89.重要な打ち合わせ①
ミコトとロイがケンカして仲直りをした次の日の朝7時、リントとキダンの部屋で打ち合わせをする手筈となった。
もちろん、打ち合わせ前に、ミコトとロイは全員に平謝りである。
セイラは完全に熟睡していたが、大事な打ち合わせなので、ミコトに叩き起こされ、ミコトの横で何とか起き上がった姿勢を保っている。
テーブル周りの椅子に、ロイとリントとキダンが座り、ソファにミコトとセイラが並んで座り、向かい合わせでマリーが座った。
このメンバーでこの座り方、以前とよく似ている。
「まず、キダンさんから、昨夜の報告をお願いします」
ロイはキダンに話を振る。
ロイが進行役なんて珍しい、とミコトとマリーは目配せをして頷く。
リントとキダンは、このロイをよく知っている。
議題と関係ない話をすると、容赦なく威圧してくるロイである。
「えーと、ヤトラ君とカラスに行った報告ね」
キダンは、なるべくふざけない様にしようと話し始めた。
「結論から言うと、ヤトラ君もいたし、あまり進展はしてないよ。チェコさんに店名の由来を聞いたんだけど、よく分からないって言ってた。ただ、お店は、チェコさんのお祖父さんが創業者だって」
それなら、お祖父さんがカラスと名付けたという事か。
全員が、お祖父さんはさすがに生きてないかと頷く。
「キダンさんから見て、チェコさんは、どうですか? 女性としてじゃなくて」
ロイの質問に、キダンは苦笑した。
女性としてのチェコなら、いくらでも語れるのに、と。
「創業者の孫で、間違いなく経営者側なんだよね。でも、悪意は汲み取れない。僕の希望かもだけど…」
キダンは目を伏せる。
ロイは「ヤトラさんは、どうですか?」と言った。
キダンは首を傾げる。
「え? ヤトラ君の行く末、気になるの?」
そういえば、ヤトラは彼女を探しに行ったのだ。
ミコト的には、若干気になる。
ロイはふっと笑う。
「それも気になるんですけど、ヤトラさん、全然無関係じゃないですよね」
キダンは目を見開いた。
「ロイ君はヤトラ君を疑ってるの? 僕が知る限り、彼は実直で嘘をつくような男じゃ…」
「いえ、疑ってはないです。ヤトラさんは、本当にいい人だと思います。すみません、先に聖女の絵の話をした方がいいですね」
ロイはキダンに謝ると、ミコトに向き直った。
「ミコト、聖女を起こしてくれる?」
ミコトがセイラを見ると、ミコトにもたれかかって、スヤスヤと寝ている。
「あっ! また寝てる! セイラ、起きてって!」
「ううーん、ミコちゃん、ちゅーしてー」
全員がぎょっとして、ミコトを見る。
「ちょ、ちょっと、そんな事したことないじゃん! セイラってば!」
ミコトは、違うからとばかりに手を横に振って、セイラの肩を揺さぶる。
「んあ? ミコちゃん、おはよー」
セイラはやっと目を開ける。
ミコトはポケットからハンカチを出して、セイラのよだれを拭いた。
「ほら、打ち合わせ中だよ」
「そうだったー」
これがこの世界の憧れと信仰の的の聖女なのか、と全員は溜息をついた。
「えっと、今から見せる絵は、ヤトラさんの先祖の絵描きの方が描いた、初代聖女の絵なんだけど、聖女、あの事って、言ってもいいよね?」
ロイはセイラに言う。
あの事? とミコトはロイとセイラを見比べる。
「ミコちゃんは、特別だからね!」
セイラは何故か自慢げに言う。
「やっぱりロイ君、何か知ってたんだねー」
キダンは苦笑している。
ロイは立ち上がると、ソファのローテブルに絵を開いて置いた。
リントとキダンも立ち上がって絵を覗く。
「え、ミコト?」
マリーが驚く。
「本当だ。ミコトに、似てる…というか、そのまま?」
リントも驚いたように呟く。
「これ、僕が写したの! 上手いでしょ?」
キダンは得意げに言う。
「着物だ…」
ミコトはポツリと呟いた。
「この衣装、知ってるんだね」
ロイの言葉に、ミコトは頷いた。
「私のいた世界の、日本っていう国の、伝統的な服で、着物っていうの。私も七五三の時に着たことがあるくらいだけど…」
やっぱり、初代聖女は日本人だったのだ。
それにしても、ミコトに似ている。
「ミコちゃんはねぇ、初代聖女の子孫なんだよー」
セイラは絵を見ながら、うふふと笑う。
「ええっ!?」
セイラとロイ以外が、大きな声を出す。
「え、じゃあ、ミコトちゃんも、聖女の力があるの!?」
キダンの質問に、ミコトは大慌てで首を横に振った。
そう考えるのが、普通なのかもしれないが、そもそも、聖女自体、普通の女の子なのだ。
どう説明したものか…。
「聖女の力は遺伝じゃないのだよ、マリーパパ。このミコちゃんにそっくりな人も、元の世界では普通の女の子なんだよ」
「マリーパパ…」
キダンはセイラの説明よりも、マリーパパに驚いたようだ。
「ちえこさんっていうんだ。初代聖女の名前…」
ミコトが呟くと、今度は全員が「ええっ!?」と言う。
「ミコト、何で分かるの!?」
ロイも驚いている。
「あ、ここに書いてあるから、読んだだけ…」
ミコトが指を挿した箇所に、漢字で千枝子と書いてある。
ちょうど、紙の右下辺りだ。
「そっか、コレ漢字だ。私の世界の文字だ。ね、セイラ」
「私は漢字苦手ー」
セイラは日本語が苦手なので仕方ない。
ミコトはふふっと笑う。
「キダンさん、ここまでちゃんと写すのすごい…」
ミコトがキダンを見ると、キダンは青ざめている。
「ちえこ…、チェコ…」
キダンの呟きに、ミコトも、ロイもリントもマリーも、あっ!と言った。
「偶然とは思えないな」
リントが言うと、マリーも頷く。
「チェコさんの名前も、お祖父さんがつけたのかもしれないわね」
黒髪だったから、そう名付けたのかもしれない、とミコトも頷く。
「第4は、初代聖女の縁が深そうだね」
ミコトの言葉に、ロイもリントもマリーも頷く。
キダンは、言いにくそうに、「聖女ちゃんさ」と口を開いた。
「答えたくなかったら、その、言わなくていいんだけど、聖女ちゃんって、子どもが産めたりするのかなーって…」
「お、お父さん!」
キダンの質問をマリーが咎める。
確かに、この質問は、日本だったらセクハラである。
「産めないよー。そもそも、そういう機能がないし」
セイラは、全く気にせず、あっさり答える。
「あ、マリーパパは、チェコさんが聖女の子孫かと思ったんだ? それは絶対ないかな」
「あ、うん、そう。もう、マリーパパでいいか…」
キダンは微妙な顔で、チラッとミコトを見る。
セイラはその視線で全てを悟った。
「あー、ミコちゃんは、聖女じゃないから、多分産めるよ。ちゃんと避妊を…。あ、でも、ミコちゃんの赤ちゃんは見たいかも。ミコちゃん、5年の間に、赤ちゃん産んでよ!」
何てことを言い出すのだ。
ミコトの顔が、かぁっと赤くなる。
セイラは気にせず、マリーを見る。
「マリーの赤ちゃんも見たい! マリーも産んで…」
「ちょっと、セイラ!」
ミコトはセイラの口を手で塞ぐ。
マリーの赤ちゃんならミコトも見たいが、さすがに勝手に赤ちゃんが出来たりはしないのだ。
マリーはクスクス笑う。
「考えておくわ」
さすがマリー、余裕の返答である。
リントを見ると照れて下を向いているし、キダンはリントを睨んでいる。
ロイはミコトの頭にポンと手を乗せた。
「こっちも考えておくとして、ちょっと話をまとめようか」
え? 考えておくの?
再び赤くなるミコトにお構いなしに、ロイは話し始める。
「いろいろ情報が出たけど、話をミコトを狙うのは誰か、ということに絞るね」
全員が頷いた。
とりあえず、闇組織の話は後、という事らしい。




