76.尋問の権利
第4騎士団の応接室で、ロイとキダンは、リントから襲撃の詳細を聞いていた。
その間、ミコトは、マリーに涙を拭いてもらい、セイラに頭を撫でてもらっていた。
「どうしても尋問に加わりたい、いや、もっと言えば、こちら主導で行いたいんですよね。それで、ミコトが呼べば、ロイさん来るかもしれないと思って、試してもらったんですよ」
「そういう事か…」
リントの説明に、ロイはミコトを見ながら呟いた。
顔を上げたミコトとロイの目が合う。
ミコトはサッと目を逸らす。
ロイとリントは溜息をついた。
「ミコト、誤解のない様言っておくけど、ロイさんもこの能力は知らなかったんだよ」
ミコトは目を逸らしたまま、「わかってるよ」と言う。
ただ、ロイはもしかしたら、心まで読めてしまうのではないかと思ってしまい、ひたすらどうしていいのか分からないのだ。
「心までは読めないから、安心して?」
ロイの言葉に、ミコトは「読んだぁ!」と叫ぶ。
「タイミング悪っ…」
セイラとマリーが呟く。
リントは、ロイとミコトの間に、文字通り、入った。
「ちょっと、夫婦喧嘩は後にして下さい。とりあえず今は尋問の方をお願いしたいです」
ミコトは、ぐっと黙った。
確かに今は、そんな場合ではない。
「こういう時は、年長者の僕に任せてよ!」
キダンは立ち上がると、荷物から書類を取り出した。
「ロイ君は国家特別人物だから、尋問に加われるかもだけど、ロイ君だけじゃ心配でしょ?」
キダンの出した書類を見ると、第1エラルダ国の代表の名代の書面、臨時尋問部員の書面などがある。
「まず、マリーを代表の名代にしてー」
「ええっ!」
キダンの言葉に、マリーは驚く。
「名代は、お父さんでいいじゃない!」
キダンはニヤリと笑う。
「お父さんは、各国で悪名が知れ渡っているんだよー。誰からも信用ないんだ」
キダン以外の全員が、溜息をついた。
「そんな訳で、代表の名代がマリーで、ロイ君とミコトちゃんは国家特別人物夫妻だからそのままで、リント君を臨時尋問部員にして、聖女ちゃんは聖女だからいいよね」
キダンはさらさらと書面を仕上げていく。
「あの、これって、偽造文書では…?」
ミコトがきくと、キダンは「そうだよー」と軽く答えた。
「僕は割と何でも得意なんだけど、一番得意なのは、文書の偽造なんだ」
キダンのドヤ顔に、全員再び溜息をついた。
「ミコトちゃん、今日の襲撃、攻撃されるまで、気が付かなかったでしょ?」
急に話を振られて、ミコトは驚いたが、確かに気が付かなかったと、頷いた。
「気配を遮断するの、僕も得意なんだけど、コレ得意な奴って、結構いるんだよ。ロイ君もリント君も出来るよね」
ロイとリントは顔を見合わせてから頷く。
「2人が使ってるの見た事ない…」
ミコトが呟くと、キダンは「そういう事なんだよ」と言った。
「2人には、悪い事をしようという、考えがないんだ。人間、思いつかないことはしないからね」
それなら、いつも気配を遮断しているキダンは何なんだと、ミコトは曖昧に頷く。
「それで、今回の襲撃なんだけど、国立宿泊所になんで? って思ったかもしれないけど、あんなとこ、ちょっと気配が消せれば、誰でも簡単に侵入出来るんだよ」
確かに、そうかもしれない。
「つまり、怖いのは能力ではなくて、悪意を持った人間ってこと」
キダンは「出来た!」と言うと、作成した書面を、全員に見せる。
得意と言うだけある。
早いし、本物と比べても遜色ない。
「これで、上手くいけば、みんなで尋問できるよ!」
キダンの、先程の話は、終わりだろうか。
結局、何を一番言いたかったのだろう。
いつでもどこでも、ミコトは狙われている、ということか、ロイは能力は高いけど、悪意がないから、もっと信用しろということか、悪事を思いつき、実行するキダンは怖い人間だということか。
でも、真面目に聞き返しても、きっと無駄なのだろう。
ミコトは自分の右手を見た。
かなり、強く噛まれた。
しばらくペンが持てないだろう。
自害させてはならないと、それだけしか考えてなかった。
この手を見て、セイラは涙を流したし、マリーは青ざめていたし、ロイも辛そうだった。
「第4の代表をここに呼んでくれるそうです」
いつのまにか、第4の騎士団員と話をつけていたリントが、嬉しそうに言う。
「ロイさんの名前出したら、すぐに連れて来ますって」
ロイは「披露宴で会ったばかりだからなぁ」と言う。
「ロイも役に立つのね」
マリーの言葉に、セイラは頷いている。
「ロイ君は国家特別人物の中でもトップだからね。怒らせる訳にはいかないよー」
キダンの発言の後、順番に発言する決まりだったかのように、全員がミコトを見た。
ミコトは慌ててロイを見た。
「あ、あのね、ロイ。来てくれてありがとう」
ロイはふっと笑うと、「当然だよ」と言った。
「ロイさん! 先日の披露宴では、ありがとうございました」
あれからすぐに、第4エラルダ国の代表である、ワカが、第4騎士団の応接室にやってきた。
ワカは、アレンと同じ、60歳を超えた年齢で、頭はキレイに禿げ上がっている。
「まさか、お見えになっているとは思いませんで…」
「いえ、別件で近くにいたんですよ。急にお邪魔してすみません」
ロイとワカは、4人掛けのソファに向かい合わせで腰を下ろす。
ロイは「実はですね…」と言うと、ミコトに隣りに座る様に促した。
ミコトはロイの隣に座る。
「先程の襲撃で、私の妻が怪我をしたんですよ」
ロイはミコトの右腕をそっと持ち上げて、ワカに見せた。
「え? 怪我をしたのは、聖女の護衛だときいていたのですが…」
ワカは騎士団の制服を着たミコトをじろじろと見る。
「私の妻は騎士団員で、聖女の筆頭護衛をしていますので」
ロイの説明に、ワカはさらにミコトを見る。
おそらく、結婚式で見たミコトと、ノーメイクで泣き腫らした顔の今のミコトが同一人物に見えないのだろう。
ミコトにとっては、かなりツラい状況である。
あまりのいたたまれなさに、ミコトが下を向くと、ロイはミコトを抱き上げて膝に乗せた。
ロイにとってはいつもの行動だが、ワカはかなり驚いている。
「最愛の妻が怪我をしたので、少々、怒っているんですよ」
「ひっ…!」
しかも、ロイから威圧が出ているので、ワカは顔をひきつらせた。
「犯人が許せないんです。こちらで尋問を引き受けたいのですが、よろしいですよね?」
ロイの強引な言いように、ワカはかろうじて首を横に振った。
「い、いえ、我が国で起きた事なので、さすがにそういう訳には…。犯人引渡し時は、代表同士の話し合いが…」
部屋の隅にいたキダンは、ロイの後ろに立っているマリーに目で合図をする。
マリーは頷いた。
「あの、わたくし、第1エラルダ国代表のアレンの孫でマリーと申します。実はお祖父様の名代でこちらに来ているのですが…」
マリーは言いながら、名代の書面をワカに見せる。
ワカは、驚いた顔をして、書面とマリーを見比べた。
「アレンさんに、こんなにお美しいお孫さんがいらしたとは! いや、驚きました!」
ワカの顔は、明らかに緩んでいる。
ミコトへの態度と、全然違うんですけど!?
何度もマリーに美しいと言うワカを、ミコトは睨みつけた。
「そ、そうですね。私とマリーさんが話し合いを設けたということにすれば、いや、でも、尋問員はこちらで…」
マリーにデレデレとはいえ、ワカは全権は渡せないという姿勢を見せる。
「実は尋問員もいるんです。副騎士団長のリントは臨時尋問部員なんです」
マリーに紹介され、リントは軽く会釈をする。
「珍しいですね。騎士団員が、臨時尋問部員とは…」
ワカは疑いの目を向ける。
男性には厳しいようだ。
マリーはニッコリと笑い、リントの臨時尋問部員の書面を提示した。
「リントはとても優秀なんです」
演技なのに、リントは少し顔を赤くする。
マリーは目を潤ませた。
「怪我をした奥様は、私の友人なんです。こんな怪我、可哀想で…」
「マ、マリーさん…」
マリーに泣かれたら、ミコトだってノックアウトしてしまう。
「わたくしからも、お願いいたします」
それまで黙っていたセイラは、満を持して一歩前に出た。
「2人の結婚式でもお話したとおり、ミコトはわたくしの大事な友人です。神に誓って、不当な尋問はしないと約束いたします」
セイラの聖女スマイルに、ワカは目を見開いていた。
「こ、こんなお美しいお二人に頼まれては…」
ワカの中では、美しいのはあくまで二人限定だ。
結局、この後、調書を取るための第4の尋問部員を一人入れることで、尋問の権利を手に入れることが出来た。
尋問は明日の午前中に行うことになり、聖女の教会での祈祷とパレードは、安全を確認した上で、明後日執り行うことになった。
ミコトはロイの膝の上で、一言も口をきくことなく、ただ下を向いていただけだった。




