97.初対面
ロイの兄である、セタの実家の暖炉のある部屋で、ミコトがセタの母のリタと話し込んでいると、ロイがセタの部屋から出てきた。
ロイの表情は、入った時と打って変わって、笑顔である。
ミコトは、ホッとした。
良かった。
きっと、何か誤解が解けたのだろう。
ロイは元々、お兄さんが大好きなのだ。
本当に良かった。
「ミコト、セタ兄がミコトに会いたいって言ってる」
ロイの言葉に、ミコトは驚いてリタを見た。
リタは笑顔でこくんと頷く。
「う、うん」
ミコトは椅子から立ち上がると、ロイのところまで歩いていき、髪を整えた。
先程、ロイにボサボサにされたのだ。
せめて、少しは綺麗に…、そう思ったところで、ミコトはハッとなった。
何故、今日、メイクをして来なかったのかと。
国家特別人物の妻は、全員美人だ。
セタはかなりのイケメンで、全女性の憧れだったのだ。
そして、絶対美人の聖女と恋人同士だったのである。
今朝のミコトがやるべき事は、ロイの寝顔を見る事ではなく(どうせ見れなかったし)、ユーリのお店に行って、メイクをして貰う事だったのだ。
「私、また判断を間違えた…」
ミコトの呟きに、ロイは首を傾げた。
「会うの、緊張する?」
ロイは優しくミコトに笑いかける。
緊張はしている。
でも、そうじゃなくて、何と言ったらいいのか…。
ミコトはサッとロイの後ろに回った。
チラッとちょっとだけ顔見せ作戦にしよう。
ロイは、ミコトは恥ずかしいのかもしれない、と思い、あまり気にせず、茶色のドアをノックした。
ロイはドアを開けて、セタのベッドの横まで歩いて行く。
ミコトはその後ろに隠れて、歩きながら、ロイのシャツを掴んだ。
ヤバイ、割と至近距離で会わせてくれるようだ。
いや、それより、隠れてるなんて、印象悪いかも?
ブスより、態度悪い子と思われる方が良くないのでは?
「セタ兄、俺の奥さんのミコトだよ」
ミコトは意を決して、ロイの横に出て頭を下げた。
「つ、妻のミコトです! はじめまして!」
相手は病人なのに、かなり大きな声になってしまった。
ミコトはそろりと顔をあげて、ベッドの上の人物を見た。
とても、細くて、でも、顔の整った男性が、クッションを背に敷いて横になっている。
その男性、セタは、驚いた様に、目と口を見開いた。
「ロイ! どういう事なんだ!?」
セタの言葉に、ミコトは、ダメだった! とショックを受けた。
「え、どういう事って?」
「ご、ごめんなさいっ!」
ミコトはとりあえず謝った。
「何で謝るの!?」
ロイは、セタとミコトの間で困惑した。
「どこが、ムキムキの男性の様な女性なんだよ!」
「ええっ!?(一言も言ってない)」
「ブスでごめんなさいー!」
「えええっ!?(思った事ない)」
ロイは、何故こうなった? と大困惑した。
どうやら、いろいろ誤解があった様だ。
ロイとミコトは、セタのベッドの横の床に直接しゃがみ込む形で話をする事になった。
「ごめんね、ミコトちゃん。ロイの話ぶりで、てっきり、ゴツい男性の様な女性かと思ってしまって…」
セタの言葉に、ミコトは首を横に振った。
「わ、私もすみません。国家特別人物の妻としては容姿がイマイチなので、怒られたのかと思ってしまって…」
とんでもない、すれ違い対面になってしまった。
ロイは一体、ミコトの事をどんな風に話したのだろうか。
「俺、ミコトの事、そんな風に話してないよ。ミコトもイマイチじゃないよ。いつも可愛いって言ってるよね?」
いつもって、お兄さんの前でなんて事を言うのか。
相変わらず、天然素直イケメンすぎる。
ミコトは顔を赤らめてロイを睨んだ。
ふと見ると、セタもロイを睨んでいるようだ。
ロイは2人に睨まれて、体を少し小さくした。
「あー、ちゃんと説明するね」
ロイは、誤解されたと思われる、ミコトを5年間男だと思っていた経緯などを、セタに説明した。
セタはフゥと息を吐いた。
「そういう事か。じゃあミコトちゃんは、15歳なんだね」
ミコトは頷き、ロイはバツが悪そうにセタから目を逸らした。
「そして、見た目からはとてもそう思えないけど、騎士団内で、リントの次に強い、と」
ロイは頷き、ミコトは首を傾げた。
「それは、条件によります」
ミコトがキッパリ言うので、ロイは首を傾げた。
「俺、全員と戦ったけど、総合的にリントの次はミコトかなって思ったよ?」
「ほら、腕相撲だと、私、騎士団内で真ん中くらいだし…」
ミコトが腕をくいっと動かすと、セタは、「それでも真ん中くらいなのか」と微笑んだ。
「でも、ロイの結婚相手がミコトちゃんで良かったよ。俺は、ミコトちゃんのお兄ちゃんだね」
「お兄ちゃん!」
セタの優しい笑顔に、ミコトは内心、ぐはっ! となっていた。
さすがロイの兄である。
痩せていても、イケメンオーラがすごい!
しかも、この人がミコトのお兄ちゃんになるのだ。
結婚って、なんかもう、すごい!
「ミコトは、お母さんとかお兄ちゃんに弱いなぁ」
ロイは笑うと、ふと、ベッドに置きっぱなしの分厚い本に目を落とした。
「あー、ミコトにお願いがあってさ。この本なんだけど…」
ロイは、深緑の分厚い本をミコトに開いてみせた。
その本のページには、細かい字がびっしり書いてある。
ミコトは全てを察した。
「分かった。読んで、内容を教えるね」
「さすがミコト! よろしくね!」
ロイは嬉しそうだ。
セタは、ミコトがロイを甘やかしてるなぁと思っていた。
10歳差だが、精神年齢は近いのかもしれない。
「あの、あそこは何で散らかっているの…?」
ミコトは、本棚の下の、散らかった本と紙を指差した。
もしかしたら、この本を取った時に、ロイが落としたのかもしれない。
ロイはアハハと笑う。
「本取る時に、落としちゃって…」
やっぱり!
案の定すぎるよ。
ミコトは立ち上がると、本棚の下の紙と本を手に取った。
「ロイ、甘やかされてるなぁ」
セタは小声でロイに言う。
「いや、そんな事ないし…」
ロイが反論した時だった。
「ひこうき…」
ミコトは紙に書かれた絵を見て、ポツリと呟いた。
それはとても小さな声だったが、耳の良いロイとセタには、ハッキリと聞き取れた。
セタは明らかに、表情を変えた。
「ロイ、どういう事なんだ!? ミコトちゃんは、聖女なのか!?」
ロイは、ハァと息を吐いた。
どうやら散らかした紙には絵が描かれていて、それは、先代聖女が描いたものらしい。
「ごめん、セタ兄。全部ちゃんと説明するよ。ミコトもいいよね?」
ミコトは、またやらかしてしまったと思い、頷いた。




