90.重要な打ち合わせ②
「まず、古代魔法の件で、第3エラルダ国のサンドとライラ。ミコトを攫って、古代魔法研究に協力させたかったが、度重なる失敗と第1からの糾弾で、サンドは国家特別人物の資格と財産の殆どを失い、ライラとも離婚。ただ、古代魔法研究は続けている。今は目立った動きはないけど、今後もミコトを狙うかもしれない」
ロイの説明に、セイラはチッと舌打ちする。
「資格を失っただけ? どう考えても死刑なのに」
聖女の舌打ちと死刑発言に、全員苦笑する。
「そこは、俺も聖女に賛成。ミコト、ちょっといい?」
ロイはミコトをひょいと抱き上げるとベッドに腰掛けてミコトを膝に乗せた。
話の途中で、何故、膝の上?
ミコトが赤面して周りを見回すと、全員、真面目な顔をしている。
セイラも、文句を言わない。
ロイはミコトの肩を抱いて、「次にミコトを狙うのは第2エラルダ国の代表のリオ」と言った。
「リオの狙いは、正しくは、俺だ。でも、俺を殺すのは無理なので、ミコトを狙っている」
ミコトはロイを見上げる。
「え、何でリオさんがロイを殺すの? 私を狙う意味も…」
なんで、みんなは何も言わないのだろう。
もしかして、私だけが、知らない事?
ロイはミコトの頭を撫でて、再び話し始めた。
「この世界は、良くも悪くも、聖女にかかっている。そんなつもりはなくても、聖女を召喚できる第1エラルダ国は、この世界で大きな影響力を持っているんだ」
全員、セイラを見て頷いた。
「何故、第1エラルダ国に聖女が召喚されるのか。聖女は守られるべき存在だから、この世界で一番強い者がいる土地に召喚されるんだ。今代の聖女は俺。先代の聖女はセタ兄。その前は俺の父のグレン」
特別な力を持つロイの家系が残されたのは、やっぱり聖女を守るためだったのだ。
「元々、国家特別人物という制度は、俺の家系を残す為に作られたものなんだ。他の国は真似をしただけ…」
ロイは少し目を落とす。
「だけど、聖女は神格化され、聖女を害する者はいない。第1でも、聖女の護衛は、必ずしも俺の家系ではなくなっていった」
確かに、セイラの護衛は、ミコトとリントであり、それに特に問題はなかった。
「そうなると、聖女が第1に召喚される意味がない、と考える国が出る。リオは、聖女の召喚される国に、第2をしたいんだ」
聖女がいるだけで、観光客が来たりするからだろうか。
「俺がいなくなれば、次の聖女は、ソマイのいる第2に召喚される、と考えている」
「なっ!? それで、ロイを殺そうとしてるの!?」
そんなバカな話があるものか。
人の命より、聖女の召喚される国が大事だなんて、おかしい。
怒るミコトの肩を、ロイはポンポンと叩く。
「俺を直接狙ってくれるのなら、それは別にいいんだよ。でも、俺を殺す事は無理なんだ。リオはそれを知っている」
ロイが、規格外に強いから、だろうか。
「そこで、狙いは、俺の愛する者、に変わる」
ロイはミコトをギュッと抱きしめる。
「俺の家系は、アリアン家っていうらしい。アリアンの者は、愛する者がいなくなると、死んでしまうんだ」
「…え?」
間の抜けた声を出したのはミコトだけだった。
セイラもマリーもリントもキダンも、うつむくだけだ。
そうだ。
ロイはミコトがいなくなると、死ぬって言っていた。
重めの甘い言葉だと、ミコトが勝手に解釈しただけだ。
リントもミコトにいなくなってはいけないと言った。
ナラも、ロイより長生きをしなくてはいけないと、そう言っていた。
アレンは、ミコトがこの世界に残るのなら、心配事の半分以上が無くなると言っていた。
みんな、知っていたんだ。
知らなかったのはミコトだけで、そんなロイに、死のうと思ったと、泣きついたのだ。
「わ、私、知らなくて…」
「うん。隠してたから、知らなくて当然なんだ。ミコトに重いものを背負って欲しくなかったし、気持ち悪いって思われたくなかった…」
ミコトは首を横に振った。
「ロイの事、気持ち悪いなんて思わないよ!」
ロイはふっと笑う。
「俺さ、ミコトがどこにいても、分かるんだ。第2に諜報で行った時も、ミコトが途中で騎士団に移動したのが分かったし、結婚式の日に攫われたのも、分かった…。繋がってるんだよ。だからこそ、この繋がりが切れると、まず、心が死ぬんだと…」
ミコトはロイの背中に腕を回した。
「ロイ、ごめんね。私、前に簡単に死のうと思ったって言って、傷つけたよね。ごめんね」
ミコトの軽率な行動で死ぬなんて、怖いに決まっている。
「あれは、ミコトのせいじゃ…。えーと、気持ち悪くない? 居場所が分かる能力とか…」
ミコトは首を傾げる。
「え? 全然?」
「あ、そうなんだね」
ロイはミコトの反応に、無駄に悩んでいたな、と思っていた。
「そっか、それで、第2は私の命を狙ってるのか…」
ミコトが命を狙われていることを知ってしまった。
ロイもリントもキダンも、そんな事はミコトに知られずに、守る事が出来れば良かった、と本当に思っていた。
今この時から、ミコトは怯えながら暮らさなければいけないのだ。
本人に自覚がないと、守りにくいとはいえ、ロイのこの決断は苦渋の決断と言える。
「ミコト、この事を話したのは、俺にはミコトを守りきる力があるから…」
「ロイ、私、わかったよ!」
ロイの言葉を遮り、ミコトは顔を上げた。
「襲ってきた敵を、全員、返り討ちにする!」
ミコトは包帯がまかれた右手をブンッと上に振り上げた。
ロイはミコトの右手首をパシッと掴む。
「いや、何が分かったの…」
「ロイ、これは運命だよ!」
ミコト以外の全員が、変な展開になってきた、と感じていた。
「私がロイに好かれるなんて、おかしいなって思ってたんだけど、ロイの奥さんは命を狙われるのなら、私、適任だよね!」
「て、適任!?」
命を狙われる事に、適任、不適任があるのだろうか、と全員が思っていた。
「だって、鍛えてない女の子だったら、危ないよ!」
リントとキダンは、この時点で顔を背けて笑いを堪え出した。
「ミコトも危ないよ!」
ロイの言葉に、ミコトは首を横に振る。
「今までは、相手を殺さないようにと思っていたけど、やっていいなら、やれる! 気配遮断も、もう少しで察知できそうなんだよね!」
キダンがブーッと吹き出す。
「それ、すごっ! もうダメだぁ!」
リントも続いて吹き出す。
「襲ってきた敵に、同情する…!」
マリーは溜息をついて、ミコトを見た。
「そこは、ロイに『怖い、守って』って言うところなのよ」
セイラは「ミコちゃん、カッコよすぎー」と嬉しそうだ。
みんなの反応と、ロイの微妙な表情で、ミコトはまたやらかしてしまった事に気がついた。
こういう時は、マリーの意見に従うといい。
リントやセイラは面白がるし、キダンは論外だ。
「えーと、ロイ、怖い、守って?」
ロイはガックリと肩を落とした。
「守るよ。守るけど、何か違うんだよ!」




