93.セタとの再会
第4エラルダ国の山の中腹にある、セタの実家のセタの部屋に入ったロイは、息を呑んだ。
窓から柔らかい光が差し込む部屋の奥に、ベッドが置いてある。
ベッドの上には、セタらしき人が背中にクッションを敷き、体を少し起こした状態で寝ている。
セタらしき人、と思ったのは、とても、そう、とても痩せていたからだ。
セタは顔を傾けてロイを見た。
「ロイ、やっと、来たね」
「セタ…兄…」
セタはロイを覚えていた。
5年前、別れた時は、ロイが話しかけても、一切反応は無かった。
光を失った、どこも見ていない目で、まるでロイの事も、騎士団の事も、全て忘れてしまったかのように見えた。
ただ、あの時は、これほどまで痩せてはいなかった。
ロイの目から、涙がこぼれる。
「ロイは、相変わらず、泣き虫だね」
セタは優しく笑った。
痩せていても、この笑顔は間違いなくセタである。
リタと同じ、ブルーグレーの髪と瞳。
頬は痩けているが、整った顔立ち。
ロイのよく知っている、セタだ。
ロイは、静かに、一歩一歩、セタに近づく。
ベッドの横まで行き、そこにしゃがむ。
「セタ兄…」
泣きながら、うつむくロイに、セタは触れようとして、微かに手を動かした。
ロイはその様子を見て、愕然とする。
セタは弱々しく微笑んだ。
「情け無いだろう? 痩せすぎで、殆ど動かせないんだ」
ロイは首を横に振る。
「でも、頭と会話だけは、出来るように調整してあるから、ロイに伝える事は出来る」
セタの言葉に、ロイは目を見開いた。
確かに、体が動かせない程弱っているのに、会話はしっかりしている。
「調整って…」
ロイがきくと、セタは「ロイも力の配分、出来るよね」と言った。
ロイは今朝の打ち合わせの事を思い出した。
「頭に力を回すと、疲れるやつ…」
セタはくっくっと笑う。
「ロイらしい」
ロイも苦笑する。
「マリーにも言われたな」
セタは、ふと、真面目な表情をした。
「結婚は、マリーと?」
ロイは首を傾げた。
アレンが手紙を送っていると言っていたが、セタはあまり内容を知らないようだ。
「違うよ。マリーには、死んだ方がマシって断られた」
ロイの言葉に、セタは再び笑う。
マリーのことを好きだった訳ではないが、当時は結構ショックだったので、笑い事ではない。
「これでも心配してたんだ。ロイは女性を避けていたから。結婚したってきいて、安心した」
セタは、ロイが女性を避けていたことも、ちゃんと分かっていた。
「セタ兄には、敵わないな…」
「それで、誰と結婚したんだ?」
セタの質問に、ロイは少し悩んだ。
セタはミコトの事を全く知らない。
異世界人という事は隠した方がいいのだろうか。
どこから説明したらいいのか。
ロイが悩んでいるのを見て、セタは表情を曇らせた。
「もしかして、結婚は嘘なのか? 封印が解けているから、守るべき人が見つかったんだと…ま、まさか、ロイも、聖女…」
ロイは慌てて手を横に振った。
「いやいや、聖女じゃないから! 俺、今の聖女に死ぬほど嫌われてるから!」
セタは、死ぬほど嫌われてる、と聞いて、悲しげな顔になった。
「ロイ、なんでそんなにモテないんだよ…」
「ううっ…」
ロイはセタのベッドに突っ伏した。




