86.ずっと側にいる
第4エラルダ国での、聖女の教会での祈祷とパレードは、予定通り滞りなく進み、夕方4時頃、無事に何事もなく終えることが出来た。
国立宿泊所に戻ってきた時には、ミコトとセイラとマリーとロイとリントは、グッタリしていた。
「ロイさんが疲れてるの、珍しいですね」
騎士服の首のボタンを緩めながら、リントが言った。
「いや、人が多すぎて…。あんなに聖女人気がすごいとは思わなかったよ」
ロイも騎士服の首のボタンを外す。
「そうなんだよ! セイラの人気は、スッゴイの!」
何故かミコトが自慢する。
当のセイラはミコトの背中でグッタリとしている。
「とりあえず、着替えましょう。また、1時間後にね。それから夕飯を一緒に…」
マリーがテキパキと指示をして、ロイとリントはリントとキダンの部屋へ、ミコトとセイラとマリーはセイラとマリーの部屋へ入っていった。
これで、第4エラルダ国での巡礼は終了だ。
いつもなら、明日の朝、帰国の途につくのだが、ミコトとロイは、別行動で、セタの実家に行く事になっている。
ミコトはセイラとお風呂に入り、着替えをすませた。
以前も着ていた、白いふわふわのワンピースだ。
「ミコト、ちょっといい?」
マリーに手招きされて、ミコトは鏡台の前の椅子に腰掛ける。
セイラはベッドで寝そべっている。
マリーはミコトの後ろに立ち、ミコトの髪をタオルでそっと拭く。
「私がこんな事言うのも、本当におこがましいのだけどね…」
ミコトは鏡越しにマリーを見つめる。
マリーは目を伏せている。
「ロイがセタさんに会う時、ロイの事を支えてあげて欲しいの…」
マリーがロイを気にしている事自体、とても珍しい。
「ロイはやっぱり、セタさんとは会いづらい感じなんだね…」
セタの病状が重いのか、2人に何かあったのか、それは分からないが、会いに行けるのなら、とっくに行っているだろう。
「そうね…」
マリーは弱々しく微笑む。
ミコトは大きく頷いた。
「うん、支える。ロイの側にずっといるよ」
マリーも頷いた。
「ありがとう、ミコト」
ミコトは、ロイの側にずっといる、という言葉を心の中で復唱していた。
今朝、夢と勘違いしていたとはいえ、ロイに「いなくなるね」と言ってしまった。
ロイは青ざめていた。
あんな言葉、ロイから言われたら、ミコトだって青ざめる。
いや、号泣かもしれない。
結局は、ミコトは自分が傷つきたくなくて、物分かりの良い妻のフリをして、ロイを傷つけたのだ。
ミコトは鏡台の椅子から立ち上がった。
「私、ロイのところに行ってくる」
マリーは「え? あと30分もしたら会うわよ?」と首を傾げたが、ミコトは首を横に振った。
「とりあえず、行ってくる!」
ミコトはドアを開けて出て行き、隣りの部屋のドアをノックする。
ドアはすぐに開き、ロイが出てくる。
「どうしたの? 何かあった?」
ロイはお風呂から出たばかりのようで、上半身裸で、髪が濡れている。
ミコトは、お風呂上がりのロイの色気にやられそうになるのを、必死で堪えた。
「あ、あのね! えっと、今朝、いなくなるって言ってごめんね。あれは嘘で、本当はずっとロイの側にいるの!」
裸のロイを直視出来ず、ミコトは顔を背けたまま、早口で言う。
「そ、それだけです!」
ミコトはダッシュで部屋に帰ろうとしたが、腕を掴まれて、後ろからロイに抱きしめられた。
これは、バックハグ!?
しかも、裸バージョン!!
「ありがとう、ミコト」
ロイの声が耳元で聞こえる。
ミコトは必死で頷いた。
ミコトの足がふわっと浮く。
何抱っこかよくわからないまま、部屋に入れられて、ドアがバタンと閉まる。
この部屋は、ロイとミコトの部屋だ。
なんか、捕まった!?
そのまま、今朝2人で寝ていたベッドにそっと寝かせられる。
「あと、30分あるね?」
ロイの言葉に、ミコトの顔は真っ赤になった。
ロイはふっと笑った。
「ごめん、変な事はしないよ。ちょっと2人になりたかっただけ」
からかわれた!
ミコトは顔を手で覆った。
ロイは部屋に置いてあった荷物の中からシャツを出して着る。
裸バージョンが終了してしまった。
ちょっと残念な気もすると思いながら、ミコトは体を起こした。
ロイはミコトの隣に腰掛ける。
「俺さ、ミコトがいなくなるって考えるだけで、怖いんだ。だから、ずっと側にいるって言ってくれて、本当に嬉しかった」
ミコトはうつむいた。
考えなしに、いなくなるなんて、言ってはいけなかった。
「ミコト、ずっと側にいてね」
顔を上げると、ロイの青い瞳がミコトを見つめている。
「うん。ずっとロイの側にいる」
ミコトも見つめ返す。
ロイは微笑むと、ミコトから目線を外した。
「30分か…」
どうやら、またミコトをからかうつもりらしい。
先程までは、裸のロイに動揺しまくりだったが、服を着てるのなら、引っかからない!
「30分あるね!」
ミコトは、余裕だからね! という表情でロイを見る。
ロイはニッコリ笑った。
「じゃあ、できるところまでね」
できるところまでって、どこまで!?
ミコトはサッと構える。
「えー、それじゃあ、試合だよー」
ロイは呆れながも笑った。
「私はロイと試合ならいつでも大丈夫だよ!」
「思っていた展開と違うなぁ」
ロイは、ずっとミコトが側にいれば、とても幸せだろうな、と思っていた。




