81.会食
尋問を行ったその日の夜、第4エラルダ国の国立宿泊所の中ホールで行われた会食で、第4代表のワカと神官長のストレと第4の国家特別人物のオキナとその妻のエノンは、呆然としていた。
第1エラルダ国代表の名代のマリーの輝くような美しさと、もう、お姫様としか言いようのないセイラの聖女の威光と、いつもより5割増しのイケメンオーラを振り撒いているロイに、呆然としているのは言うまでもない。
と、言いたいところだが、実際は、そのイケメンのロイが、昨日とは打って変わった美少女の妻のミコトに、せっせと食事を食べさせている事に、呆然としているのだった。
「はい、ミコト」
ロイはスプーンに乗せたスープをミコトの口に近づける。
「あ、あの、もう自分で食べますので…」
「その右手じゃ無理だよ」
そうじゃなくて、全員の視線が痛いんです!
確かに、ロイは、食べさせてあげるよ、と言っていたが、まさか本気だったとは…。
いや、ロイは嘘や冗談は言わない。
いつでも本気の天然素直イケメンなんだった。
ミコトは観念して、ロイが差し出したスープを口に入れる。
スープが口からこぼれそうになると、ロイはナフキンでミコトの口元を押さえて、「ちょっと量が多かったかな」と呟いた。
反省点、そこじゃない!
誰か助けて! とマリーとセイラを見ても、あえてこちらを少しも見ようとはしない。
チラリとセイラの後ろのリントを見ると、リントの肩が少し震えている。
会食の主導権、あやふやすぎるよ!
「と、とても、仲がよろしいのですね」
オキナが笑顔を引きつらせながら言う。
第4の国家特別人物のオキナは、グレーの髪の40代の男性だ。
薬草学のスペシャリスト、らしい。
同じ国家特別人物でも、脳筋のロイとでは、話が合わないだろう。
「羨ましいですわ」
妻のエノンは、ふんわりと微笑む。
エノンは30歳くらいだろうか。
明るい茶色の髪に、大きな茶色の瞳。
そして、大きなお腹。
「お腹にお子様が…」
ミコトが思わず口に出すと、エノンは「ええ」と微笑んだ。
「わたくし、先日の国家特別人物懇親会につわりがひどくて伺えず、第4にロイさんとミコトさんがいらっしゃっていると知って、今日の会食に無理に同席させていただいたんです」
エノンは、懇親会にはいなかったようだ。
ミコトは心底ホッとしていた。
妊婦をロイの力で押し潰していなくて、本当に良かった。
「わたくしも、お会いできて嬉しいです」
ミコトもニッコリと微笑む。
「はい、ミコト」
ロイは、反省点を活かした、少なめのスープを乗せたスプーンを、ミコトの口に近づける。
少しは空気を読んでほしい。
でも、公式の場で、旦那様を叱りつける訳にもいかない。
何より、ロイのイケメンオーラに、ミコトが勝てる訳がない。
ミコトはスープを飲む。
今度はこぼれないのを見て、ロイは小さく「よし」と言った。
何にもよくない!
これ、ずっと続けるの?
ミコトが下を向いたタイミングで、マリーがコホンと咳払いをした。
「ワカさん、今日は尋問の件、ありがとうございました」
ワカは、マリーに話しかけられて、顔を赤くする。
「いいえ、いいえ! 何かわかりましたでしょうか?」
マリーは目を伏せて、ふぅ、と息を吐いた。
「調書にもある通り、詳しいことは何もわからなかったんです」
ワカだけでなく、会食にいた全員が、マリーに釘付けになる。
「ですが、このような申し出に対応していただいた事、深く感謝しております。今後ともよろしくお願いいたします」
頭を軽く下げるマリーの仕草に全員がうっとりする。
「も、もちろんですよ。マリーさんのためなら、何でも…」
ワカは、すでにマリーに落ちているようだ。
ともかく、関係性を保つのには、成功してると言える。
ミコトは、運ばれてきた肉料理に目を落とす。
自分でナイフで切らないと食べられない大きさである。
ロイを見ると、任せて、とばかりにナイフを構え、肉を切り出した。
食べさせるのは、続くのか…。
ミコトは覚悟を決めたのであった。




