99.留守番
ミコトとロイは、その日は、第4エラルダ国のセタの実家に泊まることになった。
ロイはセタの部屋に布団を敷いて寝ることになり、ミコトはリタと一緒にベッドで寝ることになった。
リタは、もう布団がなくてごめんね、と謝っていたが、ミコトは元々、セイラと一緒に寝ているので、隣に人がいた方が落ち着くのだ。
リタは、今、恋人がいると話してくれた。
その人は、第4の騎士団の元副騎士団長で、今はこの山の中腹の村の護衛をしているそうだ。
何軒か家があったが、そのどれかに住んでいるのだろう。
ぜひお会いして、手合わせしていただきたい。
セタは、力の配分というのを変えて、身の回りの事は全て自分でやれるそうだ。
力の配分を変えるとか、規格外なところは、兄弟そっくりだ。
そしてセタにも、ほぼ毎日お世話しに来る、恋人のような女性がいるそうだ。
その女性は、セタの幼馴染で、一度結婚したものの、7年前に離婚して実家に戻ってきていたところ、5年前にセタが運び込まれてからは、毎日お世話にきているそうだ。
もしかしたら、その女性は、元々セタの事が好きだったのかもしれない。
リタはその女性を娘の様に思っていると言っていた。
セタの部屋には、先代聖女の残した絵が何枚かあった。
それは、車の絵と飛行機の絵とスマホの絵だった。
そして、全ての絵に、英語で
「Dear seta I love you forever Daisy」
と書かれていた。
簡単な英語だったので、意味をセタに教えようかとも思ったのだが、恋人の様な女性がいるのなら、きっと不要だろう。
そもそも、伝えたかったら、英語で書く必要はないのだ。
それに、永遠に、だなんて、先代聖女のデイジーは、記憶を失くしてしまうのに、何故そんな事を書いたのだろう。
ロイから、セタと聖女は、実は関係を割り切っていた、と聞いたが、デイジーはそうでもなかったのかもしれない。
どちらにしろ、ミコトが口を挟む事ではない。
次の日の朝、ロイは、ミコトの事で悩んでいた。
第4エラルダ国の首都に戻り、キダンと共にカラスの調査をしたいところだ。
ミコトから離れたくはないが、カラスの調査にミコトを連れて行く訳にはいかない。
しかし、ミコトを第4の首都で1人にするのは、危険だ。
それならば、リタの恋人という護衛がいるこの場所に残して行った方が、安心ではある。
リタにこの事を話すと、
「そういう事なら、オルバを呼んでくるわ」
と、足早に家を出て行った。
ロイは、ミコトの両肩に手を置いた。
「ごめんね。大人しく、待っていてくれる?」
ミコトは頷きかけたが、大人しく? と首を捻った。
「大人しくとは、オルバさんに、対戦を申し込んではいけないと…?」
ロイは、やっぱりか! と天井を仰いだ。
おいて行く事を、あまり気にしていないので、変だとは思っていたが、ミコトはオルバと戦う気だったのだ。
「どうして護衛と護衛対象が戦っちゃうの?」
「戦いじゃなくて、えーと、手合わせ?」
「一緒だから!」
ロイとミコトが言い合いをしていると、出入り口のドアが開き、リタに連れられてロイよりもガタイの良い茶髪の男性が入ってきた。
男性はリタと同じくらいの年齢だ。
リタは、その男性、オルバに、ロイとミコトを紹介した。
「こんな可憐なお嬢さんが、悪党に狙われているなんて…。承知しました。誠心誠意、護衛させていただきます」
どうやら、オルバには、ミコトが可憐なお嬢さんに見えるようだ。
ミコトの説得は無理なので、ロイはオルバに「ちょっといいですか」と言い、セタの部屋に連れて行った。
「セタ兄、ちょっとここで話してもいい?」
セタは微笑んだ。
「いいよ。オルバさん、おはようございます」
「セタ君、おはよう」
和やかな雰囲気なのに申し訳ないが、ロイはオルバに頭を下げた。
「すみませんオルバさん、依頼料を支払いますので、護衛をしつつ、適度にミコトの相手をしてやってくれませんか?」
オルバは目を丸くする。
「あ、相手? 話し相手ですか?」
ロイは首を振る。
「いいえ、対戦相手です。あと、ここは魔物が出ますよね。魔物の討伐も適度にさせてやってください」
オルバは驚いて声が出ないようだ。
話を聞いていたセタは、ふふっと笑う。
「オルバさん、ミコトちゃんは、割と強いんです。体力も有り余ってるから、適度に発散させてあげて下さい。そういう事だよね?」
ロイはウンウンと頷く。
なるほど、元気な女の子なのだな、とオルバは笑顔になった。
「そういう事ですか。承知しました。お任せください」
ロイとセタは、オルバの想像より少し斜め上にいくのだろうとは思ったが、とりあえず余計な事は言わないようにした。
「ミコト、何かあったら、呼んでね」
ロイは名残惜しそうにミコトを見つめる。
「うん。ロイも無理しないでね。キダンさんの相手も適当にね」
ミコトもロイを見つめる。
2〜3日のことだが、やはり、離れるのは寂しい。
ミコトもロイと繋がれればいいのに、と思ってしまう。
ロイはふっと笑うと、かがんで、ミコトにキスをした。
「すみません、リタさん、オルバさん、ミコトをよろしくお願いします」
2人の様子を見ていたリタとオルバは、ハッとなる。
「え、ええ。いってらっしゃい」
「し、承知しました」
ロイがかなりのスピードで走り去るのを、ミコトは赤い顔で見送った。
あの天然素直イケメンは、どうして、人がいても関係なくキスをするのだろうか。
ロイはこの場から走り去るからいいかもしれないが、残された人たちの、この雰囲気をどうしろというのか…。
「と、とりあえず、お茶でも淹れましょうか!」
リタが何事も無かったかのように、ミコトとオルバに話しかけたその時だった。
1人の女性が、こちらに向かって走ってきているのが見えた。
女性は30歳くらいで、ふわふわとした明るい茶色の髪を後ろで束ねた、なかなかの美人である。
ミコトは、この女性がセタの恋人かもしれない、と思っていた。
「オルバさん、あっちの山道に、魔物が!」
女性は、息を切らしながら、ロイが走り去った方角とは逆の方を指差した。
やっぱり、魔物はロイが抑えていたらしい。
というか、抑える気はなくても、魔物が怖がって出てこれないということかもしれない。
「承知!」
オルバはチラリとミコトを見る。
ミコトは頷いた。
「私も行きます!」
このために残ったと言っても過言ではない。
ミコトは荷物から剣を取り出すと、オルバの後について行った。




