95.アリアンの真実①
第4エラルダ国の、セタの実家の、セタの部屋で、ロイは、セタから封印について聞いていた。
「2歳の時か。覚えていない訳だ」
ロイは、苦笑して、頭を掻いた。
「俺は7歳だったけど、父さんが、何故もっと早く相談しなかったんだって言った時、1回も来なかったくせによく言うよ、と思った記憶があるよ」
セタは微かに笑う。
「俺、そんなに酷かったの?」
セタは少し首を動かした。
どうやら頷いたようだ。
「赤ちゃんなのに寝ないし、よく泣く上に泣き声が大きいし、ハイハイで壁を突き破るし、1歳の時には、俺と同じスピードで走っていた…」
ロイは頭を下げた。
「すみませんでした」
セタはくっくっと笑う。
「素直なところは変わらないね。封印と聞いて不安だったけど、愛する者が出来れば自然に解けるということだったし、封印してもロイは強かったから、封印が解けた時に、説明しようと思っていたんだ」
セタは、ふぅと息を吐く。
「でも、待てど暮らせど、ロイの封印は解けなかった」
「すみません…」
ロイは再び頭を下げて謝った。
セタは「いや」と言った。
「俺が悪かったんだ。ハッキリ言って、あの頃の俺は奢っていた。騎士団の団長になる事が決まっていたし、封印が解けなくても、ロイには副騎士団長として、補佐をしてもらえばいいと考えていた。アリアンの煩わしい血筋のことも、ロイには何も知らせず、俺が全てやればいいと、本気で思っていたんだ」
「セタ兄…」
ロイはセタを見つめた。
ロイの知らないところで、セタはいろいろ考えていたのだ。
「聖女とのことも、実は割り切っていたんだ」
「えっ?」
セタの言葉に、ロイは目を見開いた。
「もちろん本気で愛していたよ。でも最初から、元の世界に帰ると分かっていたからね。聖女も俺も割り切っていた。思い出だけはたくさん作ろうと、人目は憚らなかったけど」
「そ、そうだったんだ?」
ロイは、先代の聖女と寄り添っているセタを思い出して、目を泳がせた。
確かに、セタは仕事はしっかりこなしていた。
元々、恋に溺れていた訳ではなかったのだ。
「あれ? じゃあ何で…」
ロイが言い淀むと、セタは真面目な表情をした。
「それが、アリアンの血筋の煩わしさ、なんだよ。俺はそれを父さんから聞いて知っていたのに、聖女を愛しながらも、冷静な自分がいたから、何とかなるだろうと奢っていたんだよ」
ロイはうつむいた。
セタは確かに、聖女が元の世界に帰る日も毅然として儀式に臨んでいた。
だから、誰もが、聖女が帰った後のセタの豹変に驚いたのだ。
「まず、アリアンの血筋は、女性には発現しない」
ロイは顔を上げた。
「これは、筋力や体力の問題らしい。この力は、女性の体では耐えられないんだ」
ロイは「へえ」と言う。
「つまり、女の子が産まれた場合、その子は力に耐え切れず、1〜2年で死んでしまうんだ」
「死…!?」
ロイは思わず大きな声を出してしまった。
セタは微かに首を動かした。
「煩わしいだろう? それなのに、女児が産まれる確率は普通に半々なんだよ」
ロイは奥歯を噛み締めた。
ミコトとの間に、女の子が産まれたら、死んでしまう、ということだ。
まだ見ぬ子どもより、ミコトが悲しむ姿が思い浮かぶ。
「でも、稀に、男性並みの体力と筋力を持っている女性もいる。そういう女児なら、耐えられるのでは…という試みで選ばれたのが、父さんの1番目の奥さんと、俺たちの母さんだ」
セタの言い方は、蔑んでいるようにも聞こえる。
「実際、1番目の奥さんとの間に産まれた女の子は、15歳まで生きた。今までで、最長だそうだ。幸いなことに、母さんもレイさんも、男児を産んだから、その試みは、よく分からないけどね」
ロイは、息を呑んだ。
「あ、あのさ、この事をアレンさんは知っているのかな…?」
セタは微かに笑った。
「知らないんじゃないかな。マリーを嫁候補にするくらいだし、先代の代表とは仲が悪かったしね」
ロイはアレンの前の代表を知らない。
先代の代表と仲が悪かったとは、初耳である。
「俺は知っていたから、マリーを妻にする事は避けたかった。マリーは賢い子どもだったけど、線の細い、普通の女の子だったからね。俺は聖女と相談して、マリーを侍女にして、マリーの前で殊更に聖女と仲良くしてみせたよ。マリーは最後には、俺の事をゴミでも見るかの様な目で見ていたな…」
セタは思い出すように、目を細める。
きっとマリーに悪い事をしたと思っているのだろう。
「俺もその目でよく見られるけど、マリーの事なら心配しなくても大丈夫だよ。今は、リントと付き合ってるし、リントはマリーを悲しませる事は絶対しないからさ」
ロイの言葉を聞いて、セタは微笑んだ。
「リントか。そうか、じゃあ大丈夫だな。良かったよ。実際、10歳も下のマリーを女性としては見られなかったから…」
ロイはギクッと体を強張らせた。
ミコトはロイの10歳下なのだ。
これは、言いづらくなってしまった。
「ああ、ごめん。話が逸れてしまったね。アリアンの血筋で一番煩わしいのは、この、大切な人と繋がる能力だ」
ロイは慌てて頷いて、「あっ」と言った。
「俺、この繋がる能力? 母さんとセタ兄にも繋がってたんだよ。セタ兄もそうなのかなって…」
ロイの言葉に、セタは驚いた表情をした。
「ほ、本当に? ああ、それで、俺の居場所がすぐ分かったのか…。ロイの大切は、家族も範囲に入ってたのか…」
セタの反応で、どうやらセタは違うらしいという事がわかる。
「ロイは、より、先祖に近いかもしれないね。実は、この能力は、元々、この世界の人間を守るための能力なんだよ」
「範囲広いな。出来るかな…」
ロイの呟きに、セタはふっと笑う。
「真面目に考えなくていいよ。昔はそうだったというだけの話だから。苦手だろうけど、300年前の歴史を話そうか」
ロイは顔をしかめた。
歴史、地理は大の苦手である。




