98.この世界に来た意味
ミコトが、聖女であるセイラのオマケとして、この世界に来てしまったこと。
5年後、聖女と一緒に帰れないこと。
古代魔法の適性があるかもしれず、その事で狙われていること。
ロイを殺すために狙われていること。
初代聖女の子孫で外見が似ているために初代聖女信仰から狙われていること。
この世界を変えることを禁じられていること。
などを、ロイはセタに話した。
セタはロイの話が終わるまで、特に口を挟まず、静かに聞いていた。
「そうだったのか。そんな事が起こっていたのか…」
ロイの話が終わった後、セタはポツリと呟いた。
「セタ兄にとって、アリアンの力は間違いなく呪いだったと思う。でも、ミコトを守るために、俺にはないと困るんだ」
ロイの言葉を聞いて、セタは少し首を動かした。
「俺も、全てが呪いだったとは思っていないよ。あって良かったとは思っている」
ミコトは2人の話を聞いて、セタの症状が、精神的な病気ではない事を悟った。
呪いだったとすれば、医者ではどうする事も出来ない。
古代魔法は、どうだろうか…
セタはミコトを見た。
「ミコトちゃんは、この世界に何故来たのだと思う?」
聖女の1つお願いを叶えるシステム、とは言えない。
「え、と、偶然、ですかね。本当に、聖女のオマケで来た感じです」
ミコトの答えに、セタはふふっと笑った。
「ミコトちゃん、何故生きているかは、自分で意味を考えて決めていいんだよ。世の中の偶然は、全て必然なんだ。ミコトちゃんがこの世界に来た意味は、ミコトちゃんが決めていいんだ」
ミコトはセタとロイを見比べた。
自分で決めていい。
神様からすれば、この世界にミコトが来た意味はなかったけど、ミコトにとっては、この世界に来たことは、とても意味のあることだ。
「私、ロイに会うために来たのだと…」
ミコトは呟いていた。
そして、しっかり声に出して言っていたと気付いて、顔がかぁっと熱くなった。
何を色ボケたロマンチストみたいな事を言ってしまったのだろうと、激しい後悔の念に襲われる。
「ご、ごめんなさいっ、私、あのっ…」
ミコトが何とか弁解しようとすると、ロイはミコトをギュッと抱きしめた。
「ミコト、可愛い…」
いやいや、お兄さんの前だよ!?
ミコトがセタを見ると、セタは真面目な表情をしている。
「そうか。やっぱりそういう事か…」
ミコトの色ボケセリフと、ロイの色ボケ行動の後に、何故か納得したかの様な冷静な反応!?
ミコトが目を丸くしていると、セタはミコトの視線に気づいた様で、「ああ!」と言った。
「その本を読むと分かるけど、アリアンの男は、スキンシップが激しい傾向にあるんだよ。ミコトちゃんも覚悟はしておいた方がいいよ」
な、何だって!?
というか、この本、何が書かれているの!?
さらに目を丸くするミコトに、セタは微笑む。
「今はそれはいいとして、ミコトちゃんは、やっぱり、そのために来たんだと思う」
ミコトの色ボケセリフが容認されてしまった。
ロイはミコトを抱きかかえたまま、部屋の隅にあった椅子を持ってきて、そこに座ると、ミコトを膝の上に乗せた。
ここでも、膝上抱っこなのか。
セタも全く気にした様子はない。
「アリアンの男は、遅くても20歳までには、自分の守るべき人を定めるんだよ。そうしないと本来の能力が発揮されないし、能力が外に出ないと、体に負担がかかるからね」
セタの説明に、そうなのか、とロイとミコトは頷く。
「ロイが何も知らなかった上に、能力が封印されていたから仕方なかったのかもしれないが、ロイは女性に興味が無さすぎて、少しおかしいなとは思っていたんだよ」
ミコトは、んん? と首を傾げた。
「でも、ロイはいろんな女の子と付き合ってたんだよね?」
ロイの体が、ピクッと動く。
セタは知っているようで、目線をチラリとロイに向ける。
「えーと、騎士団の誰かがそんな事を言ってたかもしれないんだけど…」
ロイは言いにくそうだが、ミコトは、この話は有名な話で、騎士団の全員が知っていると聞いている。
「女の子たちが、騎士団に来て、ロイを取り合って修羅場になったって、みんなが言ってたよ」
「みんな!?」
ロイはガックリと肩を落とした。
騎士団全員が、面白がってミコトに伝えたとしか思えない。
セタはくっくっと笑う。
「ごめん、弟を庇う訳じゃないんだけど、ロイは食事に誘われて、どの女性とも一回出かけただけなんだよ。あれは、15、6歳? だったよな。その頃のロイは、あまり男女の区別がなかった上に、誘われたら断るという感覚がなかったんだ」
「付き合っていた訳では…?」
ミコトの言葉に、ロイは首をブンブン横に振る。
「ない! 全く付き合ってないんだよ!」
セタはロイの慌てぶりを見て、もう少し助けるか、と溜息をついた。
「騎士団に女性が詰めかけたのは本当なんだけど、ロイはそこで全員に、そんなつもりはなかった、二度と会わないって言ったんだ。少し騒ぎになったけど、俺が出て行ったら、すぐにみんな納得して帰って行ったよ」
セタの説明に、ミコトは、なるほど、と頷いた。
大体、全部読めた、と。
15、6歳のロイは、今よりもっと天然素直カワイイケメンで、お誘いにあっさり乗ってしまって、デート中に天然素直な受け答えをして、女の子たちをその気にさせてしまったのだ。
その中に、ミコトがいなくて本当に良かった。
ミコトもチョロいので、勇気を出して誘ったロイがデートに来てくれて、笑顔でも向けてくれたら絶対にその気になってしまって、騎士団に押しかけていたかもしれない。
そしてロイに、そんなつもりは無かったと断られるのだ。
そんなの酷い! とロイに詰め寄っていると、イケメンオーラを放ちまくりのセタが現れて、こんなイケメンの前で醜態は晒せない! となり、大人しく帰るしかなくなる、ということだ。
なんて恐ろしい兄弟なんだ。
「ミコト、その顔は、怒ってるの?」
ロイはミコトの顔を不安そうに覗き込んだ。
ミコトは複雑な表情をしていたようだ。
怒ってるのではなく、君たちイケメン兄弟に恐怖していたのですよ、とは言えない。
「怒ってないよ。そんな、私が5、6歳の時のことで怒らないよ」
「5、6歳!?」
ロイは再び肩を落とした。
ミコト的には、歳の差があって良かった、という話なのだが、ロイは別の意味で捉えてしまったようだ。
セタは、話が逸れそうだと感じて、話を戻した。
「まあ、その事もあってなのかもしれないけど、ロイは女性に興味関心が無かったんだよ。他の男ならそういう人もいるだろうけど、アリアンの男としては、異常なことなんだ」
「異常…」
ミコトは呟いてロイを見る。
ロイはまだ、5、6歳のことでショックを受けているようで、ボンヤリとしている。
「つまり、ロイは自分にピッタリ合う女性である、ミコトちゃんを待っていたんだよ」
セタはそう言いながら、本当に、アリアンにとって、ミコトという女性は都合が良すぎる、と思っていた。
セタは第1の副騎士団長だったのだ。
騎士団内で3番目につけることが、女性には不可能だということをよく知っている。
男のリントの事でさえ、30年に1人の逸材だと思っているのだ。
つまり、ミコトの筋力と体力は、この世界の男性よりも上ということになる。
しかもミコトは、三方面から狙われている。
つまり、守られるべき存在、ということだ。
そして、ロイは、歴代アリアンの中でも、特別に身体能力が高い。
まるでミコトは、そんなロイのために、作られたかの様な存在だ。
「そう言われたら、そんな気がしてきた!」
セタの、ミコトを待っていた発言に、ロイはミコトを再び抱きしめている。
ミコトは照れながらも、ロイを許容している。
セタは、その様子を見ながら、この2人からアリアンは変わるのではないだろうか、と感じていた。




