9.ロイの処刑
「お前は大バカだ!」
お馴染みの政務棟の会議室で、アレンはロイに向かって言った。
「はい、私は大バカ者です」
ロイはあっさり認めて、ぺこりと頭を下げる。
「認めるなよ〜。責めがいがないだろう?」
アレンは机に突っ伏した。
カイルとゼノマは苦笑する。
「これでも反省してるんです。ケガさせないつもりだったのに、ぶん投げちゃったので」
2時間ほど前に模擬戦は終了したが、投げられた時に椅子の角で頭を強打したミコトの気絶、観客数人の軽傷、そして聖女の大激怒…と、結果は散々であった。
「模擬戦を提案したのは私だからな。ロイの責任にはしないさ。でも、そんなに手加減しにくい相手だったか?」
アレンは顔を上げてロイにきく。
「まぁ、リントが10歳の時よりは強いかな…」
「確かに子どもにしてはいい動きだったな。護衛だと言うのも納得だ」
カイルはうんうんと頷く。
「俺が未熟なんですよ。急所を2回も狙ってきたので、ちょっと腹が立ったというか…。すみませんでした」
騎士団では、急所攻撃は暗黙の了解で誰もやらない。
でもミコトは騎士団員ではないし、模擬戦のルールにもあげていなかったので、違反ではないのだ。
それなのに、観客席に投げるなんて、未熟としか言いようがない。
ロイが珍しくしょげているので、アレンは慌てて言った。
「救護班の話だと、ミコトは気絶しているだけで、そのうち目を覚ますだろうと。観客のケガも、打ち身、擦り傷程度で、大した事はない」
「でも聖女の怒りは…」
ゼノマはおずおずと口を開く。
「なんか、物騒な処刑方法を提案してきてたな」
カイルは思い出しながら、苦笑する。
「俺、処刑ですか…」
「いやいやいや、お前を処刑したら暴動が起こるわ! 聖女の事は、もう話がついているから、気にしなくていい!」
アレンはキッパリと言う。
「話をつけた? いつだよ?」
カイルはアレンに詰め寄る。
「いや、マリーがな…」
「ああ、孫のマリー、聖女の筆頭侍女になったそうだな」
「そう、そのマリーがな、聖女に、『ロイには、この国で一番重い罪の、北の大地流刑を言い渡しましょう』と進言してくれてな。聖女はそれで了承してくれたんだよ」
北の大地は、魔物が生まれる森の入り口すぐ近くにある拠点だ。
寒いので行きたがる騎士は少ないが、聖女の祈りで弱まった魔物をバンバン倒せるため、戦闘好きな一部の騎士たちからは絶大な人気を誇る騎士団の勤務地の一つである。
もちろん、北の大地流刑などという処罰は存在しない。
「え! 俺、北の大地に行っていいんですか!?」
ロイはしょげていた顔を輝かせた。
「仕方ないだろう! 本当はロイにはやってもらいたい仕事や、嫁探しも、いろいろあったのだが…」
アレンは頭を抱えながら悔しそうにしている。
仕事(おそらく事務仕事)や嫁探し(全然興味ない)など絶対にやりたくないロイは、思わずバンザイをしてしまっていた。
「ロイがいないと騎士団も大変なんだが、仕方ない…か」
カイルも溜息まじりだ。
「今回の聖女は、なかなか手強いですな」
ゼノマもふぅっと息をはいた。
「結局、聖女の護衛は、ミコトでいいって事ですね?」
ロイは楽しそうにきく。
「いや、ミコトの目的がまだ分からんだろう。しかもあれだけの実力なら無警戒という訳にもいかん。だから最初の計画通り、稽古をつける名目で探りを入れる。問題がなさそうなら、リントと2人体制で聖女の護衛にあたらせる。という感じだな」
アレンはロイを睨みつけながら、「稽古もリントだけでやってもらう!」と付け足した。
「リントなら大丈夫ですよ!」
全ての面倒事から解放された!
リント、頑張れよ! とロイは心の中でリントにエールを送るのだった。
と、その時、会議室のドアがコンコンッとノックされた。
「救護班のシーマですが…」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
騎士団救護班のシーマが入ってくる。
シーマは30代の男で、救護班の班長をしている。
「報告します。ミコト様が、先程、目を覚ましまして…」
「それは良かった。では、ちょっと様子を見に行くとするか」
アレンとカイルとゼノマが席を立とうとすると、シーマは、「待って下さい!」と3人を止めた。
「ミコト様は、頭を打って記憶が混濁していたようで、先程まで両親のことを呼びながら泣きじゃくっていたんですよ。今はマリーさんを呼び戻して、様子を見てもらってますが…。ですので、こんなオッサン大勢で押しかけて来るのは本当にやめてください」
「オッサンって…」
アレンたちオッサン3人組は、シーマの言い方に愕然とする。
どうやら、シーマは少し怒っているようだ。
「私にも同じ年頃の子どもがいますけどね、あの歳で両親と別れて異世界に来て不安でいっぱいのところに、模擬戦で投げられるとか、本当に意味が分かりませんよ。自分の子が同じ目に遭ったらと思うと、本当に…」
シーマは模擬戦を見ていないので、ミコトが結構強かった事を知らない。
とはいえ、シーマの言う事は至極もっともである。
ロイは席を立った。
「あの、俺1人で様子見に行きますよ。さすがに謝りたいので」
北の大地行きで浮かれている場合ではない。
ロイ自身、8歳で騎士養成所に入った時は、寂しくてよく泣いていた。
セタ兄が慰めてくれたので何とか続けられたのだ。
「ああ、そうだな。それがいい」
アレンはそう言うと、椅子の横に置いてあった木箱をロイに手渡した。
「何ですか、コレ」
「町にある、月見屋という宿屋の名物デザート、アップルパイだ」
アレンはドヤ顔をして言う。
「アップルパイ…」
「は? 何故今アップルパイ?」
カイルもゼノマも不思議そうにしている。
「いや、マリーがな、聖女をとりなした報酬として要求してきてな。だから、ミコトのところに行くのなら、ついでにマリーにそれを渡してきてくれないかなーと…」
アレンは、カイル、ゼノマ、ロイ、シーマの冷たい視線を感じとって、目を背ける。
「まぁいいですよ。北の大地行きに恩がありますからね」
ロイはアップルパイを持って、シーマと共に会議室を出たのであった。




