同じことを思っていると。

『普通ってコトバ、なんだか嫌い。……ぜんぶ引っくるめてるのに、しきれずに、いろんなものをポロポロとこぼしてるって感じがするもん。』

 いつだったか、そう言っていた。

 なんとなく嬉しかった。独りじゃない。

 そして気づけば、いつも一緒に居た。

 この、中三の夏までは。


 「普通」の境界線の引き方を、大人たちは、知っているのだろうか?

 「大人」になれば、僕にも分かるのだろうか……?


 思えば、昔から僕は、「普通」でない子供だった。

 人よりも色素の薄い髪や目は、簡単に僕を"いじめ"の対象にした。

 おまけに僕は冷めた子供だった。転校してきたばかりで、そんな態度も彼らの 気に入らなかったのだろう。

 やれ日本人じゃないだの、不良だの、格好つけだの、目立ちたがりだの、「普通」 じゃないだの。

 そんな簡単な言葉が、僕を傷つけた。傷ついていない振りをしていたけれど、気づけば心は傷だらけだった。

 蛍とは、そんなとき出会った。

『綺麗な色だね。キラキラして、宝石みたい。いいな……』

 その時から蛍は強かった。ずっと僕のそばにいては、ささやかな幸せを僕に与えてくれた。

 蛍が、新月の闇を照らすように。

「そんなに沢山貰っても、僕は何もあげれないよ……」

『ううん、沢山貰ったよ』

『……ずっと、そばにいてね。陸』

 せめてそれだけは守ろうと思った。むしろ、蛍のそばは心地よかったから、きっと進んでやっていたのだろう。

 四年間、ずっと。

 そんなことも忘れるくらい、長い間。


 幸せなんて長続きしない。

 いつもいつも、新しく見つけていかなきゃならないんだ……

 どんなに、ボロボロになっても……

 

 夕方の、誰もいない教室が好きだ。

 夕日が窓から差し込み、教室の全てが橙に染まる。恐いくらいの静けさが、僕を外界から引き離す。

 生徒が居るときとはまるで別世界。

『そうだね……でも、少し、寂しいな。』

 僕らの意見は、大抵反対だった。

 根本的な思想は同じだったのに、何故だろう。

 不思議で、面白かった。

『陸がいてくれるなら、どんな天気も好きだよ。でも……一人きりの日の雨は嫌い。嫌なことばっかり、思い出しちゃう……』

 蛍はあまり自分のことを話そうとしなかった。僕も話したくなかったから、聞かないでおいた。

 ずっと一緒に居たけど、それ以上距離は縮まなかった。僕らにとっては、その距離が一番心地よかった。

 だから僕らは、決して、恋人同士にはなれなかった。

 どうやら恋人になるには、それ以上に、相手の領域に踏み込まなければならなかったようだから。はたから見れば、恋人同士以外の何者でもなかったようだけれども。

『陸……私たちは、おんなじだね。同じ痛みを、きっと共有してるんだね。』

 どんなにお互いを求めていても、痛みを理解できても、それを治すことはできない。

 いつまでも、同じままでいれても。

『同じだから、親友にはなれても、恋人にはなれないの。』

 切なかった。


 ……暗い夜道、歩くと転ぶ。

 でも、歩けと大人はいつも言う。

 遠くから。自分は、明るい場所に立って。


 僕らは臆病だ。

 だから人に傷つけられまいと、壁を造る。

 いつまでもそんなんじゃだめだ。

 ……分かっていても、足がすくんだ。

 未知の世界は恐怖でしかなかった。

『そうだよ。でも……きっと、子供のままじゃいられない。』

 「普通」という隠れみのに隠れて普通でないことをする大人。

 「普通」という隠れみのを捨てて「普通」のことをする子供。

 ……どっちの方が、まし?

『どっちかしか、選べないのかな……?』

 そうなるくらいなら、まだ、

『「死んだ方がまし」』

 でも、きっと、死ぬことさえも恐いんだ。

『「じゃあ、どうすれば……?」』

 ……誰でも、誰でもいいから、誰かに、教えて貰いたかった。




 線香の匂いがふわりと鼻孔を満たした。

 甘ったるい、蛍には似つかわしくない優柔不断な香り。

 ひっそりと噂話をする囁き声。

 黒と白で統一された空間。

 ……結局、蛍は耐えられなくなった。

 声を掛けてきた男と付き合い、答えを掴もうとした。

 そして、その男にいいように遊ばれ、答えを手に入れることもなく、この世界に 絶望し、一人で先に行ってしまった。

 あっさりと。あれほど悩んだ死の恐怖を乗り越えて。

 最後に見た蛍の、あの泣き顔が脳裏から離れない。

『私は、もう駄目だよ……ねえ、陸。せめて陸は……陸だけでも、答え、見つけて?私に、教えてね……?』

 なんとなく予感はしていた。それが彼女の遺言になるだろうとは。

 それでも蛍を止めることなど、出来はしなかった。

 ……彼女の苦しみが分からない、それでも死の恐怖を越える絶望が、一体どれくらいの想いかは容易想像出来るこの僕に、一体、何が言えたと言うのか

 死にたいほどの想い、絶望。……気休めの言葉など、はこうと思えば幾らでも、誰にでも吐けた。

 でも、そんな言葉は、蛍の心に届かないばかりか、逆に、蛍の絶望を深めるだけだ……

『ごめんね。迷惑、かけちゃうかも。……ね、陸から貰った物、私、何処に無くし ちゃったんだろ……?あんなに沢山、あったのにな……』

 僕はまだ、持っていたよ。

 大切に大切に、隠しておいたから。

 ……まだ、誰にも見せてないから……


 死ぬとはあっけないものだ。

 楽しげなざわめき声がそれを物語る。

 あの日のこと、囁かれていたのはほんの数日だった。

 ほら、もう、皆笑えてる。

 僕だけが、一人遠い世界に居る。

 ……壁が、いっそう、厚くなった様。


 夏特有の、真っ青な空。白い入道雲。

 ……思えば、僕と蛍はよく似ていた。

 僕は両親から疎まれていたし、蛍の両親は幼い頃に他界していた。

 僕らは互いを羨み、そして互いが羨んでいることに気づいていた。

 「普通」を連発する大人を嫌い、「普通」でいようとする子供に呆れていた。

 周りに壁を造り、傷つくことを恐れた。

 そして、

 誰よりも、”他人”を欲していた……

「……どうして、こうなるのかな……?」

『ねえ、陸。』

「……僕らは、ただ……」

『……やっぱり、二人だけじゃ……』

「……寂しかっただけなのに……」


 風が一陣、砂をさらって駆け抜ける。



とある台詞を言わせたいだけに書いた作品です。

これも昔のやつなので文章が拙いです。なんか説教臭いし。

ラストはこれ以外思いつかなくて、こうしかならなかったんです。死んで終わりってすごく嫌いなんですけど、この作品を収束させるにはこうしかなかったという……


テーマは気に入ってるので、同じテーマで違う作品を書いてみたいですね。


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