85.いつ寝てるの?
地図に示されたお店は「サロン・カラス」という名前で、お店の女性と楽しく話をしたり、お酒を飲んだり、同意があれば、お店の個室で…という、ミコトが考えていたよりも、一歩踏み込んだお店だった。
1階は店舗で、2階は従業員の仮眠や食事のスペースだが、2階には壁に囲まれた謎のスペースがある。
お店は無理に接客している女性店員はおらず、女性店員の年齢は20〜30代中心。
料金も想定内の価格。
キダンを接客した女性は、普段は裏方だというチェコという50歳くらいの黒髪スレンダー美人。
お酒に強く、会話も心地よかった。
お店の女性たちを「私たちの娘」と言うあたりから、経営者側かもしれない。
「そんな訳で、殆ど何も分からなかったんだ。僕は今夜も行こうと思ってる。ヤトラ君と一緒にね」
ミコトとマリーは、ヤトラ君が分からず首を傾げたが、ロイとリントは「ヤトラさん?」と驚いた。
キダンはニッコリ笑う。
「若くて胸の大きい女の子が結構いたからね」
ミコトは、ユーリのところで話していた件か、と思ったが、マリーは嫌悪感をあらわにしている。
「ヤトラさんに、その、そういう女性を?」
リントは腕を組んで、言いにくそうにキダンにきく。
キダンは真面目な表情になる。
「彼女たちは、そういう女性ではないよ? というか、世の中の女性は、みんな魅力的で素敵なんだよ。ただ、生きていくために、選ぶ仕事がいろいろってだけ」
ロイとリントは目を伏せ、ミコトとマリーは顔を上げた。
キダンさんはどういう人なんだろう、とミコトは思っていた。
いいかげんで、女好きで、人に迷惑ばかりかけている、という話を聞いているが、それだけではない気がする。
さっきは壁を叩かれて怖かったが、何か事情があるのかもしれない。
「俺も行った方が…」
「ロイ君は、今夜はとりあえずいいよ」
ロイはキダンにあっさり断られて、黙った。
「チェコさんに会いたいだけだから、危ない事をするつもりないし、今日はパレードあるでしょ? 人も多いだろうし、ミコトちゃんを守ってあげなよ」
「もちろんミコトを守りますが、パレードは昼間なので…」
ロイとキダンの会話を、ミコトが首を傾げながら聞いてるのを見て、マリーは「どうかした?」とミコトにきいた。
「あ、うん。ロイっていつ寝てるのかなぁって思って…」
ミコトが小声で答えると、「それ俺も知りたい」とリントも小声で言う。
ミコトたちの会話が聞こえたようで、ロイとキダンは話をやめた。
「僕も気になるー! どうせ昨夜もミコトちゃんの寝顔を見てただけで、寝てないんでしょ?」
キダンのからかいに、ロイはたじろいだ。
「ずっと見てた訳じゃないですよ! 俺だって、時々は寝ます」
「時々って?」
ミコトが聞き返すと、ロイは頷いた。
「10日に、2〜3時間くらいは…?」
ロイの回答に、全員ドン引きした。
「人間じゃないわ…」
マリーが言う。
「寝ないで何してるんですか?」
リントは素朴な疑問を口にする。
「予想以上でドン引き!」
キダンは笑顔だ。
「今度寝るとき、教えて!」
ミコトは左手でロイの腕を掴んでお願いする。
「な、なんで?」
寝顔を見たいから、とは言えない。
「ここでは、ちょっと…」
ミコトは顔を赤らめて、目を伏せる
これは、計算なのだろうか、とロイは両手でミコトの頬を挟む。
「気になるなー」
「んー!」
いちゃつき出したロイとミコトを、マリーとリントとキダンは白い目で見る。
一体誰のせいで、こんなに早朝の打ち合わせになっているのだ、と。
「あー、カラスの件なんだけど…」
キダンはコホンと咳払いをする。
全員、キダンに注目する。
「チェコさんに店名の由来をそれとなく聞いてみるよ。異世界の鳥の名前からなんて、言わないとは思うけど…」
キダンはうつむきながら言う。
ミコトの事を気にしているのかもしれない。
「キダンさん、私とセイラの世界の事で、ちょっとでも気になる事は言いますね!」
キダンはふっと笑う。
「ミコトちゃんが年上だったら、口説いてたなぁ」
「ちょっと、キダンさん!」
ロイはキダンを制したが、その顔は笑っている。
アレンもキダンもマリーも、この家系は口が上手なのだ。
「じゃあ、俺たちは聖女の祈祷とパレードの準備をしますか。ミコト、そろそろ聖女を起こしてよ」
リントに言われて、ミコトはセイラの頬をペチペチと叩いた。
朝のセイラを起こすのは、一苦労なのだ。
「セイラ! 起きてー! もー、こんなに騒がしいのに、よく寝られるね」
お前もな、とリントが小声で言っていた。




