82.会食後の打ち合わせ
会食後、調査から帰ってきたキダンを含めて、国立宿泊所のリントとキダンの部屋で、全員で打ち合わせをすることになった。
が、打ち合わせの前に、案の定、ロイはリントに注意を受けていた。
「ロイさん、公式の場で、イチャイチャはやめて下さいよ!」
「食べさせていただけで、イチャイチャはしていない」
ロイの中では、アレは、業務に入るようだ。
リントは頭を抱えると、ミコトを睨んだ。
「ミコトも! 左手で食べればいいよね? 何、流されてるんだよ!」
リントは、ロイに言っても無駄だと理解したようだ。
「左手で食べた事ないよ!」
ミコトが反論すると、リントは腰に携帯しているナイフを鞘ごとミコトの左手に乗せた。
「左手でナイフは使えるよな?」
「うん! 剣もナイフも、左手でも使えるよ! 二刀流に憧れて練習したから!」
ミコトはナイフを鞘ごと振り回して、ハッとなった。
「左手でも、食べられる!?」
「この、バカップルがっ!」
リントに一喝されて、ミコトはしゅんとなった。
ロイはそんなミコトの頭を撫でる。
いや、ロイのせいだからね。
「リント君、多分大丈夫だよー」
キダンは苦笑しながら、リントに言う。
「ユーリさんや、その知人に聞いたんだけど、第1の国家特別人物夫妻の不仲説、かなり広まってるんだよ。急な結婚だったし、歳の差があるし、結婚式は遅れて始まるし、披露宴には新婦いないし、でね。その上、ミコトちゃんを放っておいた事実と、往来でのケンカがあるしね」
これだけの証拠があると、確かに不仲としか思えない。
「だから、今日の食べさせる行為も、普通の、真っ当な人なら、絶対にやらないでしょ? かなり演技っぽく見えたと思うよー」
キダンの、普通の真っ当な人なら絶対にやらない行為という言葉に、ロイは「えっ?」と言い、リントとマリーとセイラは、確かに、と頷いた。
ミコトだけは、あれ? と首を傾げる。
「私たち、世間的には、不仲と思われていた方がいいの?」
カーサとのお茶会の時に、確かにそう振る舞ったけど、第4でもそれが必要なのだろうか。
「ミコトちゃん、女の嫉妬ってね、怖いんだよー」
キダンはミコトを見て、ニヤリとする。
「ロイ君は、どの国でも大人気なイケメン国家特別人物なんだよ!」
確かに! とミコトは頷く。
「そんなロイ君が、田舎の女の子に夢中なんて知れたら、ミコトちゃん、嫌がらせにあっちゃうよ! 不仲だったら、みんな、あーやっぱりねって感じで放置してくれるからさ」
ミコトは、その通りだ、と大きく頷いた。
日本にいた頃も、セイラと仲が良いってだけで、ミコトは嫌がらせを受けたのだ。
「分かりました! 私たち、仲悪いです!」
ミコトは自分の胸を叩いてキッパリ宣言した。
「えー、悪いまで言わなくても…。複雑なんだけど…」
ロイは言いながら、溜息をついているが、その方針に反対ではないようだ。
「ま、まあこの話は、もういいです。キダンさんはどうだったんですか?」
リントはロイとミコトから目を逸らし、キダンを見た。
「地図の場所に行ってみたんだけど、表向きは普通の飲み屋だったよ」
キダンは地図を広げながら言う。
「だから、今晩、ロイ君と飲みに行こうかと思ってね」
ロイはキダンの誘いに頷いた。
「リント、悪いけど、こっちの事は頼むね」
「了解です」
リントもロイに向かって頷く。
ロイはミコトに向き直った。
「ミコト、何かあったら、絶対に俺を呼んで。必ず行くから、無茶はしないで」
ミコトは、ロイの青い目を見て、頷いた。
「ロイも、無理はしないでね」
ロイも、ミコトの目を見て、頷く。
「じゃ、早速行こうか!」
ロイとキダンは、準備もそこそこに、2人で部屋を出て行った。
部屋に、ミコトとセイラとマリーとリントの4人になったところで、無言だったマリーが口を開いた。
「ミコトとセイラは、私たちの部屋に帰って、遊んでいていいわよ?」
マリーの言葉に、ミコトとセイラは、ハッと表情を変えた。
「う、うん! セイラ、行こう!」
「分かった! 存分にやっていいよ!」
ミコトはセイラに「やってとか言わないの!」と小声で言うと、セイラの手を引っ張って出て行った。
マリーは2人の足音が隣の部屋に入る音を聞いてから、鍵を閉める。
「マ、マリー…?」
マリーはリントを見て、ニッコリ笑った。
「リントもお父さんも、下手すぎて全部分かっちゃったじゃないの。ちゃあんと説明してもらおうと思ってね?」
リントは、ガックリと肩を落とした。
「あ、そっちか…」
マリーはリントの目をじぃっと見る。
「ちゃんと話してくれたら、そっちじゃない方も考えるわ」
「いいの? そんな事言ったら、本気にするよ?」
リントも見つめ返す。
マリーはふふっと笑った。
「もう、教えてくれる気なのね」
「まあ、さっきは、しまったって思ったからね。ミコトが鈍感で良かったよ」
2人はソファに隣り合って座った。
「あれは、鈍感というか、自分は好かれなくて当然という自信よね…」
マリーの言葉に、リントも頷く。
「ミコトは、そういうところあるな。ソマイの件にしてもだし、ロイさんに溺愛されているって何故か思っていない」
マリーは頷いて、目を伏せた。
「でも、ロイさんに溺愛されているからこそ、命を狙われてしまうんだ…」
マリーはリントの話を聞き終わり、吐き捨てるように言った。
「正々堂々と、ロイを狙いなさいよ!」
マリーの言いように、リントは笑う。
「ロイさんを、やれる気はしないな…」
マリーは、「だとしても」と言う。
「か弱い女の子を標的にするって、人として最低よ!」
「か弱い…?」
リントは、ミコトが団員を打ち倒す姿を何度も見ているので、首を傾げる。
マリーはリントを睨む。
「いや、まあ、そういう訳だから、ロイさんが溺愛しているとバレない方がいいし、でも古代魔法の件もあるから、離婚は出来ないしで…」
「ミコトを守りつつ、調査を進めるのね」
マリーの言葉にリントは頷く。
「ロイも、やっぱり、血に縛られているのね…」
マリーの遠くを見つめる瞳に、リントは胸がざわついた。
「セタさんが、縛られていた、から?」
マリーは遠くを見たまま、「そうね」と呟いた。
リントは、マリーがセタの嫁候補として、前聖女の侍女になったことを思い出した。
おそらく父親の影響で、男性不信と言ってもいいほどのマリーは、セタの嫁候補に喜んでなったのだろうか。
リントがうつむくと、それに気付いたのか、マリーは、リントの肩にもたれた。
「私ね、セタさんに憧れていたの」
「……うん」
セタには、敵わない。
リントが出会った中で、1番強くて、1番綺麗な騎士だった。
ロイも強くて見た目が良いが、天然で素直な性格のせいか、親しみが強く、雲の上のセタとは違っている。
「でも、私の気持ちは、恋じゃなかった」
リントが少し顔を上げると、マリーと目が合った。
「セタさんが泣き崩れて、ロイに殺してくれって言った時、私、怖いって思ったの」
マリーの目に涙が浮かぶ。
「助けたいじゃなくて、怖くて、あの場から、逃げ出したいって思ったの」
「マリー…」
「嫁候補だったのに、最低でしょう? 結局私は、セタさんのことも、ロイのことも、見捨てたのよ」
リントはマリーを抱きしめた。
「それは、見捨てたんじゃないよ」
マリーはリントの腕の中で首を横に振る。
「お祖父様から、次はロイの嫁候補になれと言われた時、死んだ方がマシって断ったのよ」
「そ、そうだったんだ…」
それはそれで良かったような…?
いや、ロイが可哀想か?
「私は、あの兄弟に関わるのが怖くて逃げたのに、ミコトが、ミコトが死んだりしたら、私、もう…」
リントはマリーを抱きしめる腕に力を入れる。
「大丈夫。ミコトは絶対に死なせない。ロイさんが絶対に守るし、俺もミコトを守るから! マリーは何も心配しなくていい!」
マリーはかすかに頷くと、「くるし…」と呟いた。
「ご、ごめん! 力を入れすぎた!」
リントは、慌ててマリーから離れる。
マリーは、何故か、クスクスと笑い出す。
「騎士って、力が強くて、付き合う女性は、大変ね。ミコトも、腰を痛めてるし…」
リントは「あー」と言った。
「俺は、ロイさんほど馬鹿力じゃないから、もう、マリーを痛くしないよ」
マリーは自分の銀髪を耳にかけながら、「ちょっとくらい痛くても、大丈夫よ?」と言う。
リントはゴクンと唾を飲み込んだ。
いや、もう、これは、無理なやつである。
リントはマリーを抱きかかえると、ベッドまで連れて行き、もう一度、しっかり抱きしめた。




